【R18】愛とキャリアの選択〜

うちこ

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18話 弱音


伊豆旅行と八景島から帰宅した二人は、倒れ込むように眠りについた。
翌朝、目が覚める頃には、時刻は11時を回っていた。
「ミク、レオから連絡が来た。紗弥も呼んで今夜、送別会してくれるって」

「そっか…」
渡米前の涼太に会いたい人はたくさんいるだろう。
「うん、それなら久々に皆んなで飲めるね」
そう言って微笑んだ。

週末の渋谷は、人波であふれていた。
雑踏を抜けた先の居酒屋には、紗弥とレオの笑い声が響いていた。

「おっそーい!」
紗弥が大ジョッキを掲げる。
「主役が最後ってどうなのよ?」

「悪い、のんびりしすぎた」
涼太が苦笑しながら席に座り、その隣にミクも静かに腰を下ろした。

「涼太、明後日にはもう出国だな」
レオが煙草の煙を吐き出しながら渋い顔をした。
「これから誰とバーに行けばいいんだよ、なあ?」
レオは寂しそうにしながらも、ケラケラと笑った。

「ほら、飲も飲も!」
紗弥が勢いよくジョッキを差し出す。
「暗くなるの禁止! 今日は涼太の送別会なんだから」

乾杯の音が響き、ビールの泡がこぼれる。
店内に流れるBGMと、4人の笑い声が重なった。

「おまえ、ミクを置いていくとはいい度胸だな。おまえのいない隙に俺がもらうぞ」
レオが煽るように笑う。

「冗談でもやめなさいよ?」
紗弥が苦笑しながらも、少し睨むように言った。

涼太は顔色ひとつ変えずに、グラスのビールを口に運ぶ。
「ミクは、ものじゃない。それに俺以外になびかないよ」

その淡々とした口調に、ミクは思わず顔を赤くし、テーブルの下で、涼太の指をそっと握った。涼太は何も言わず、そのまま彼女の手を握り返した。

「ノロケかよ」
レオが鼻で笑って、枝豆をつまむ。

「でもミク、おまえはまじで大丈夫なのかよ?
こいつ、サンフランシスコに行ったら仕事に夢中でおまえのこと、忘れちまうかもよ?」
レオが茶化すように言う。

ミクは返す言葉を探して一瞬迷った。
そのとき、涼太がそっとテーブルの下で彼女の手をさらに強く握った。

「涼太のこと、信じてるから大丈夫」
ミクはまっすぐにレオの目を見た。その表情に迷いはなかった。

レオは一瞬だけ片側の眉毛を上げたが、苦笑してビールを一気に飲み干した。
「ま、寂しくなったら俺んとこ来いよ」
わざと軽口を叩いて場の空気を和ませる。

「はいはい、また始まった」
紗弥が呆れたように笑い、肘でレオをどついた。

そのやり取りを見ながら、涼太は表情を変えずにグラスを傾けた。

ミクがトイレに席を立つと、涼太は自然と紗弥と話が盛り上がった。

「日本に戻るときは、私にも連絡してね」
紗弥が涼太に穏やかな笑みを向ける。

「ああ、もちろんだ」
涼太も微笑み返した。

ふと、涼太の脳裏に八景島での出来事がよぎった。
——ミクが、ナンパされていたこと。思え返すと、涼太の目の前で彼女は度々ナンパをされていた…

グラスを置いた涼太は、そっと紗弥に顔を寄せて小声で囁く。
「……ミクって、結構…モテるのか?」

紗弥は一瞬、目を丸くしてから吹き出した。
「何いまさら言ってんの。高校時代から、めちゃくちゃモテモテだったよ」

紗弥の言葉に涼太が思わず目を瞬かせると、紗弥はイタズラっぽく笑って続けた。
「あの頃なんて、男子がミクを見ただけで騒いでたんだから」

涼太は思わず息を飲み込む。

「あの子、ぱっと見、近寄りがたいけど、話すと人懐っこいでしょ?」

紗弥が笑いながら、涼太の肩を軽く叩いた。
「それが男心をくすぐるんだろうね。…ギャップってやつ?涼太もそうなんじゃないの?」

その言葉に、涼太は少し間を置いてからグラスを口に運んだ。ビールの泡が喉を通る感覚の奥で、彼女と初めて会ったときのことが思い出される。

——確かにそうだった。

レオに紹介されて、初めて彼女と出会った時…、見た目はクールで、背もすらっと高く、まるでモデルのような容姿で、声をかけるのにも勇気がいった。けれど、話してみると拍子抜けするほど柔らかく笑う。その笑顔に、不意を突かれたように心を掴まれたのを今でも覚えている。

