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鏡の中の葛藤
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84-078
役所に電話をすると本日は来ていないと言われた。
心を決めて自宅に電話をした武史。
「もしもし、大森と申しますが、麻結さん!いらっしゃいますか?」
「大森さん?」浅子は急には判らなかった。
「あっ、貴方は!もう会わない!電話もかけない約束でしょう?」
「それより麻結さんは?」
「居ません!」
「何処に行かれたのですか?大丈夫でしょうか?」
「役所の仕事で出かけて居ます!もう電話をかけないで下さい!慰謝料払ったでしょう?」
「麻結さんが自殺する様なメールが届いたので、心配で電話しました!」
「自殺!何を馬鹿な事を!変な事を言わないで下さい!」問答無用で電話を切る浅子。
再び麻結の携帯が鳴っていたが、誰にも聞こえない。
長い髪を持ち上げて、大きな髪クリップで頭頂部に団子の様にして留める。
ジャケットを脱ぐ様に言われて、脱いで白蓮尼に渡した。
そのジャケットを紙袋の上に乗せてしまったので、振動音も聞こえなく成った。
麻結の首にカットクロスを巻き付けて大きく広げる。
ワゴンに載せた器具を椅子の横に寄せると「撮影始めるの?」千絵が尋ねた。
「はい!得度式に使う様です!」
「バリカンでいきなり刈り上げても良いのだけれど、気が変わった時困るわね!」
「大丈夫です!覚悟は出来ています!」唇を噛む。
「そう!」
電気バリカンを手に持つと、スイッチを入れて麻結の頭に近づけた。
モーター音に身体を硬直させる麻結。
それを見て「やっぱり、怖いのね!ゆっくりしましょう」そう言うと持って居たバリカンを置いた。
そして留めていた髪クリップを外して、櫛で梳き始める千絵。
「本当に綺麗な髪だわ!切るのが勿体ないわね!」
そう言いながらハサミを持つと、梳いた長い黒髪に刃先を入れると「ジョキ、ジョキ」「ジョキ、ジョキ」と切り始めた。
僅か10センチ程位を切り揃える様に、背中に流れた髪を切り落した。
多分こんなに切る事は無かっただろうと思いながら、切り揃える千絵。
何処かでもう辞めて欲しいと懇願するかも知れないと、庵主が言ったので試しの様な切り方だ。
それでも床に麻結の髪が結構散乱している。
「少し切ったけれど、続けて良いの?」
「はい!勿論です!未練は有りません!もっとバッサリとお願いします!6時には帰りたいのです!」
「何分かかるの?」
「90分程です!」
「ウイック持って居るの?」
「はい!」
「準備はしているのね!じゃあ意思は固いと思っていいのね!」
「は、はい!」
その言葉を聞いて千絵は、庵主の心配より麻結の決意を信じる。
髪を左手で持つと引っ張りハサミを入れる。
「ジョキ、ジョキ」「ジョキ、ジョキ」
故意に再び強く引っ張られて「い、いたー」と声を発した麻結だが、ハサミが「ジョキ、ジョキ」「ジョキ、ジョキ」と切り裂き床に次々と落ちて行く。
流石に鏡の中の麻結の顔が一気に曇った。
千絵が長い髪を再び持つと、今度は最初の様に頭頂部に髪クリップで纏めて留めた。
するとバリカンを手に持つ姿が、鏡に映し出された。
麻結は覚悟をしていたが、流石に目を閉じてしまった。
バリカンはそのまま麻結の襟足の部分に、刃先が入ると「ガーガー」「ガー、ガー」と音を立てて動き始めた。
「伸一―ゆるしてー」思わず口走るが、バリカンの音で千絵には聞こえない。
襟足から数センチの部分まで刈り上げて、再び襟足から刈り上げるのを三度繰り返す。
「今なら、何とか隠れるわよ!止める?」と尋ねる千絵。
留めていた髪クリップを外すと、一気に沢山の髪が床に流れ落ちて麻結は軽く成った気分がした。
「私の髪が伸びたら結婚式で日本髪を結いたいわ!」
「麻結の髪は綺麗から、日本髪結えるよ!楽しみだな!」
「伸一!私の長い髪好き!今の三倍位にしないとね!」
「大好きだよ!もう少し大人に成ればもっともっと綺麗なる様な気がするよ!」
「そう思う?」
「思う!」
「ありがとう、伸一!」
急に伸一との会話が蘇る麻結。
本当はこの様な事はしたくはなかったが、婚約を中止に出来ない事と武史に見捨てられた事が自暴自棄に成っていた。
「そんな事辞めろよ!僕の所へ逃げておいでよ!二人で逃げ様!」その様な事を言って欲しかった麻結。
父に言われて(お別れ旅行だったのですね!楽しかったです!ありがとう!お幸せに!もう連絡はしませんので安心して下さい!)この様なlineを残して、その後は音信普通に成ってしまった。
既に麻結に残された道は俗世からの離脱、仏の道に進むしか残されていないと思う。
「髪を降ろせば、それ程目立ちませんよ!」そう言うと櫛で梳いて、鏡で後ろを見せる千絵。
少し嵩が減った様に見えるが、短く成っているのは10センチ程で、殆ど判らない様に見えた。
千絵には麻結の心の葛藤が手に取る様に判り始めていた。
伸一って叫んでいたのが恋人なのか?無意識の内に叫んでいるのは心が苦しさを表している。
「どうしますか?続けますか?」
「はい!このままだと結婚に成ってしまいます!それに誰も助けてくれません!」
