空蝉

杉山 実

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新年

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    84-056
しばらくして武史は生まれて初めて神戸のソープランドに同僚と遊びに行った。
生まれて初めて女性と性的な関係を試す為だった。
浅子の不安は武史にも少なからず有ったのだ。
いきなり結婚して性的不能者では問題に成らない不安だ。
「お前初めてか?リラックス、リラックス!」と同僚は言ったが、武史は不安が一杯だった。
また腰が痛く成るのでは?今度は歩く事が困難に成るのだろうか?
そんな不安を抱えて、相手をしてくれたのは少し年配に見える女性だった。
「腰が悪いのね!初めて?」
「はい!初めてです!」
「歳は幾つなの?」
「30歳に成ります!好きな女の子でも出来たのね!」
武史の心を読んだ様な一言に頷く武史。
「正直な人だね!私そんな人好きだよ!丁寧に教えてあげるからね!」
茜と云う源氏名で40歳に近い女性は親切に時間を要して、武史の腰の具合を見ながら色々アドバイスをしてくれた。
最後に「すっきりした?」と笑顔で尋ねた。
頷くと「今の感じなら充分彼女とも出来るわ!安心しなさい!」そう言って見送られた。
武史は急に自信が湧いた気分で同僚に「不安は消えたよ!」と笑顔で言った。
僅かなボーナスを使って来た甲斐は、武史には十分すぎる程有った。

年末に成って麻結も武史も仕事が忙しくて、休みの日は特に武史は休養に成る。
電話とlineは殆ど毎日交換している。
梅宮も二人の交際に口出しせずに見守っている。
武史の担当の倉田も梅宮に言われて、今年中は何も聞かない様に気を使っていた。
普通の交際の場合は、仲人が結構催促するのだ。
梅宮には三人の男を紹介した結果がまだ出ていない。
特に最後の麻生祐樹には大きな期待を持って居る。
チップも沢山貰っているので、大抵の事は無理難題を聞いている。
唯、大森武史との交際の事は喋って居なかった。
伝えるタイミングを逸したのと、勝負に成らない相手だと決めつけていたからだ。

智光の姫路支店への移動は正月明けに成る。
今は垂水支店の引継ぎの最中で、年末と重なって忙しい。
姫路の薮内支店長は年内で退職する事に成っているので、引継ぎが無いので相談役と一緒に新年の挨拶回りをする事に成っていた。

新年の挨拶と同時に4日の段取りを話す麻結。
見合いは午後の三時に決めたので、二時半頃までは三人で湊川神社の周辺で遊ぶ事が出来る。
「私は先に着付けと髪をして貰って友人と初詣に行くからね!」
「えー三人一緒に行く予定にしていたのに!」怒る浅子。
浅子もホールの美容室で着付けと髪を頼んでいた。
「私は既に時間変更したから大丈夫よ!」
「手回しが良いわね!」
それでも今日は何も言わない浅子。
今臍を曲げて見合いが中止に成ったら、元も子も無いから低姿勢に成っている。
「帰りはお父さんの車で帰るでしょう?」
「はい!その予定にして居るわよ!」
三日の夕方梅宮から最終確認の電話が有ると、上機嫌で応対する浅子。
「麻生さんと親戚に成ればもっと良い事が有るかも知れませんよ!」
「えっ、良い事?」
「ご主人出世されたでしょう?」
「は、はい!何か関係が有るのですか?」
「またおいおい、お聞きあそばせ!」梅宮は意味ありげに言って電話を切った。

武史は妹の睦を乗せて麻結の自宅の近くまでやって来た。
流石におめでとうございますと挨拶に自宅に迎えに来られない。
麻結は正式に見合いをしてお付き合いをしているのに、両親に挨拶もして貰えない境遇を気の毒に思う。
でも姿を見れば、今日の見合いも中止に成る程怒るに違いない。
自宅から少し離れた空き地に車を止めて電話をすると、麻結は荷物を持って自宅を出た。
「家に迎えに来ないの?」浅子の声を聞き流して、急ぎ足で空き地に向かう麻結。
祖父の智樹が微笑みながら「鯖寿司の君か?」と言った。
「内緒よ!お爺ちゃん!」人差し指を口に持って行く麻結。
「良い男なのに、あの二人には判らないのかな?」
「ありがとう!行って来ます」
麻結は祖父に見送られて空き地の軽四に荷物を持って乗り込んだ。

「お待たせ!行きましょう?」
「あけましておめでとうございます」後部座席から睦が挨拶をした。
「おめでとう!」
「今日は本当にありがとうございます!着物も借りて頂いて着付け迄!」
「いいのよ!今日の相手が出してくれたのよ!」そう言って笑う。
「そんなに出して貰ったら、断れないのでは?」
「興味無いの!特にお金持ちは嫌いよ!睦さんには色々助けて貰ったからね!」
「そんなに、、、、」
京都と先日の三ノ宮の件で助けて貰ったと思っている麻結。
「でも空手って女性でも強いですね!」
「相手が素人なら一撃ですね!」
「有段者は本当に強いわ!」
三ノ宮での一撃で児玉を倒した事を話して居るのだが、話がかみ合っていなかった。
「着付けと髪に一時間以上係るけれど、お兄ちゃん時間もて余すね!」
「手伝おうか?」
「それって着替えを見るって事じゃないの、変態よ!」そう言って笑う三人。
三人で居ると、何故か和やかな雰囲気に成ると思う麻結。
この様な空気が好きだと思っていた。
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