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本編
トンネルと雑談
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先頭から順にディレス、ルーシェ、俺、人形の一列に並んでトンネルを進んでいく。
トンネルの中は少し薄暗いかといった風で、縦横もそれなりに広い。と言っても俺が両手を横に伸ばせばほとんどトンネルを塞げてしまうし、人形が少し背を屈めなければ通れない程度なので、広い訳では無い。なんと言うか、「思っていたよりは広かった」と言うのが一番ぴったりか。
特に、明かりを持っているわけでも、トンネル内に照明があるわけでもないのにそこまで暗くないのは少し奇妙な気分だ。トンネル内全体がほんの少しだけ光を発しているので要らないのだ。
「~♪~♪~♪」
足音もほとんど響かないようなトンネルの中に、ディレスの鼻歌だけが静かに響く。どうも非常にご機嫌なようだ。
「あー、ルーシェ。悪いが今どこに向かってるんだ?」
小声でそうルーシェに聞いてみる。
「んーっと…ねぇ…この前…あんないしようとしてたぁ…」
「よくぞ聞いてくれました《緋眼騎士》殿!!」
グルン!!と勢いよく身体ごと振り返るディレス。ちなみに身体をこちらに向けたまま、足は止めていない。ぶつかったりコケたりすんなよ。
「これからアナタが向かうのはこの学校が始まると同時にひっそりと作られた研究所でございます。ご存知かとお思いですがこの学校、上は六階下は四階まで存在しておりま──失礼、以前、どこぞの龍人種が強引に増築をして上は七階でしたか──兎も角、下は四階まで存在しておりますが、生徒達が使っているのは殆ど上の方だけ。下の階は精々僅かに物置として使われている状態なのです。
それに──おかしいとは思いませんか?なぜこんなにも大きく広く作ってあるのに生徒数はごく僅か。使っている教室も空きが多くて、ほとんど意味を為していないものばかり。
やたらと縦に長く、横にはそこまで広くない、長方形の箱を地面に突き刺したようなこの形をした学校はかなり無駄が多いと思いませんか?
普通に考えるなら横に長い方が建てるのにも楽で、利用するにも楽でしょうに……
その答えがワタクシ共の存在ですね!実を言いますとワタクシ共研究者の楽園が裏側にびっしりと、アリの巣のように存在しているわけです。縦長の構造はワタクシ共がよく使うエレベーターという装置の関係でこちらの方が楽だからですね。空き教室が多いのも、実はエレベーターの出入口だったり、外との外観を見て妙に壁が厚いのを誤魔化すためだったりします。所謂カモフラージュって奴ですね」
確かにうちの学校は無駄にデカいし広い。壁や床が厚いのはバカがぶっ壊さないようにだろうと思ってそこまで気にしていなかったが、こういう奴らが通る為だったのか。
「ん?でも待て、前に《黒法師》が床ぶち抜いて下の階に生徒落としてたけど、人が通れるような穴なんてなかったぞ?」
偶然こうしたトンネル…いや、この場合は幅的に穴か。そういった物がない所に落ちたのだろうか。
「先程、アリの巣のようにと言いましたが、実際にそんな事をすれば建物全体が脆くなりすぎてしまいますので、こういう風なトンネルを作る事をしているのはごく僅かです。人ひとり分通れる厚さがあれば、先程言ったエレベーターという装置を使えば通ることができます。必要なのは人ひとりが通れる厚さ。言い換えるなら、人ひとりが通ってもバレない厚さですね」
ふぅん。
「あ、もう一個聞いていいか?」
「はい、なんでも!ワタクシ、こう言った話が大好きでして、なんでもお答え致しましょう!」
「あっそう。じゃあずっと笑顔でお前の後ろにピッタリ張り付いてる人、誰?」
「……はぃ?」
ディレスがそっと後ろを振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた長身痩躯の白衣の女。
「ディーーーーレーーーースーーーーぅ?」
にっこりと笑いながらそう言う人物の姿を見た瞬間、ディレスの身体が凍りついた。
「え、いや、あの、何故ここに?今日の出迎えはワタシだと……」
「聞いてたわよ。アンタがお客さんを迎えに行くってことも、相手が《緋眼騎士》さんだってことも、それを聞いて絶対に自分が迎えに行くって所長に土下座までして行ったってことも──アンタが機密をベラベラと初対面の人にぶちまけてたことも、全部ね」
ディレスになにか小さく囁き、一発恐ろしい音のデコピンを額に打ち込んでから長身の彼女がこちらへ来た。
「ようこそウチへ。歓迎はするけどもてなしはできないわ。なんせただの研究所ですものね。ついてきて。もう着くわ」
そう言って先頭のディレスを引きずってさっさと行ってしまう。
