【R18】愛とキャリアの選択〜

うちこ

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19話 すきなところ

翌朝、涼太は目を覚ますと、昨日の居酒屋での記憶が曖昧であることに気付いた。
ミクに弱音を吐いたことも、すがるように抱きついたことも、すっかり記憶から抜け落ちていた。

ミクはキッチンで温かい野菜スープを用意して、テーブルに置く。
「大丈夫?昨日、だいぶ飲んでたよ」
彼女の柔らかな声に、涼太は少し顔をしかめて頭を掻く。

「ああ、すまない…体調は大丈夫だ」

明日、サンフランシスコに発つというのに…、飲み過ぎた自分を反省する。

涼太はスプーンを手に取り、一口ずつ慎重にスープを口に運ぶ。
「うまいな、ミク、ありがとう……」
ぼそりと漏れた言葉に、彼女は微笑みを返した。

今日が、二人で過ごせる最後の一日だ。
明日の昼の便で、涼太はサンフランシスコに旅立つ。ミクは紗弥やレオと一緒に、羽田まで見送りに行く予定だ。

二人は彼女のアパートの近くにある公園へ足を運んだ。穏やかな日差しが水面にきらめき、ボート乗り場には子どもやカップルの笑い声が小さく響いている。

「ボート乗ろうよ」
ミクが笑みを浮かべながら言うと、涼太は黙って頷いた。

「ボートに乗るなんて幼稚園以来かもな」
涼太はオールを握る手に力を込め、ゆっくりと漕ぎ出した。

「涼太…、明日にはいないんだね」
小さくつぶやくと、涼太は視線を前に向けたまま、少し肩をすくめて答える。

「ああ……だから今日も、ずっと一緒にいよう」

水面に反射する光を背に、二人だけの静かな時間がゆっくりと流れていった。

「ねえ、涼太ってどうして私のこと好きになってくれたの?」
ミクが唐突に訊く。

少し笑いながら視線を逸らし、軽くはぐらかす。
「……なんだよ急に。この間も言っただろ?いつ好きになったかわからないって」

「じゃあ……私の好きなところ、10個言って?」
ミクがボートの揺れに合わせて、ちょっとふざけたように微笑む。

「10個?贅沢だな」
涼太は肩を揺らして笑った。
そして少し照れくさそうに、口を開く。

「まず……顔だな。目も口も、全部好みだ」
「声。おまえの声は何度聞いても飽きない」
「笑顔。笑うと周りがパッと明るくなる」
「気配り。小さなことまで気にかけるところ」
「甘え上手なところ……俺にはかなり効く」
「一途なところ。おまえは本当に、俺のことだけ見てくれる」
「強さ。見た目以上に芯がある」
「スタイルが良いところ。おまえの隣に並ぶと少し気まずい時もあるけど、やっぱり鼻が高い」
「俺の仕事を応援してくれるところ。これは本当に助かってる」
「全部。結局、おまえという人間そのものが好きだ」

