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本編
炎と魔法陣
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シエルが違和感を感じたポイントに向かう。金剣を髪で手に縛り付け、デューラを縛り背負って身体を軽くした上でスキルで無理矢理走る。
俺達が進む先の炎は勝手に避け、煙すら近寄らない。そのおかげで俺でも進めるが、熱までは避けることは出来ない。焼けた大地が徐々に俺達の体力を奪っていく。
「シエル、反応は動いてんのか?」
「………んーん」
幸運にもどうも海魔は動いてないらしい。動けない理由があるのか、はたまた動く必要がないのか…もしも後者なら、戦闘になった時に俺は戦えるだろうか。いやむしろ、足手まといにならないだろうか。
「………。」
今さら言っても仕方ない。そもそもあそこにいても、戦闘になればシエルが炎をコントロールする余力もなくなるかもしれない。そうなれば、煙に巻かれた俺が死にかねん。
「………もうそ、こ」
「おう」
平静を装って答える。
『今代の。このまま聞け』
なんだシャル。
『見られてる。誰かはわからんが、お前を監視か観察か……ともかく目をつけられてる。今のところ何かをする様子はないが…警戒はしておけよ』
何?そんな気配はしないが……しかもこの炎の中だぞ?
『気配を誤魔化すのがやたらと上手い。よっぽどの手練れだ。何らかの方法で炎の中を突っ切っているんだろう』
………わかった。ならそいつの方に気を配っといてくれ。
「………つい、た」
シエルが急ブレーキをし、俺も慌てて踏み止まる。
「っ…痛。シエル、どこだ」
「………ん」
指さした先。一際大きな、年季の入った木がそこに根付いていた。
葉は全て焼け落ち、幹にも枝にも火が燃え移り、今にも倒壊しそうにも見えるが、大木故の質量。まだまだ大丈夫な気もしてくる。
「あれか?」
シエルが頷く。
「どうするか……」
「………やく?」
「いや、多分これ以上は効かない気がする」
だったら炎はもう要らない。
「シエル、炎を消せるか?」
「………むり」
まぁ、そりゃそうか。コントロール出来るだけよかったと言うべきだな。
『あの木の根元を緋眼で見ろ。明らかにおかしい反応がある』
言われて見れば、とんでもない魔力のと生命力の塊が木の根と幹の間あたりに見える。そこから魔力の管が伸びら大木の薄皮一枚下のあたりだろうか。魔力が膜のようなものを作っているのが見える。
炎が魔力で出来た膜の上を滑って流されている。恐らく中は無事なのだろう。
「あたりだな」
デューラを下ろし、金剣を杖のように地に着く。
「頼んだ」
「………ん」
身体が軽くなる金剣を使って、身体の負担を最小限にしても辛い。正直シエルに任せたいが、結構彼女も魔法で手一杯のようだ。ほぼ無表情だが、眉がピクピクと動いているのがその証拠。万が一手元が狂われると、自分はともかくデューラが死ぬ。
「っ、せい……!」
戦技を撃つ体力はない。
だったら純粋かつ簡単な一撃を叩き込むだけだ。
タッ、と走り始めると、シエルがそれに合わせて火を避けさせる。
焼けた地の一本道が俺の前に開かれる。
三歩で俺の間合いに入り、金剣を両手で握りしめて横から思い切り振り抜く。
バガッ、と金剣が分厚い幹に半分まで入る。ボロボロの足じゃロクに踏み込めない。
だが。
「シエル!!」
「………んッ!」
シエルが返事した瞬間、俺の金剣が火を噴いた。
その炎は魔力で作られた膜をいとも容易く食い破り、内側から木を焼き潰しにかかる。
タネは簡単、金剣に俺の血で魔法陣を書いておいただけ。シエルがそれを起動させた。
中から凄まじい悲鳴が上がるのを聞き、成功を確信した所で──ポツリ、と。
「ん?」
鼻頭に落ちてきたものは大きな水滴。
突然雨が降り始めたのだ。
俺達が進む先の炎は勝手に避け、煙すら近寄らない。そのおかげで俺でも進めるが、熱までは避けることは出来ない。焼けた大地が徐々に俺達の体力を奪っていく。
「シエル、反応は動いてんのか?」
「………んーん」
幸運にもどうも海魔は動いてないらしい。動けない理由があるのか、はたまた動く必要がないのか…もしも後者なら、戦闘になった時に俺は戦えるだろうか。いやむしろ、足手まといにならないだろうか。
「………。」
今さら言っても仕方ない。そもそもあそこにいても、戦闘になればシエルが炎をコントロールする余力もなくなるかもしれない。そうなれば、煙に巻かれた俺が死にかねん。
「………もうそ、こ」
「おう」
平静を装って答える。
『今代の。このまま聞け』
なんだシャル。
『見られてる。誰かはわからんが、お前を監視か観察か……ともかく目をつけられてる。今のところ何かをする様子はないが…警戒はしておけよ』
何?そんな気配はしないが……しかもこの炎の中だぞ?