「…どうすりゃいいの?」
「とりあえずぅ…いこう…?」
後ろを振り返っても人形がいて引き返せない。どうせ進むしかないか。
トンネルの中は少し薄暗いかといった風で、縦横もそれなりに広い。と言っても俺が両手を横に伸ばせばほとんどトンネルを塞げてしまうし、人形が少し背を屈めなければ通れない程度なので、広い訳では無い。なんと言うか、「思っていたよりは広かった」と言うのが一番ぴったりか。
特に、明かりを持っているわけでも、トンネル内に照明があるわけでもないのにそこまで暗くないのは少し奇妙な気分だ。トンネル内全体がほんの少しだけ光を発しているので要らないのだ。
「~♪~♪~♪」
足音もほとんど響かないようなトンネルの中に、ディレスの鼻歌だけが静かに響く。どうも非常にご機嫌なようだ。
「あー、ルーシェ。悪いが今どこに向かってるんだ?」
小声でそうルーシェに聞いてみる。
「んーっと…ねぇ…この前…あんないしようとしてたぁ…」
「よくぞ聞いてくれました《緋眼騎士》殿!!」
グルン!!と勢いよく身体ごと振り返るディレス。ちなみに身体をこちらに向けたまま、足は止めていない。ぶつかったりコケたりすんなよ。
「これからアナタが向かうのはこの学校が始まると同時にひっそりと作られた研究所でございます。ご存知かとお思いですがこの学校、上は六階下は四階まで存在しておりま──失礼、以前、どこぞの龍人種が強引に増築をして上は七階でしたか──兎も角、下は四階まで存在しておりますが、生徒達が使っているのは殆ど上の方だけ。下の階は精々僅かに物置として使われている状態なのです。
それに──おかしいとは思いませんか?なぜこんなにも大きく広く作ってあるのに生徒数はごく僅か。使っている教室も空きが多くて、ほとんど意味を為していないものばかり。
やたらと縦に長く、横にはそこまで広くない、長方形の箱を地面に突き刺したようなこの形をした学校はかなり無駄が多いと思いませんか?
普通に考えるなら横に長い方が建てるのにも楽で、利用するにも楽でしょうに……
その答えがワタクシ共の存在ですね!実を言いますとワタクシ共研究者の楽園が裏側にびっしりと、アリの巣のように存在しているわけです。縦長の構造はワタクシ共がよく使うエレベーターという装置の関係でこちらの方が楽だからですね。空き教室が多いのも、実はエレベーターの出入口だったり、外との外観を見て妙に壁が厚いのを誤魔化すためだったりします。所謂カモフラージュって奴ですね」
確かにうちの学校は無駄にデカいし広い。壁や床が厚いのはバカがぶっ壊さないようにだろうと思ってそこまで気にしていなかったが、こういう奴らが通る為だったのか。
「ん?でも待て、前に《黒法師》が床ぶち抜いて下の階に生徒落としてたけど、人が通れるような穴なんてなかったぞ?」
偶然こうしたトンネル…いや、この場合は幅的に穴か。そういった物がない所に落ちたのだろうか。
「先程、アリの巣のようにと言いましたが、実際にそんな事をすれば建物全体が脆くなりすぎてしまいますので、こういう風なトンネルを作る事をしているのはごく僅かです。人ひとり分通れる厚さがあれば、先程言ったエレベーターという装置を使えば通ることができます。必要なのは人ひとりが通れる厚さ。言い換えるなら、人ひとりが通ってもバレない厚さですね」
ふぅん。
「あ、もう一個聞いていいか?」
「はい、なんでも!ワタクシ、こう言った話が大好きでして、なんでもお答え致しましょう!」
「あっそう。じゃあずっと笑顔でお前の後ろにピッタリ張り付いてる人、誰?」
「……はぃ?」
ディレスがそっと後ろを振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた長身痩躯の白衣の女。
「ディーーーーレーーーースーーーーぅ?」
にっこりと笑いながらそう言う人物の姿を見た瞬間、ディレスの身体が凍りついた。
「え、いや、あの、何故ここに?今日の出迎えはワタシだと……」
「聞いてたわよ。アンタがお客さんを迎えに行くってことも、相手が《緋眼騎士》さんだってことも、それを聞いて絶対に自分が迎えに行くって所長に土下座までして行ったってことも──アンタが機密をベラベラと初対面の人にぶちまけてたことも、全部ね」
ディレスになにか小さく囁き、一発恐ろしい音のデコピンを額に打ち込んでから長身の彼女がこちらへ来た。
「ようこそウチへ。歓迎はするけどもてなしはできないわ。なんせただの研究所ですものね。ついてきて。もう着くわ」
そう言って先頭のディレスを引きずってさっさと行ってしまう。
「…どうすりゃいいの?」
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