空蝉

杉山 実

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別人?

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  84-013
電車を降りる麻結の姿に殆どの男性が視線を送る。
(綺麗な女性だな!芸能人かな?)視線はその様な言葉を麻結に投げる。
伸一と付き合って居た頃の麻結は可愛い感じの女子高校生だった。
大學に入ると大人の女に変身して、ミスキャンバスに推薦されて困惑した。
その時から地味な服装に眼鏡、マスクスタイルに徐々に変わって来た。
幸いマスクをしている人が多く成ったので、全く違和感が無くなっている。
自宅に居る時、友達と遊びに行く時は普通の姿に戻って居る。
その為旅行の写真等は美人の麻結に成っていた。
今、役所の人が今の麻結を見ても殆ど気が付く事は無い。

改札に向かう麻結は直ぐに武史の姿が判った。
独特の体形の武史が小さい身体を伸ばして、人ごみの中で自分を探している様子が見える。
小さく手を振る仕草をする麻結。
全く気が付かない武史は改札を通過する人に目を移している。
今日はヒールを履いているので、先日よりも背が高い麻結。
そして先日とはまるで異なる容姿。
「お待たせしました!」肩を叩いて笑顔の麻結。
振り返った武史は一瞬人間違いの様な顔をしたが「お、落合さん?」
「行きましょう!」笑顔で言った。
多分見合いの写真を見て居なければ武史には判らなかっただろう?
「驚いた!」
「、、、、、、、、、」言葉を失った武史。
しばらく歩くと目的の料理屋が見えて来た。
「あそこですね!」
麻結の肩の高さまでしか背丈が無い武史は横を向けない。
横を向くと麻結の胸の膨らみが丁度顔の位置に有るからだ。
それも下着の線が見える様な服装なので、横を向けない武史。
看板が見えたのと、事前にスマホで調べていた麻結。

店に入ると「予約しています、大森です!」店員に伝えると奥の座敷に案内された。
お茶を運んで来た店員が「予約の定食お持ちします!」と言っておしぼりとお茶を置いて行った。
「驚かれた様ですね!」
「当然ですよ!写真を見て居なければ判らないと思いますよ!」
「怒っていますか?」
「当たり前です!僕を馬鹿にしているのですか?」
「馬鹿にしていませんよ!先週の姿が仕事の時の服装です!だから普通なのですよ!大森さんが先週の私ならお付き合いしても良いとおっしゃったので、今日の私ならどうかな?と思ったのですが、決してからかって居ませんよ!」
「そんなに美しいのに、彼氏が居ないって考えられませんよ!」
「ありがとうございます。正直に言いますと、好きな男性は居ましたわ」
「でしょうね!見合いをされる人には見えません!」
「実は今回の見合いが初めてなのですよ!」
「好きな方と別れたから?」
「いいえ、別れたのは随分前ですから、別れたから見合いをした訳では有りませんわ!」
「何故私の様な障害者と見合いを?」
「大森さんの写真が良かったのです!何かを私に訴えている様に思えたのです」
「写真ですか?」
「はい!あの芝生に座って笑顔の写真です!」
「一度もその様な事言われた事は有りませんよ!それより先週のあの姿は?」
「人を形や服装で評価されたくなかったのです!先週の服装と容姿では殆どの人が相手にしません!事実役所の関係者も誰一人モーションを掛けて来ないのです!それで助かっているのですがね!」
「男性から誘われるのが嫌なのですか?」
「はい!私はひとりの男性を今でも愛しています!だから誘われても、見合い話にも耳を貸しませんでした」
「何故?今回見合いをされたのですか?」
「家族の為かな?家族全員が心配して結婚相談所に登録してしまったのです!」
「貴女の意見を聞かずにですか?」
「はい!どうせ聞いても答えは駄目に決まっていますからね!」
「それじゃ、私は?」
「だって断られると思って見合いしたのに、写真の美人なら断るとおっしゃったから、、、、、」
そう言った時、和定食が運ばれて来て話が途切れた。

「わあー美味しそう!」
「本当ですね!僕もこの店の和定食初めてです!」
「何度か来られたの?」
「高い店ですから、二度目です!」
麻結は以前も誰かとデートで来たのだろうと思った。
「楽しみは食事とスポーツを見る事ですね!自分では出来ませんからね!」
その言葉は麻結の心を締め付けていた。
青春の無い人生、自分も別の意味で青春が無かったのかも知れないと思う。
「美味しいわ!」吸い物から箸を付けて笑顔で言う麻結。
「落合さんの笑顔は格別ですね!」
「そう?初めて言われたわ!いつも暗いって言われるのに、、、、」
「尋ねる事は少し躊躇うのですが、聞いてしまいます!」
「何を!」
「彼氏に振られてから一度も男性と付き合っていないって聞きましたが、何年前に別れたのですか?」
「今、それを聞くの?」箸が止まる麻結。
しばらく箸を置いて考える素振りをして、天井に目を向ける。
「ごめんなさい!嫌な事を思い出させてしまって、、、、、」
「先日、私ひとりで堂ヶ島に行って来たのよ!彼に会いにね!実は毎年同じ日に行くのよ!先日は花と一緒に空蝉を置いたのですが、風に吹かれて飛んでしまったのよ!」話しながら麻結の瞳は涙で潤んでいた。
「も、もう聞かなくても良いです!ごめんなさい!悪夢を思い出させてしまいましたね!」
その武史の言葉に「聞かなくても判るの?」と小さな声で尋ねた。
「はい!充分判りました!落合さんの遠い昔の恋と愛が、、、、、、」
堪らず麻結がハンカチを取り出して涙を拭いた。
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