涼太の口元に、わずかな笑みが浮かんだ。
「……ああ、そうかもな」

「ショップでもしょっちゅうお客さんに連絡先聞かれてるみたいだし、職場の同僚にもこの間、告られたらしいよ」
紗弥が何気ない口調でそう言った瞬間、涼太の表情が一瞬で固まった。

グラスを持つ手が止まり、視線がわずかに宙を泳ぐ。その様子に気づいた紗弥は、口元に小さな笑みを浮かべた。

「でも、心配いらないって」
涼太が返事をしないうちに、紗弥はやわらかく続けた。
「あの子自身が全く浮ついてないし……何より、"涼太命"だから」

その言葉に、涼太はようやく肩の力を抜いた。
小さく息を吐きながら、ほんのわずかな安堵と、どこかに残る不安が入り混じっていた。

視線を向けると、向かいの席ではレオがトイレが戻ったミクに、相変わらず絡んでいる。
「ミク、やっぱり可愛いな。…その服、似合ってるよ」
「涼太に泣かされたら、すぐ俺に連絡して来いよ」
ミクは苦笑いを浮かべ、軽く受け流す。
「はいはい、またそういうこと言う」

涼太は再び、テーブルの下で彼女の手を握り、彼女もすぐに握り返す。

レオは、ふと視線を下げて二人の手が触れ合っているのに気づき、ニヤリと口角を上げる。

「おいおい、ここ居酒屋だぞ? 手なんて握って甘い空気出しすぎだって」
グラスを傾けながら、茶化すように言った。

ミクは顔を赤らめ、手を引こうとするが、涼太は無言でその手を握り返す。
表情を変えず、淡々とビールを飲み続ける涼太に、ミクは胸がじんわり温かくなる。

紗弥はその様子を見て、少し呆れたように笑った。
「はいはい、男2人が張り合うとめんどくさいんだから」
そう言って、店員を呼び、空いたグラスをまとめて注文する。

「でもさ、こうして4人で飲むの、次はいつになるんだろうな」
レオが笑いながらもぽつりと呟く。

一瞬、笑い声が途切れる。店の喧騒の向こうで、時計の針の音が聞こえるような気がした。
ミクは、握られたままの涼太の手にそっと力を込めた。
「きっとすぐだよ」
しっかりと顔を上げて微笑んだ。

涼太の出国は2日後。
店内の笑い声の中、4人の時間はゆっくりと流れていた。

4人は居酒屋を出た。

「涼太……アメリカで頑張れよ」
レオが冗談めかして笑いながら言う。

「ああ」
涼太は短く返事を返し、自然にレオとグータッチを交わす。二人の間には、言葉にしなくても通じる信頼がある。

——俺より先にミクを抱いた男……
頭の片隅でわだかまりがよぎるが、涼太は親友としてレオを信頼していた。

「じゃあ2日後に空港で」
渋谷の街角、雑踏の中で4人は笑顔を交わしてそれぞれの家へ帰って行った。

タクシーの車内は、外のざわめきが遠くに感じられるほど静かだった。
涼太は彼女の手を握ったまま、少しだけ指先に力を込める。ミクはその手をきゅっと握り返し、視線をほんの少し伏せた。
街の明かりが揺れる中、タクシーは静かに彼女のアパートへ向かって進んでいく。

時計を見ると22時過ぎだった。

「もう一軒、ふたりで行かないか」
涼太はそう言って彼女を見つめた。



ふたりは彼女のアパート近くの焼き鳥屋に来た。
「涼太、まだお腹空いてたの?」
涼太は串を手に取りながら、彼女の言葉に小さく笑った。
「ああ、結構歩いたしな。なんか妙に腹が減って…」

