初冬

杉山 実

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     92-011

「課長さんは彼の事ご存じ有りませんよね!私紹介して居ませんよね!」

「話で聞いただけよ!」

「あー驚きました!課長に会って頂いた記憶が無かったから、、、、、、」

「実は先日会ったのよ!」

「、、、、、、、、、、、、、何故?会われたのですか?」恐る恐る尋ねる凛子。

「今月の初め青木さんが貴女を尋ねて花巻まで来られたのよ!」

「何をする為に?10年も前に別れたのに、私の住所も電話も知らない筈ですよ!」

「貴女の事が心配に成って我慢出来ずに来られた様だわ!」

「何故今頃、私の事が心配に成るのですか?私と20歳以上違うから、もう65歳ですよね!」

「よく覚えて居るわね!でも良い方だったわ、森田さんが好きに成るのが判る気がしましたよ!」

「それって何ですか?今頃?もしかして私の離婚を知って来たの?」

「その様な事で来られる方ではないでしょう?貴女が一番知っているでしょう?」

そう言うと新聞をテーブルに置いた須藤課長。

「その記事に驚いて、貴女を探しに来られたのよ!」

横に置かれた新聞を手に取った凛子の顔色が見る見る変わっている。

「その記事を見て、貴女の事が心配に成って飛んで来られたのよ」

凛子の大きな瞳から大粒の涙が零れ落ちているが、拭く気配も無い。

しばらくして「台湾に居たのに、、、、、、」ぽつりと言った。

ようやくハンカチで涙を拭く凛子。

「子供さんが貴女に会いたいとせがまれて、来られた様ですよ!青木さんが周さんの弟さんの話を聞かれた様です」

「咲、文武、、、、、、、、」子供の名前なのか小さく呟く凛子。

「元気を出して、、、、、遺骨は台湾に帰ったそうよ」

「な、何故知らせたのよ!知らなかったら、、、、、、、何も知らなかったら、、、、、、余計な事を!」

「そんな事を言うものじゃないわ!青木さんは貴女が気落ちしていると思って態々慰めに来られたのよ」

「また奥さんと子供に隠れて来たのよ!」

「それは違うわよ!青木さんは奥さんと子供に捨てられたのよ!遠い昔から貴女との不倫を知っていて我慢されていた様よ!娘さんの結婚を機に離婚された様ですよ!今は一人寂しく暮らされている様ですよ」

「私が原因で捨てられたのですか?」

「そうだと思うわ!詳しくは聞かなかったけれど、間違いないと思うわ!」

「私に未練を持って、花巻までやって来たのでしょうか?」

「その様な人ではないと思うわ!貴女の離婚は全くご存じ無いのだから、旦那さんと子供さんを同時に失って哀しみの中に居る貴女を慰めようと、何も考えずに来られたと思うわよ!でも彼が来られて初めて私も事故を知ったのだからね」

「知らない方が良かった、、、、、、、、」悲痛な表情の凛子。

「青木さんも来た事を後悔されて居たわ!新聞記事に驚いて来たが、自分に何が出来るか判らないまま貴女の事が心配で来られたのよ!一時は好きだったのでしょう?」

「遠い昔の話よ、、、、、、、、」

「お礼を言った方が良くない?」

「今更、話をしたくないわ!惨めよ!あの人と別れて台湾人と結婚して、幸せなら良いけれど離婚で交通事故よ、、、、、、自分の子供が異国の地でも元気で、、、、、、、、、、」そう言うと再び大粒の涙を流す凛子。

その後は話が途切れて、凛子は明日両親に会って来ますと言って別れようとした。

須藤課長は「これ、青木さんの連絡先よ!お礼を言うのは貴女に任せるわ」メモ用紙を凛子に渡した。

「ちーちゃん!が可哀そうだったから、諦めたのに、、、、、、、、」

涙目でそう言うと先に店を出て行く凛子。

これ以上須藤課長との話が出来ない状態に成っていた。

ひとりで思い切り泣きたい心境だった。

自分の三年間は何だったの?子供達を忘れる為に海外に行ったのに、永遠の別れが訪れるとは夢にも思っていなかった。

それも子供達が自分に会いたいと頼み込んで、日本に三人で来て事故に巻き込まれた。

元夫の周には何も未練は無いが、子供達には罪は無いと思う。

凛子は最終の東北新幹線に乗り込む。

窓の外の暗闇を見ながら「知らなかったら、、、、、どうなっていただろう?」呟く様に自分に問いかける。

岩手の老人ホームに両親は住んでいる。

既に実家には誰も住んでいないと云うより、住めない状態なのだ。

今夜は盛岡の駅前のビジネスホテルを予約している凛子。

それは当初からの予定に成っていた。

帰国すると両親に会って、先祖の墓参りをする予定。

その後は羽田空港で地上勤務をする事に成っている。

準備期間として一か月の休みを貰っているので、その間に荷物もアメリカから届く事に成っている。

当初は会社の独身寮に住む事も考えたが、結局マンション住まいに落ち着いた。



窓の外をぼんやり見ながら遠い昔を思い出していた。

「私達不倫よね!青木さんが家族を捨てるって事に成ったら、私は略奪婚って事に成るのよね!」

「お金を払っているから、略奪婚には成らないだろう?」

「じゃあ、私は娼婦なの?」

「娼婦?違う様な気がするな!」

「私の事、好き?」

「そうだな!好きと言えば好きだろうな?もう何年だ?」

「今年の秋で7年よ!私も30歳をとっくに過ぎたのよ!」

「凛子は結婚願望有るのか?」

「、、、、、、、、無いわ、、、、」言葉が詰まって区切りをつけた様に答えた。

その時、凛子は青木が自分を好きで、結婚したい気持ちも心の何処かに在った。

でも話はそこで途切れた。

苦笑いの凛子は「今頃何故?花巻まで来たのよ、、、、、、、」

また涙が一筋流れて、子供の事と家族の事を思い出していた。



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