初冬

杉山 実

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92-05

その質問に凛子は恋人と別れて寂しかったのと答えた。

事実は全く違ったのだが、そう答えるのが自分に対する慰めだったのかも知れない。

俊三46歳、凛子26歳の冬の出来事だった。

「お金を払って私を抱いたら、遊びって割り切れるでしょう?」

「確かにそうかも、、、、、、、」いきなり凛子は俊三の口を唇で塞いだ。

この時まで現実では無いのでは?と思っていた俊三は凛子を女として感じていた。

今度は俊三から凛子の唇を求めていたが、急に凛子が身体を離して「お風呂が一杯に!」そう言って慌てて浴室に向かった。



18年も前の出来事が鮮明に蘇ると、苦笑いを浮かべて搭乗口に向かった俊三。

本当に会えるのだろうか?別れて10年以上経過している。

凛子の上の女の子は確か8歳、下が男の子で6歳だったと記憶している。

時々、周のブログが更新されて見た事が有った。

可愛い時で、もしも本当に凛子の子供で二人を同時に失って居たら、そう思うと思わず目頭を押さえる俊三。

「お客様!どうかされましたか?」乗り込む搭乗口のCAが俊三に声をかけた。

飛行機で気分が悪く成る人が居るので心配したのだ。

「別に!」そう言って機内に入る俊三。

席に座ってしばらくしてCAが飲み物を運んで来ると「花巻空港の地上勤務の周凛子さんってご存じですか?」と尋ねてしまった。

CAは少し考えて「申し訳有りません!知りませんね!」と答えた。

機内は半分程の乗客で空いていたので聞いた俊三。

同じ会社でも人数が多いから、知らない人も多いと思うと飲み物を飲みながら窓の外を見た。



ベッドの上で急に凛子が話し出した。

「青木さんが毎月私と遊んでくれたら、店に出る必要はないのだけれどね!10万程毎月必要なのよ!」

「CAの給料良いでしょう?」

「色々必要で、そんなに残らないのよ!」そう言うと、弟の病気の話から父親が火災で職を失った事を話し始めた。

当初は作り話で情けに頼ろうとしたのかと思ったが「本当はこんなバイトしたくなかった!でも彼氏に弟の件で捨てられたの!」そう言って涙ぐみ始めた。

デリヘルと客の領域を越えて、燃えて居る様に見えた凛子。

その後携帯のアドレス交換をして、凛子は迎えの時間に成って帰って行った。

ホテル代を加えると20万近い散財をしたが、俊三の気持ちは納得の言葉で締めくくった。

(おはようございます!昨日は散財させてしまいましたね。今日は北海道に行かれるのですか?)10時頃lineが届いた。

俊三は一度本社に帰って出直すとlineを返した。

しばらくして(私達合いますね)と送られて来た。

(何がですか?)

(か、ら、だ)と送られて来た。

そう言われてみると、確かに昨夜は久々に燃えた俊三。

それは凛子が若いだけでは成ったのだと、改めて思い出していた。

毎月自分が凛子と会えばバイトをする必要は無くなるが、お金の工面を順子に内緒で出来るだろうか?関西にフライトで来る事も有ると聞いたが、近くで会うのは少し抵抗が有る俊三。



その頃から、順子は知っていたのかな?急に我に返ると結婚式の帰りの言葉を思い出す。

「既に18年も待ったのよ!長かったわ!貴方も元気でね!」

そうだった!確かに順子は18年も待ったと言った。

それじゃあ、最初から知っていたのか?その間も時々夫婦の営みは有った。

別に変わったと思った事は無かった。

最初から知っていてそんなに冷静でいられるのか?

自分は確かに凛子に会う前はうきうきしていたかも知れない。

順子は小学生の翔子の勉強に非常に熱心だった。

自分の事は亭主元気で留守が良い状態の様な気がしていたが、、、、、、

本当はそうではなかったのか?



毎日の様に挨拶のlineが凛子から届いたが、ある日(明日また店に出るのよ!嫌なのだけれど仕方ないわ!)東京で前回会ってから、約一か月が過ぎていた。

そのlineはまるで俊三に対する脅迫状の様な物だった。

俊三の心に言葉が突き刺さる。

障害者の弟の為、失業して今はバイト生活の父親に変わって助けているのは健気で侘しい。

知らない男性の胸に抱かれている姿を騒動すると、耐えられない俊三だった。

夜まで考えて(今月、北海道に出張する!その時会おう!日程は合せる)と送った。

(それって、毎月会って貰えるって思っても良いのね!一度だけならデリの客と同じだから、バイトを続けなければ成らないわ)

そう言われて、はい!と返事が中々出来ない俊三。

しばらくして(そう思って貰って良いよ!)と返信した。

(ほ、ほんと!嬉しいわ!スケジュールを見て北海道のフライト日連絡します)ハートのマークが一杯送られて来た。

俊三は余程嬉しかったのだと、理解したが凛子は翌日店に出て客の処に行った。

断り難い最初の客だったのと、店に悪いと思ったからだ。

結局凛子のデリヘルでの仕事は、合計5日で人数は5人だけだった。

本当にこの仕事は自分には無理だと最初の日に思ったと、のちに俊三に話した。

知らない男性にサービスをする事が出来ないと話した。



その時、突然大きく飛行機が揺れた。

小さな気流に遭遇した様で、シートベルトのランプが点いた。

あの時と同じだ!と思い出す俊三。

凛子と近づいた乱気流、小松空港から福岡空港に向かう飛行機。

この乱気流で、俊三は凛子と再び巡り合える様な気がした。

既に40歳半ばの凛子はどの様に変わっているのだろう?

自分も随分歳をとって、今では髪に白い物が多く成ったと思った。

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