「もう辞めろーーーーーーー麻結!一緒に行こう!」と武史が今言えば辞めるかも知れないと思う麻結。
役所に電話をすると本日は来ていないと言われた。
心を決めて自宅に電話をした武史。
「もしもし、大森と申しますが、麻結さん!いらっしゃいますか?」
「大森さん?」浅子は急には判らなかった。
「あっ、貴方は!もう会わない!電話もかけない約束でしょう?」
「それより麻結さんは?」
「居ません!」
「何処に行かれたのですか?大丈夫でしょうか?」
「役所の仕事で出かけて居ます!もう電話をかけないで下さい!慰謝料払ったでしょう?」
「麻結さんが自殺する様なメールが届いたので、心配で電話しました!」
「自殺!何を馬鹿な事を!変な事を言わないで下さい!」問答無用で電話を切る浅子。
再び麻結の携帯が鳴っていたが、誰にも聞こえない。
長い髪を持ち上げて、大きな髪クリップで頭頂部に団子の様にして留める。
ジャケットを脱ぐ様に言われて、脱いで白蓮尼に渡した。
そのジャケットを紙袋の上に乗せてしまったので、振動音も聞こえなく成った。
麻結の首にカットクロスを巻き付けて大きく広げる。
ワゴンに載せた器具を椅子の横に寄せると「撮影始めるの?」千絵が尋ねた。
「はい!得度式に使う様です!」
「バリカンでいきなり刈り上げても良いのだけれど、気が変わった時困るわね!」
「大丈夫です!覚悟は出来ています!」唇を噛む。
「そう!」
電気バリカンを手に持つと、スイッチを入れて麻結の頭に近づけた。
モーター音に身体を硬直させる麻結。
それを見て「やっぱり、怖いのね!ゆっくりしましょう」そう言うと持って居たバリカンを置いた。
そして留めていた髪クリップを外して、櫛で梳き始める千絵。
「本当に綺麗な髪だわ!切るのが勿体ないわね!」
そう言いながらハサミを持つと、梳いた長い黒髪に刃先を入れると「ジョキ、ジョキ」「ジョキ、ジョキ」と切り始めた。
僅か10センチ程位を切り揃える様に、背中に流れた髪を切り落した。
多分こんなに切る事は無かっただろうと思いながら、切り揃える千絵。
何処かでもう辞めて欲しいと懇願するかも知れないと、庵主が言ったので試しの様な切り方だ。
それでも床に麻結の髪が結構散乱している。
「少し切ったけれど、続けて良いの?」
「はい!勿論です!未練は有りません!もっとバッサリとお願いします!6時には帰りたいのです!」
「何分かかるの?」
「90分程です!」
「ウイック持って居るの?」
「はい!」
「準備はしているのね!じゃあ意思は固いと思っていいのね!」
「は、はい!」
その言葉を聞いて千絵は、庵主の心配より麻結の決意を信じる。
髪を左手で持つと引っ張りハサミを入れる。
「ジョキ、ジョキ」「ジョキ、ジョキ」
故意に再び強く引っ張られて「い、いたー」と声を発した麻結だが、ハサミが「ジョキ、ジョキ」「ジョキ、ジョキ」と切り裂き床に次々と落ちて行く。
流石に鏡の中の麻結の顔が一気に曇った。
千絵が長い髪を再び持つと、今度は最初の様に頭頂部に髪クリップで纏めて留めた。
するとバリカンを手に持つ姿が、鏡に映し出された。
麻結は覚悟をしていたが、流石に目を閉じてしまった。
バリカンはそのまま麻結の襟足の部分に、刃先が入ると「ガーガー」「ガー、ガー」と音を立てて動き始めた。
「伸一―ゆるしてー」思わず口走るが、バリカンの音で千絵には聞こえない。
襟足から数センチの部分まで刈り上げて、再び襟足から刈り上げるのを三度繰り返す。
「今なら、何とか隠れるわよ!止める?」と尋ねる千絵。
留めていた髪クリップを外すと、一気に沢山の髪が床に流れ落ちて麻結は軽く成った気分がした。
「私の髪が伸びたら結婚式で日本髪を結いたいわ!」
「麻結の髪は綺麗から、日本髪結えるよ!楽しみだな!」
「伸一!私の長い髪好き!今の三倍位にしないとね!」
「大好きだよ!もう少し大人に成ればもっともっと綺麗なる様な気がするよ!」
「そう思う?」
「思う!」
「ありがとう、伸一!」
急に伸一との会話が蘇る麻結。
本当はこの様な事はしたくはなかったが、婚約を中止に出来ない事と武史に見捨てられた事が自暴自棄に成っていた。
「そんな事辞めろよ!僕の所へ逃げておいでよ!二人で逃げ様!」その様な事を言って欲しかった麻結。
父に言われて(お別れ旅行だったのですね!楽しかったです!ありがとう!お幸せに!もう連絡はしませんので安心して下さい!)この様なlineを残して、その後は音信普通に成ってしまった。
既に麻結に残された道は俗世からの離脱、仏の道に進むしか残されていないと思う。
「髪を降ろせば、それ程目立ちませんよ!」そう言うと櫛で梳いて、鏡で後ろを見せる千絵。
少し嵩が減った様に見えるが、短く成っているのは10センチ程で、殆ど判らない様に見えた。
千絵には麻結の心の葛藤が手に取る様に判り始めていた。
伸一って叫んでいたのが恋人なのか?無意識の内に叫んでいるのは心が苦しさを表している。
「どうしますか?続けますか?」
「はい!このままだと結婚に成ってしまいます!それに誰も助けてくれません!」
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