初冬

杉山 実

文字の大きさ
12 / 48

墓参り

しおりを挟む
 92-012
一度は諦めた子供でも何処かで元気で育ってくれたら、それだけで充分だと思って周に預けた凛子。
仕事をする為に仕方が無い事で、不規則な空港の仕事では子育てとの両立は至難の業だった。
真夜中に盛岡の駅前のビジネスホテルに着く。
部屋に入ると、もう凛子は耐えられない。
涙が流れ出すともう止まらない。
「咲!文武!どうして、どうして死んでしまったの?」泣きながら二人の名前を叫ぶ様に言う。
やがて泣き疲れてそのままベッドに眠ってしまった。

翌日アメリカ土産を持って老人ホームに向かう凛子。
70歳を少し越えた両親は事故の後遺症で身体が自由に動かないのです。
自宅の火事で焼け出されて、父は足が不住で母は殆ど寝たきり状態の身体だった。
「お帰り、久しぶりだな!もう日本に居るのか?」父の直之が尋ねた。
「そのつもりよ!これからは時々顔を見に来るわ!」
「そうか、凛子も多少は癒えたか?」
頷く凛子だが、とても両親には子供が亡くなった話は出来なかった。
二人にとっても唯一の孫だから、結婚には大反対されたけれど孫が生まれると可愛がってくれた。
その後親の反対を押し切って結婚した事を凛子は後悔した。
結局離婚で決着が付き、心の傷を癒す為アメリカ勤務を志願したのだ。
だが戻って見ると最悪の結果が待ち構えて居たのだ。

しばらく話した後、凛子は母信子の様子を見る為に向かった。
事故後一命は取り留めたが、意識不明で殆ど寝たきり状態だ。
火事の煙を吸った事が主な要因の様だ。
病室で凛子の姿を見ても殆ど反応が無い状況だ。
「今日はお母さん!帰って来たわよ!」声をかけるが反応は無い。
再び父直之の所に戻ると「お母さん!変化ないわね!」悲しそうに言った。
東京に住んで羽田空港に勤務すると伝えて、これから寺に寄って東京に向かうと告げた。
「そうか、智之も誰も来ないから寂しい思いをしているだろうな!私もお母さんもこんな身体だからな!凛子よろしく頼むよ!」
介護老人ホームを出ると花巻に向かう凛子。
今の両親が事故の事を知ったら、精神的に耐えられないだろうと思う。
花巻の駅前からタクシーに乗ると、垢抜けした姿の凛子はひと際目立つ。
「龍昇寺に行きたいのですが、花と線香を先に買いたいのですがお店有りますか?」
「は、はい!」この運転手が石崎で偶然の悪戯に成った。
「初めてですか?」
「三年振りに日本に帰って来ました!少し変わった様な気がしますね」
「海外でお仕事を?」
「は、はい!アメリカに居ました。今度は東京勤務です」
「田舎がこちらですか?」
「誰も居ませんが、墓が在るので、、、、、、」
車はしばらく走って仏壇仏具店の駐車場に入った。
「確かお供え用の花も置いて在ったと思いますよ!」そう言って石崎はドアを開いた。
しばらくして献花用の花とお供え用の花を抱えて戻って来た凛子。
「どうされたのですか?」驚いて石崎が尋ねる。
「墓参りの後、交通事故の献花する場所が一関インターに在ると聞いたのでそこに連れて行って貰えませんか?」
「交通事故って半月程前のトンネル事故ですか?」
「はい!そうです」
「は、はい」
車が走り始めると石崎は「お知り合いがあの事故で?」
「え、ええ」曖昧な返事をする。
ミラーの顔が今にも泣き出しそうだったので、しばらく話をするのを躊躇う石崎。
凛子は必死で耐えていた。
子供達の顔と弟智之の顔がちらついていたからだ。

しばらくして龍昇寺に到着すると、献花用の花と鞄を残して墓地に向かった。
「ごめんね!ちーちゃん!寂しかったでしょう?」
智之は自宅の火事で焼死していた。
その時、助け様とした両親が巻き込まれて事故に遭ったのだ。
両手を合わせて「ごめんね!咲と文武が行ったでしょう?仲良くしてね!」と語りかける凛子の瞳から大粒の涙が零れていた。

しばらくして、涙が収まって化粧を整えるとタクシーに戻る凛子。
「お待たせしました!一関の献花場にお願いします」
「私もあの事故に巻き込まれたのですよ!」
「えっ、運転手さんも?」
「私はトンネルの外でしたが、長時間動かず困りました!幼い子供さんが亡くなられて可哀そうでした」
「、、、、、、、、、、」
「あの事故の関係者の方、貴女で二人目ですよ!先日は関西から来られた方でした!知り合いのご主人と子供さんかも知れないと、必死で探されて居ましたよ!」
「えっ、どんな感じの方ですか?」
「60半ば位の紳士でしょうか?私連絡先聞いていますよ!」そう言いながら手帳を出す石崎。
「名前は青木さんですね」
顔色が一気に変わった凛子。
「何をする為に来たと?」
「知り合いの女性の旦那さんと子供では?とニュースを見て飛んで来たと、花巻空港に勤めて居る筈だと二度行かれましたね!一緒に事故の車に乗ってない、職場にも居ないと心配されていましたね」
「そう、、、、、、、、、、」そう呟くと凛子は喋らなく成った。
石崎に彼女が探している本人だと知る筈もなかった。
車は高速の入り口に向かって走り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

断罪された薔薇の話

倉真朔
恋愛
悪名高きロザリンドの断罪後、奇妙な病気にかかってしまった第二王子のルカ。そんなこと知るよしもなく、皇太子カイルと彼の婚約者のマーガレットはルカに元気になってもらおうと奮闘する。  ルカの切ない想いを誰が受け止めてくれるだろうか。  とても切ない物語です。  この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。   

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~

水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。 婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。 5話で完結の短いお話です。 いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。 お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...