隣に座る彼女は、その言葉に微笑みながら、枝豆をゆっくりつまむ。
涼太はしばらく黙ったまま串を持った手を置き、静かに彼女を見つめ、やがて低めの声で口を開く。

「おまえさ……同僚に告白されたのか?」

紗弥から聞いた話を確かめたかった。ミクはその問いに一瞬目を見開き、驚きの色を浮かべた。

「紗弥から聞いたの?もう…お喋りだなあ」
小さくため息を吐き、串を口元に運びながら目を伏せる。

涼太はその様子を見て、胸の奥が少しざわつくのを感じつつ、内心穏やかでいられずにお酒を口に運んだ。
「本当なんだな」

ミクは顔を少し赤らめながら、涼太の肩に一瞬もたれかかった。
「関係ないよ。私は涼太しか考えられないもん」

その一言に、彼女の手を握った。涼太はワイングラスを手に取り、ゆっくりと赤い液体を見つめながら、静かに問いかける。

「客にも連絡先聞かれるんだろ?」

ミクは少し苦笑し、肩をすくめた。
「対面接客だし……どうしてもそういうことはあるよ。でも私、そういう品のない人、苦手だから」

言い終えると、涼太の方を見て控えめに微笑んだ。
涼太は、隣に座る彼女を、改めて見つめていた。

見た目の美しさも、恵まれたスタイルも、もちろん魅力的だが、それ以上に彼女の内面に、どうしようもなく惹かれている自分に気づく。

そして、ふと現実に引き戻される。2日後には自分はサンフランシスコに発つ――その事実に急に不安が押し寄せる。
彼女と離れる時間、距離、仕事に追われる日々――考えるほどに心がざわつき、落ち着かない。

涼太は視線をワイングラスに落とし、赤い液体を眺め、一気に喉に流し込む。

ミクは心配そうに涼太を見つめながら、そっと彼の手からグラスを受け取った。

「涼太……飲み過ぎじゃない?大丈夫?」
声は柔らかく、けれど心配が滲んでいる。

「大丈夫だ」
涼太は微笑みを浮かべて言い、彼女の手から再びグラスを取り、ワインを注いでは飲んだ。
しばらくすると、涼太は珍しく酔いの影響で肩の力が抜け、自然に彼女にもたれかかり、同時に腰に両手を回した。

ミクは周囲の目を気にしつつも、店員さんにそっと水を頼み、涼太の様子を見守る。

涼太はいつもより柔らかく、少し無邪気に歯を見せて笑っていた。酔いのせいか、笑顔が自然で無防備に見える。

「ミク、可愛いな……」
思わず漏れたその言葉に、ミクは頬をほんのり赤くし、少し照れたように笑った。

彼女の腰に手を回しながら、震えた声を漏らす。
「俺…不安なんだ…仕事も…ミクとのことも…本当は行くのが怖い…おまえと離れたくない」

初めて聞く彼の言葉に、ミクの胸はぎゅっと苦しくなる。心が張り裂けそうな感覚が湧き上がった。
そっと涼太の背中に手を回し、柔らかくさすりながら声をかける。
「涼太…大丈夫だよ。必ず上手くいくから…」

涼太はミクの胸に顔を埋め、彼女の温かさと安らぎにしばし寄りかかる。普段は強さしか見せない彼が、こうして自分に甘える姿を、ミクは涙を堪えて受け止めた。

しっかりと彼の腕を支えながら、ミクは会計を済ませ、焼き鳥屋の扉を押して外に出た。

「大丈夫……?」
「ああ、すまない」
涼太は軽く返事をして、酔いの残る足取りで彼女のアパートに向かった。

アパートのドアを閉めると、涼太はその場で彼女を押し倒すように覆い被さった。

「……涼太……」
ミクは息を漏らし、少し驚きながらも抵抗せず、その視線を涼太に向ける。

涼太は彼女のカットソーを胸の上まで捲り、ブラジャーのホックを外した。
彼女の胸を揉みしだきながら、頬擦りをし、唇を這わせ、胸だけを執拗に愛した。

「ん……涼太……」
ミクは小さな吐息をもらしながら、抵抗せず、彼の行動に自分を委ねた。

静かに流れる時間の中、胸への愛撫が途絶え、彼の呼吸は次第に深くなっていき、気付けば寝息を立てながら彼女の胸に頬を押し付けて眠っていた。

ミクはその寝顔を見下ろし、そのままそっと彼の頭を抱きしめた。

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