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FIRST MAGIC
第34話 師匠の使い魔
しおりを挟むがっくりと項垂れる知衣に、クウガは明るく言い放つ。
「なーんてな。勿論冗談だ。」
一瞬の沈黙の後――。
「そんな笑えない冗談言うなーー!!」
知衣の怒声が木霊した。
*
「師の玩具になるのは、弟子の務めだ。」
悪びれる様子もなく威張ってそう言うクウガに、知衣は拳を震わせる。
相手は元侍だし無理かもしれないけど、殴りたい。――仮に殴れたところで、報復も怖いから耐えるけど。
自分が短気だとは思っていなかった知衣だが、この世界に来てからというもの、まだ三日目だというのに確実にキレやすくなった気がする。
俺様なお子様王子だとか、Mの気のあるセクハラ使い魔だとか、目の前にいるむちゃくちゃな老人だとか――知衣からすれば灰汁の強すぎる人達のせいだと思うが。
「で?まさかとは思うけど、私を玩具にするためだけにこんなことしたわけじゃないわよね?」
死なないとしたって、いきなり魂を体からひっぱりだされてはたまらない。
生きた人として間違ってると思うし、感覚はないけど自分の身体がスケスケなのは何だか落ち着かないし。
「うむ。霊視能力のない羽柴でも、その状態なら自分の霊体が視えるだろう?」
クウガの言葉に知衣は頷く。
「霊体って自分の姿をそのまま透き通らせた姿をしてるのね。服まで同じだし。」
服なんていう魂とは無縁と思えるものまで同じというのは、少し意外のようにも思う。
まあ、映画などの幽霊だって、服を着ていることが多いし、霊能力者が視ている霊が真っ裸というのもどうかとは思うけれど。
「霊体の見た目は修業次第でいくらでも変えられるぞ。思い込みの強い人間なら、修業もいらん。
霊体は本人の自分に対するイメージが反映されやすいからな。よほど容姿にコンプレックスのある者か、ナルシストでもなくば、実体がある者なら実体そのものの姿をとるのが一般的だ。」
そういうものなのかと知衣は頷く。
確かに知衣は、コンプレックスがないとは言わないが(色気がないとか童顔とか色々と)、あまり自分の見栄えに拘るタイプでもない。
「話を戻すが、肉体という枷を持たない今の状態は最も魔力を認識しやすく、且つ、扱い易い状態だ。今なら羽柴でも肉体を動かすようにように魔力を動かすことができる。」
「つまり、こうやって手を振ったりして霊体を動かしていることは、魔力を動かしてるってことなの?」
そう言って知衣は、握りこぶしを作った右手をブンブンと振り回してみる。
霊体といえど、肉体と同じように動かす事ができる。まあ、感覚はないのだけれど。
「ああ。特に魔力の動かし方を知らずとも、容易く動かせるだろう?まあもっとも、羽柴は頭が固そうだから、人として有り得ない動きはできないだろうが。」
「有り得ない動き?」
今一ピンとこなくて首を傾ける知衣に、クウガは考えるように目を細める。
「そうだな。例えば、首を360度回転させられるか?」
言われて回してみるものの、首は実体の時と変わらない程度で止ってしまう。痛みはないのだけれど、それ以上は動きそうもない。
「む。確かに無理ね。」
「概念を打ち壊す強い思い込みによる魔力の操作こそが、魔法の基本だ。できるようになって貰うぞ。」
「ようは想像力の訓練をするってことよね。瞑想でもするの?」
「うむ。一般的にはな。だが羽柴のような気概のない人間が瞑想したところで、そうそう強力な想像力が養われるとは思えん。だから、特別な修業方法を考えた。」
そう言ってクウガは、自らの髪の毛を一本引き抜く。そして囁くように言う。
「依り代としてこの髪を。来い、『クロムラー』。」
直後、風船のようにその髪が膨張する!
目を見張る知衣の前で、膨張した髪は、次第に人の形を形成していく。
無造作に結い上げられた漆黒の長い髪。
和服を纏った痩身。
獣のような鋭い眼光。
頬に走る大きな傷。
ヤのつく危険な職業を思わせるような青年だ。
が――。
「はあい♪クウガ様、お呼びですかぁ?」
顔に似合わぬ可愛い声と口調に、知衣は唖然とする。
「はじめまして!私は『クロちゃん』よ。ヨロシクぅ♪」
そう言って、知衣の手を握ってぶんぶんと上下に振る青年――『クロちゃん』の勢いに気圧される知衣に、クウガは言う。
「正式名は『クロムラー』。ワシの専属使い魔だ。」
「つ、使い魔……」
クレアもなかなか厄介な性格に思えてきた知衣だが、これならクレアでよかったと思える。
「クロムラーなんて可愛くないから、クロちゃんって呼んでね♪」
乙女ポーズでそう言うクロちゃんに、多大な精神的ダメージを受けた知衣は、「ハハハハハ…」と壊れたように力なく笑うしかなかった。
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