空蝉

杉山 実

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二人の距離

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     84-047
麻結は朝食を運んで来た仲居に昨夜の事を尋ねたが、惚けて真実を喋らない。
薬の入った椀を運んでから、客が立て込んで忙しいのも有ったが避けていたのだ。
変な事件に巻き込まれても困るので、近寄らなかった。
それが幸いして、二人の女と須永達は労せず旅館を後にしたのだ。

「お勘定は最初に頂戴していますので、ルームキーをボックスに入れて頂ければ大丈夫です!」
「何時まで?」
「11時がラストに成ります!タクシーはそこの電話で呼べますので、5分で来ると思いますよ!」仲居は男が先に帰ったので、喧嘩になったのは間違い無いと思っていた。
自分が持って来た吸い物は無くなっていたので、捨てたのかも知れないと思った。

朝食を終わると武史に12時前に姫路駅に到着しますとlineを送った。
久々に一人旅に来た気分でのんびりしていた。
昨夜の女性の二人組で助けてくれたのは誰だろう?婚約者に頼まれて来たと言ったが、婚約者に心当たりは無い。
唯一該当するなら大森さん?でも婚約者と名乗るかしら?
しばらくしてタクシーを呼ぶ麻結。
悪夢の料理旅館を後に、京都駅に向かうが昨夜の事が次々と脳裏に蘇る。
あの卓也にもう少しで強姦されそうに成った事は、意外と鮮明に残って居る。
下着姿で抱き抱えられてベッドに横たわった事実も。
でも京都の料亭に行く事を知っているのは大森さんだけだ。
自分からlineを送って、5回デートをすると教えた。
でもあの時間から、あの二人が来るまで早すぎるから、、、、、、
新幹線に乗っても絶えず考える麻結。
もしも大森さんが助けてくれたのなら、お礼を言わなければ駄目だが、違うなら変な事を話してしまう事に成る。
結局姫路までの40分程の時間絶えず考えていた麻結。

新幹線から降りる麻結の姿は芸能人顔負けの美しさと、服装の派手さが目立った。
「あの人、女優さん?タレント?」
「誰?綺麗な人だ、、、、、」
麻結の容姿と大胆な服装に視線が集まっているが、着替えの服も持って居ないので今日はこのままで武史と会うと決めていた。
改札の手前で武史を見つけると、手を振った麻結。
いつもはその様な事はしてないが、今日は何故か手を振りたかった。
自分を助けてくれたお礼だったのか?自分でも判らず手を振っていた。
武史は今日の麻結の服装に気が付いて、ドキッとする程の驚きを感じた。
京都にはお泊り?だったと思う武史。
「こんにちは!京都から直接来たのよ!」麻結は平気で隠そうともせずに武史に言った。
「京都にお泊り?」
「ご存じでしょう?」
「は、はい!知って居ました!」武史は想像で判ったが、前から知っていた様に言った。
「お昼は軽い物で、、、朝から沢山食べたので、、、、」
「じゃあ、蕎麦でも食べに行きますか?」
並んで歩き始めると、麻結の胸の谷間がいきなり目に飛び込んで、武史は目のやり場に困ってしまう。
「色っぽい服でしょう?母が買って来たので、仕方なく着たのですが、、、、このスリットも凄いでしょう?」
武史は思わず見てしまい、顔が一気に赤く成っていた。

「大森さんの知り合いで、空手とかの武術されている方はいらっしゃるの?」
「妹の睦は空手の有段者ですよ!」
「えー―本当なの?」
「お兄ちゃんが虐められたら、私が助けるの!だから強く成りたいの!そう言って小学6年から始めましたよ!実際助けられた事は有りませんが、心強い妹ですよ!」
「そ、そうだったのね!睦さんか?」安心した様に言う麻結。
武史には話が見えない。
「見合いの人と京都へ?」
「そうよ!でもお泊りは私一人だったのよ!夕食を食べて直ぐに帰ったのよ!私は少し体調が悪く成ったので、泊めて貰ったの!」
「泊まれる場所だったのですか?」
「初めは知らなかったのですが、料理旅館だったのですよ!」
「相手の男性は気の毒でしたね!」
「えっ」
「空手で退治されたのでしょう?」話しの成り行きで判った武史は、その様に話を振った。
「そ、そうです!空手の女性が助けて下さったのですよ!」
勘の鋭い武史の言葉は、麻結に自分の妹の友達が助けたと解釈させていた。
「今も病院の看護師をしながら、大阪の道場に月に何度か行っていますよ!」
「危ない処でした!あの男は狙っていたのですね!」
「そんな服装で歩かれると、僕でもむらむらしてしまいますよ!」
「ほ、ほんと!じゃあ誘惑しちゃおうかな!」
立ち止まって、武史の方を向いた麻結。
シースルーの胸の谷間が武史の目に飛び込む。
「や、辞めて下さい!目のやり場に困ります!」
「見えそうで見えないのですよ!」そう言って笑う麻結。
この兄妹に自分は助けられたと思い込んでしまった麻結は、一歩武史に近付いた様に思っていた。
食事処に入ると麻結が「いつまでも大森さんでは他人の様だわ!今日から私は武史さんと呼ぶわ!武史さんも私の事を麻結と呼んで欲しいな!」
「えっ、落合さんではいけませんか?」
「私達、見合いをしてお付き合いをしているのですから、そろそろ武史さんで、、、、、」
恥ずかしそうに言う麻結。
「僕もそれじゃあ、麻結さん!これで良いですか?」
「良いわ!武史さん!ありがとう!」昨夜の出来事のお礼を言った麻結。
この間違いが二人の間を近づけた事は違いなかった。


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