初冬

杉山 実

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無理難題

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  92-020
しばらくして凛子は戻って来たが、この辺りで自分は帰りますと言って荷物を載せたタクシーの連絡先を望月学長に手渡した。
名残惜しそうに入り口まで見送りに行く学長。
俊三も後を追いかけたい心境だったが、敢えて我慢してグラスのビールを一気に飲み干した。
小杉が「凄い仕事が舞い込んで来ましたね!本社の仕事も一気に増えますよ!」上機嫌で話す。
俊三はそれどころではない、仕事か凛子か選択を迫られた心境で心中穏やかではなかった。
学長は戻ると「彼女40歳過ぎているとは思わないだろう?」微笑みながら言う。
「えっ、彼女40歳を越えているのですか?」小杉が驚きの表情で尋ねた。
「多分今年44歳に成る筈だよ!若いだろう?」
「はい!30代後半に見えますね!女性が一番輝く時ですね」世辞で固める小杉。
「そうだろう?だから私は彼女との再婚を考えている!彼女が初婚なら難しいが、子供も居て亭主と別れたのだからハンディも有るだろう?」
「学長は告白されたのですか?」
「前回は告白して見事に断られたよ!だから今回は慎重を期している!ただ彼女には好きな男性が居る様だ!それも結婚前からの男の様だが、その男が何処の誰なのか判らないのだよ」
「でも随分昔の話でしょう?10年以上前?」
「多分もっと前だと思う、彼女が20代の頃からだろうな」
俊三は二人の話が益々自分の事だと思う、凛子は本当に私の事が好きだったのか?嬉しい反面、それなら何と罪作りな事をしたのだろう?最初はお金の付き合いだったが、途中からお互い好きに成っていたのだと思う。
自分は凛子の事が好きだったが、彼女はお金の為に自分と付き合って居たと思っていたからだ。
「青木さん!どうされたのですか?ぼんやりとして」小杉がビール瓶を持って、青木のグラスに注ごうとした。
「もう、飲めないよ!」グラスを右手で塞いで言った。
「今日急遽来て貰ったので、疲れましたか?」
「そうだな!少し疲れたかな」
「娘さんも嫁いで奥さんと二人なら、新婚気分だな!」学長が冷やかす。
離婚の事実を二人共知らないので、そんな事を言うのだ。
「じゃあ、そろそろお開きにするか?」
「は、はい!今日は良い話をありがとうございました」
「私の頼み事も聞いてくれよ!彼女は国際線の入国の方で勤めて居るので機会を見て、打診してくれ!そんなに待てないぞ!」
「判りました!必ず近日中に確かめてご連絡致します」
「これが彼女の連絡先だ!」自分の名刺の裏に凛子の住所と電話番号が書かれていた。
「自宅もご存じなのですか?」
「私が紹介してやったのだよ!だが一度も入れて貰った事は無いのだが、、、、、」
「それは、、、、、、」
「一度断られたので、怖いのだよ!」
「判ります!私達が一度打診致しますのでお任せ下さい」
「可能性が無くても君達を恨む様な事は無いから安心してくれ!頼んだよ!」

その後二人は望月学長をタクシーまで見送りに行った。
「私もホテルの方にチェックインしなければいけないのでこれで失礼します」
「今夜は本当に良い話に成りました!例の森田さんの件は私が様子を見ながら打診してみますのでご安心下さい!」
「私には中々難しい」困った顔の俊三。
「次の機会に成ると来月ですからね!」
「記念誌の打ち合わせは明日午後だったな!」
「専門チームの人に会う様に聞きましたから、明日朝確認します!携帯に連絡します。大學の中での会議に成ると思います!」
「品川のホテルからならタクシーで直ぐだな!」
俊三は京急の乗り場に向かい、小杉と別れた。
しかし、仕事も大きいが難題は凛子と私の関係が学長に知られると、この話は完璧に潰れる。
ポケットの箸入れを取り出す俊三。
この電話番号は何を意味しているのだろう?
連絡が欲しいと云う事だろうか?ショートメールは先程したので、しかし凛子はあの望月学長から交際を迫られたのか?
俊三は世の中の狭さを感じていた。
今の状況でこの仕事を進めても問題ないのだろうか?
電車の中で次々と色々な事を考えていた。
その時、携帯の振動で電話だとポケットから取り出す。
凛子から?変な期待で画面を見ると、村永社長からの電話だった。
直ぐに電話を切るとメールで(電車の中です)と送信した。
(やったな!電車を降りたら電話を頼む!)
小杉が点数稼ぎに社長に電話をしたのは明らかだった。

品川駅に着いてしばらく歩いて、静かな場所に行くと電話をする。
「青木さんか?凄い仕事を貰ったな!これは相当な部数期待出来るぞ!」
「は、はい!」
「人気のロックバンド、キュリーンのDVD付きなら、一般の人も買うぞ!」
「はい!」
「それより、女性、女性を上手に話して学長に恩をな!頼むよ」
有頂天の村永社長の声だが、俊三にはこの先が見えない気分だ。

ホテルに入ってチェックインを済ませて部屋に向かう。
このホテルに18年も前に凛子と来たと思うと、当時の事が蘇る俊三。
あの時は驚いたな!いきなりデリ嬢のバイトを告白されて、そう考えながら部屋に入る俊三。
昔のままか?多少調度品が変わっているが大まかな間取りは同じさと思う。
大きなテレビが昔は無かったが、65インチのテレビが壁の一面を占領している。
荷物を開けて必要な物を取り出した時、チャイムが鳴った。
今頃、ホテルの係が来たのか?そう思いながらドアスコープを覗き見る俊三。
「あっ!」小さく口走ると慌てて扉を開いた。

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