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(数年後)
校庭の片隅。西日が長く影を伸ばし、夕焼け色の空が広がっていた。
制服のスカートの上に手を添え、静かに足を揃えたまま、じっとその光景を見つめていた。
「……まだやるのかな」
白崎莉奈は小さくつぶやく。彼女の視線の先では、天城大牙がひたすら木刀を振り続けていた。
大牙は明るくて誰にでも優しい、まさに頼れるリーダータイプの少年だ。けれど、頑張りすぎるところがあって、いつも無理をしてしまう。それを止めるのは、大抵いつも莉奈の役目だった。
「……もう暗くなってきたよ、大牙くん」
莉奈が遠慮がちに声をかけると、大牙は木刀を振る手を止め、振り返った。額には汗がにじみ、制服のシャツが少し汚れている。
「えっ、もうそんな時間?」
「うん。帰らないと……」
「あとちょっとだけ! もう少しで新しい型が掴めそうなんだ!」
「……さっきもそう言ってたよね?」
「うっ……!」
莉奈の言葉に、大牙は苦笑する。確かに彼は「あとちょっと」が口癖で、結局何時間も続けることが多い。
「でもさ、こうして鍛えておかないと、いざって時に守れないだろ?」
「……うん、でも無理しないでね」
「おう!ありがとな莉奈!片づけるからちょっと待っててくれ」
仲間たちと道具を片付けながら、大牙は莉奈に話しかけた。
「待たせちまったな。寒くなかったか?」
「ううん、大丈夫。でも…無理しすぎちゃだめだよ。」
「ははっ、心配性だな。けど、ありがとう。」
そんな会話を交わしながら、二人は校門を出る。莉奈は少し不安そうな表情で大牙を見上げた。
「大牙くんって、いつも前に出てるよね。怖くないの?」
「怖いさ。でも、守りたいものがあるからな。」
その言葉に、莉奈は少し驚いたような顔をした。けれど、それ以上何も言わず、そっと微笑むだけだった。
訓練を終えた大牙と莉奈が帰路についている途中、静かな住宅街の通りを歩いていた。遠くから、不気味な唸り声が聞こえてきた。
「…なんだ、この音?」
大牙が足を止め、耳を澄ませた。その時、暗闇の向こうから一対の赤い瞳が現れた。
ガシャッ…ガシャッ…
金属を引きずるような音と共に、姿を現したのはアンノウン「犬型」。その巨大な体躯は狼のような姿をしており、口元から鋭い牙が覗いている。体全体に光る鎖のような模様が絡みついており、咆哮とともに大気を震わせた。
「おい、あれ…アンノウンだ!」
莉奈が恐怖に声を震わせる。犬型アンノウンは二人に狙いを定めると、一歩一歩近づいてきた。
「莉奈、逃げろ!こいつは俺が食い止める!」
大牙は身を前に出し、莉奈を守るように立ちはだかった。
「でも…危ないよ!大牙くん!」
犬型アンノウンは咆哮を上げると、一気に跳躍し、大牙に襲いかかった。その鋭い爪が空を裂き、大牙はギリギリで身をかわしたが、地面に倒れ込む。
「くそっ…!」
大牙はその場で懸命に莉奈を守ろうとするが、アンノウンの圧倒的な力の前に何もできなかった。しかし、その瞬間、莉奈の中に眠っていた未知の力が覚醒する。
「お願い…助けて…!」
彼女の瞳が赤く輝き、周囲の空気が歪むような異常現象が起きた。アンノウンの動きが止まり、莉奈の手のひらから放たれた光がそれを弾き飛ばした。
「…何、これ?私が…やったの?」
「莉奈…!」
大牙が驚きの声を上げる中、莉奈はその場で力を使い果たし、倒れ込む。犬型アンノウンは倒れず、怯んだだけで再び立ち上がり咆哮を上げるが、その場を離れ、暗闇の中へと消えていった。
大牙はすぐさま莉奈のもとへ駆け寄り、彼女を背負った。
アンノウンが倒れると同時に莉奈は意識を失い、大牙は彼女を背負ってその場を離れる。
莉奈を背負いながら家路についた大牙。彼女の小さな体の重みを感じるたびに、彼の胸には悔しさが募った。
「俺…何もできなかった…」
莉奈があの異常な力でアンノウンを倒した一方で、自分はただ守られるだけだった。その事実が彼の心を強く締めつける。
「もっと…もっと鍛えないと…俺は弱い…こんなんじゃ、仲間も守れねぇ…」
莉奈を家に送り届けた後、大牙は一人で夜道を歩きながら、自分に足りないものを噛みしめた。
「次は絶対…絶対に守ってみせる…」
握りしめた拳に、彼の新たな決意が宿る。まだ眠れぬ夜が続くが、大牙はその中で静かに鍛錬を誓った。
やがて、その想いが彼の未来を大きく変えることになるのだった。