涼太は苦なく10個をすらすらと答えた。
 
両手で赤くなった頬を隠す。
「恥ずかしいけど、嬉しい……」

涼太は笑みを浮かべながら、ボートを漕ぐ手を休めず、穏やかな水面を進めていく。

ミクは上目遣いで涼太を見つめ、そっと声を漏らした。
「ねえ、体は?」

涼太は一瞬呆れた顔をして肩をすくめ、苦笑混じりに答える。
「おまえ、何言ってんだよ」

小さく口を尖らせ、少し不満げに眉を寄せる。
「だって、10個の中に入ってなかったよ?」

涼太は大きくため息を吐き、少し目を逸らす。

「言わなくてもわかるだろ?」

「わからないから聞いてるのに…」

彼女の声には、甘え混じりの不満がにじむ。

涼太は一瞬沈黙した後、照れくさそうに目を逸らしたまま答えた。

「……体も最高だよ」

ミクの頬が思わず緩んだ。

涼太の顔をじっと見つめ、真剣な眼差しで言葉を重ねる。
「具体的に言って欲しいな」

涼太は漕いでいたボートのオールを止め、しばらく彼女を見つめた。

「おまえ……面倒くさいな」
苦笑する涼太に、ミクは視線を逸らさず、オールを握る彼の手に自分の手を添えた。

「だって……明日から離れ離れになっちゃうじゃん。ちゃんと知りたいの」

「そんなこと聞くな」
彼女の目を真っ直ぐ見つめたが、彼女も甘えるような目で彼を見つめ返す。

涼太は諦めたように、小さくため息をついた。

「色白で肌が綺麗なところ。華奢なのに肌が柔らかいところ。手足やウエストが細いところ」

言葉を並べ終え、涼太は少し肩をすくめた。
「これでいいか?」
オールを握り直し、再び水面を漕ぎ出した。

ミクは眉をひそめ、小さく口を尖らせる。
「なにそれ、私って細いだけ?」

口調には不満がにじむ。涼太の当たり障りのない言葉に、不満があった。

涼太は再びオールを置き、彼女の顔をじっと見つめた。

「胸が一番好きだ」
淡々とした口調でそう告げる涼太の言葉に、ミクは思わず耳まで赤くなる。

「柔らかくて敏感で、先も淡くて可愛い」

その言葉は軽い冗談やお世辞ではなく、涼太の強い眼差しから放たれたものだった。

ミクは胸の内がぎゅっと熱くなるのを感じ、目の奥がじんわり潤む。
「うそ……嬉しい……」

自分の胸にずっと自信が持てず、梨花と比べて悩んだ時期もあった。

涼太の真っすぐな瞳に見つめられ、思わず涙ぐみながら微笑んだ。

涼太も彼女の顔を見て、そっと微笑んだ。

「そろそろボートを返す時間だな」
オールを握り直し、船着場へと静かに漕ぎ進めた。

船着場に到着すると、涼太は彼女の手をしっかり握った。
「ランチに行こう」

二人は近所の落ち着いたカフェに入り、窓際の席に腰を下ろした。

ミクはふと腕時計に目をやる。
——24時間後には涼太は空の上だ

胸の奥がキュッと痛む感覚に、思わず肩をすくめる。けれど、彼の存在に触れられるこの時間が、かけがえのないひとときであることもわかっていた。

注文を取りに来た店員に、ミクは海老グラタンを、涼太はカツカレーをお願いした。

「昨日あれだけ飲んだのに、カツカレーなんてよく食べられるね」
ミクは目を丸くして驚き、少し微笑む。

「ああ、オレ、次の日に響かないんだ」
涼太は軽く肩をすくめ、スプーンを手にしてパクパクと食べ進める。
二人は言葉少なに料理を口に運びながら、互いの存在をそっと確かめるように視線を交わした。

「ね、涼太って、私の胸が好きなんだね」
少し嬉しそうに、楽しげな声でそう言った。

その言葉に、涼太は思わずカレーでむせて咳き込む。
「おまえっ、声でかいぞ」
慌てて小声で抗議するが、彼女は気にする様子がない。

「だから、昨日酔っ払って私の胸を可愛がってくれたんだね」
少し意地悪そうに、でも楽しそうに言う。

涼太は昨夜のことを覚えていなかったが、顔は赤く染まる。

「沢山揉んで、舐めて吸って……歯形まで付けられちゃったしね」
ミクは嬉しそうに話す。

「おいっ…何の話だ……?ていうか、おまえ声でかいぞ」
小声で叫び、周囲を気にして店内を見渡す。

ミクは気にせず、いたずらっぽく笑う。
「だって本当の話だよ? 見てみる?」
ふざけてTシャツを少し捲ろうとすると、涼太は慌てて手を伸ばす。

「バカ……やめろっ、こんな所で何考えてんだっ」
焦る表情が、ミクには愛おしく映って、思わず声を出して笑った。

涼太はカフェの椅子に座ったまま、手で口元を覆い、心の中で自問自答していた。
(オレ……昨日、こいつを抱いたのか……? 記憶にないぞ……)
さらに頭の中で思い返す。
(ましてや、歯形まで付けた……??)

焦る気持ちを抑えつつ、昨夜の出来事を辿ろうとするが、思い出せるのは焼き鳥屋での深酒のことだけだった。

「ちなみに、最後まで抱いてくれてないよ」
あっけらかんと、涼太の思考を掻き乱すように笑いながら言った。

「好き勝手して、涼太、そのまま私のおっぱいの上で寝ちゃったんだから」

涼太は思わず声を漏らす。
「だから、おまえ声がデカいんだよ!」
慌てて周囲を気にして声を抑える涼太だが、ミクは気にせず、にこやかに笑っている。

その無邪気な表情に、涼太の顔は終始赤く染まったままだった。
顔を赤くしたままカフェのドアを押し開け、外の空気を吸い込む。

「おまえ……発言が大胆すぎるんだよ」
涼太は小さく呟きながら、彼女の額にそっとコツンと触れる。

「そんなことないよ」
にこやかに応じ、涼太の手を優しく握った。
「だって、涼太が本当にしたことだもん」
その言葉に涼太は再び赤面しながらも、握り返された手の温かさを感じた。

手を繋いだまま、二人は夕暮れの街をゆっくり歩き始めた。

ミクが少し寂しそうに声を落とす。
「最後に…涼太の中目黒のマンションに行きたいな」

涼太は軽く苦笑しながら言った。
「もう荷物も運び出されて、なんにもないぞ?」

小さく頷く。
「うん……それでもいいから行きたい」

涼太はしばらくミクを見つめ、深く息を吐くと微笑んだ。
「ああ、わかった。じゃあ行こう」

ふたりは手を繋ぎ、穏やかな沈黙の中、二駅を乗り継ぎ、中目黒のマンションに向かった。
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