『気配を誤魔化すのがやたらと上手い。よっぽどの手練れだ。何らかの方法で炎の中を突っ切っているんだろう』
………わかった。ならそいつの方に気を配っといてくれ。
「………つい、た」
シエルが急ブレーキをし、俺も慌てて踏み止まる。
「っ…痛。シエル、どこだ」
「………ん」
指さした先。一際大きな、年季の入った木がそこに根付いていた。
葉は全て焼け落ち、幹にも枝にも火が燃え移り、今にも倒壊しそうにも見えるが、大木故の質量。まだまだ大丈夫な気もしてくる。
「あれか?」
シエルが頷く。
「どうするか……」
「………やく?」
「いや、多分これ以上は効かない気がする」
だったら炎はもう要らない。
「シエル、炎を消せるか?」
「………むり」
まぁ、そりゃそうか。コントロール出来るだけよかったと言うべきだな。
『あの木の根元を緋眼で見ろ。明らかにおかしい反応がある』
言われて見れば、とんでもない魔力のと生命力の塊が木の根と幹の間あたりに見える。そこから魔力の管が伸びら大木の薄皮一枚下のあたりだろうか。魔力が膜のようなものを作っているのが見える。
炎が魔力で出来た膜の上を滑って流されている。恐らく中は無事なのだろう。
「あたりだな」
デューラを下ろし、金剣を杖のように地に着く。
「頼んだ」
「………ん」
身体が軽くなる金剣を使って、身体の負担を最小限にしても辛い。正直シエルに任せたいが、結構彼女も魔法で手一杯のようだ。ほぼ無表情だが、眉がピクピクと動いているのがその証拠。万が一手元が狂われると、自分はともかくデューラが死ぬ。
「っ、せい……!」
戦技を撃つ体力はない。
だったら純粋かつ簡単な一撃を叩き込むだけだ。
タッ、と走り始めると、シエルがそれに合わせて火を避けさせる。
焼けた地の一本道が俺の前に開かれる。
三歩で俺の間合いに入り、金剣を両手で握りしめて横から思い切り振り抜く。
バガッ、と金剣が分厚い幹に半分まで入る。ボロボロの足じゃロクに踏み込めない。
だが。
「シエル!!」
「………んッ!」
シエルが返事した瞬間、俺の金剣が火を噴いた。
その炎は魔力で作られた膜をいとも容易く食い破り、内側から木を焼き潰しにかかる。
タネは簡単、金剣に俺の血で魔法陣を書いておいただけ。シエルがそれを起動させた。
中から凄まじい悲鳴が上がるのを聞き、成功を確信した所で──ポツリ、と。
「ん?」
鼻頭に落ちてきたものは大きな水滴。
突然雨が降り始めたのだ。
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