校庭の片隅。西日が長く影を伸ばし、夕焼け色の空が広がっていた。
制服のスカートの上に手を添え、静かに足を揃えたまま、じっとその光景を見つめていた。
「……まだやるのかな」
白崎莉奈は小さくつぶやく。彼女の視線の先では、天城大牙がひたすら木刀を振り続けていた。
大牙は明るくて誰にでも優しい、まさに頼れるリーダータイプの少年だ。けれど、頑張りすぎるところがあって、いつも無理をしてしまう。それを止めるのは、大抵いつも莉奈の役目だった。
「……もう暗くなってきたよ、大牙くん」
莉奈が遠慮がちに声をかけると、大牙は木刀を振る手を止め、振り返った。額には汗がにじみ、制服のシャツが少し汚れている。
「えっ、もうそんな時間?」
「うん。帰らないと……」
「あとちょっとだけ! もう少しで新しい型が掴めそうなんだ!」
「……さっきもそう言ってたよね?」
「うっ……!」
莉奈の言葉に、大牙は苦笑する。確かに彼は「あとちょっと」が口癖で、結局何時間も続けることが多い。
「でもさ、こうして鍛えておかないと、いざって時に守れないだろ?」
「……うん、でも無理しないでね」
「おう!ありがとな莉奈!片づけるからちょっと待っててくれ」
仲間たちと道具を片付けながら、大牙は莉奈に話しかけた。
「待たせちまったな。寒くなかったか?」
「ううん、大丈夫。でも…無理しすぎちゃだめだよ。」
「ははっ、心配性だな。けど、ありがとう。」
そんな会話を交わしながら、二人は校門を出る。莉奈は少し不安そうな表情で大牙を見上げた。
「大牙くんって、いつも前に出てるよね。怖くないの?」
「怖いさ。でも、守りたいものがあるからな。」
その言葉に、莉奈は少し驚いたような顔をした。けれど、それ以上何も言わず、そっと微笑むだけだった。
訓練を終えた大牙と莉奈が帰路についている途中、静かな住宅街の通りを歩いていた。遠くから、不気味な唸り声が聞こえてきた。
「…なんだ、この音?」
大牙が足を止め、耳を澄ませた。その時、暗闇の向こうから一対の赤い瞳が現れた。
ガシャッ…ガシャッ…
金属を引きずるような音と共に、姿を現したのはアンノウン「犬型」。その巨大な体躯は狼のような姿をしており、口元から鋭い牙が覗いている。体全体に光る鎖のような模様が絡みついており、咆哮とともに大気を震わせた。
「おい、あれ…アンノウンだ!」
莉奈が恐怖に声を震わせる。犬型アンノウンは二人に狙いを定めると、一歩一歩近づいてきた。
「莉奈、逃げろ!こいつは俺が食い止める!」
大牙は身を前に出し、莉奈を守るように立ちはだかった。
「でも…危ないよ!大牙くん!」
犬型アンノウンは咆哮を上げると、一気に跳躍し、大牙に襲いかかった。その鋭い爪が空を裂き、大牙はギリギリで身をかわしたが、地面に倒れ込む。
「くそっ…!」
大牙はその場で懸命に莉奈を守ろうとするが、アンノウンの圧倒的な力の前に何もできなかった。しかし、その瞬間、莉奈の中に眠っていた未知の力が覚醒する。
「お願い…助けて…!」
彼女の瞳が赤く輝き、周囲の空気が歪むような異常現象が起きた。アンノウンの動きが止まり、莉奈の手のひらから放たれた光がそれを弾き飛ばした。
「…何、これ?私が…やったの?」
「莉奈…!」
大牙が驚きの声を上げる中、莉奈はその場で力を使い果たし、倒れ込む。犬型アンノウンは倒れず、怯んだだけで再び立ち上がり咆哮を上げるが、その場を離れ、暗闇の中へと消えていった。
大牙はすぐさま莉奈のもとへ駆け寄り、彼女を背負った。
アンノウンが倒れると同時に莉奈は意識を失い、大牙は彼女を背負ってその場を離れる。
莉奈を背負いながら家路についた大牙。彼女の小さな体の重みを感じるたびに、彼の胸には悔しさが募った。
「俺…何もできなかった…」
莉奈があの異常な力でアンノウンを倒した一方で、自分はただ守られるだけだった。その事実が彼の心を強く締めつける。
「もっと…もっと鍛えないと…俺は弱い…こんなんじゃ、仲間も守れねぇ…」
莉奈を家に送り届けた後、大牙は一人で夜道を歩きながら、自分に足りないものを噛みしめた。
「次は絶対…絶対に守ってみせる…」
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やがて、その想いが彼の未来を大きく変えることになるのだった。
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