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本編
所長室と所長
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ディレスを引きずる女の言った通り、一分としないうちにトンネルが終わり、やや手狭な部屋へとたどり着いた。
壁が見えないほど本棚が置いてあり、そこに隙間が見えないほど本やファイルが詰め込んである。
部屋の中央には質素な机とイスがひと組ポツンと置いてあり、その上も本やファイル、なにか細かく書いてある紙が散乱している。
もしも本棚の物や机に積んである物も全て紙ならかなりの量になるが…紙は貴重品という認識が壊れそうだ。
「ここは…?」
「所長室。ちょっと所長呼んでくるから待っててね」
そう言って女はディレスを引きずったまま来た道を戻り始めた。
はて、ここに来るまで一本道だったと思うが、一体どこに所長とやらがいるというのだろうか。
「…ところでルーシェ、いい加減お前に聞きたいことがあるんだが」
「なぁにぃ…レイ君…?」
「一体何用で俺やらアーネを呼び出したんだ?」
正直俺はこの前の研究所破壊突破事件のことを追求されるモンだと思っていたのだが、呼ばれていたのはアーネもだったし、何故か靴裏とか確認されたし、今に至ってはロクに知らない研究所の所長とやらに会おうとしている。場合によってはこの場にアーネも居たというのが尚更意味がわからん。
「んーっと…ねぇ…私のぉ…用事はぁ…ちょっと前にねぇ…ここの壁がぁ…壊されちゃってぇ…」
まぁその辺は想定済み。と言うかそれしか予想してなかった。
「で?」
「んー…多分、やったのってぇ…レイ君だよ、ねぇ…?」
「ああ、そうだ」、と言うより早くルーシェが言葉を続けた。
「と、思ったんだけどぉ…違うっぽいしぃ…」
「へぇ、なんで?俺何もしてないと思うんだけど」
「靴跡がぁ…そこに残ってたのとぉ…ちがったしぃ…」
靴跡?なんの事だ。そもそもあそこ、床は土とかじゃないからつくわけないし。
「ま、その辺はぁ…もうどうでもいいみたいだしぃ…いいんじゃなぁい…?」
「どうでもいい…みたい?」
「うん…ここのぉ…所長にぃ…お願いされたんだけどぉ…」
ルーシェはそこでピタリと言葉を止めた。
「?、どうし──」
「お待たせ。所長を連れてきたわ」
そう言ってさっき出ていった女が戻ってきた。
「んぇー?ここ?久しぶりに部屋に戻った気がするにぇー」
「約四日ぶりですね。そのせいで各所の研究室が混乱して大変でしたが」
「ありり?そうだっけ?私そんな邪魔した?」
「えぇ。ですが今はその後処理よりも…」
「あっそうだ!るーにゃん来てるんだっけ?どこどこどこ!?」
「ちゃんとこの部屋にいますよ。ちゃんと耳か鼻を使ってください」
「ぷぇ~、イーノのけちんぼ…教えてくれたっていいじゃん」
女が連れてきたのはこの前研究室でニアミスをした黒茶頭の女。こいつ所長だったのか。
「あれ?もう一人いる?誰?」
こちらを向いた所長の目は白く濁り、焦点をこちらに合わせられていない。
「ごめんにゃー?私、ちょっと昔に失明しちゃっててねん。知らない匂いがしたから多分はじめましてなんだけどー、もしかしてどっかで会ってた?」
「…いや、初対面だな」
「おっ?その声は…イーノ、ラの十二番ファイル取って」
「はい所長。これですね」
間髪入れずに渡される分厚いファイル。
「えーっと、あぁうん。君が《緋眼騎士》のレィア・シィル君だね?初めまして。私はラピュセ・ガウヴラン。ここの研究室の…一応所長をやってるよ」
「え、あ、うん、はじめまして。レィア・シィルだ」
「うん、知ってる」
突然ふざけていた雰囲気が抜け、真面目に自己紹介をしてくるラピュセ。
…ん?
「ガウヴラン?」
「そ。ガウヴラン。ラピュセ・ガウヴラン。苗字は言い難いでしょうし気軽にラピュセとかピュセとか所長とか…まぁ適当に呼んでくれればいいわ」
いやそこじゃなくて。
「何ルーシェ、お前の姉か何か?」
確かルーシェ…本名ルルシェルの苗字もガウヴランだった気が…
「んーん…おねえちゃんじゃぁ…ないよぉ…?」
じゃあ偶然の一致か。変わった苗字なのによくも綺麗に一緒になったものだ。
「おかあさんだよぉ…」
「ふーん…へっ?」
お母さん?母?マミー?
「そうよ。私はるーにゃ…失礼、ルーシェの母親です」
この二人が?親子?
正直似てねぇ。
壁が見えないほど本棚が置いてあり、そこに隙間が見えないほど本やファイルが詰め込んである。
部屋の中央には質素な机とイスがひと組ポツンと置いてあり、その上も本やファイル、なにか細かく書いてある紙が散乱している。
もしも本棚の物や机に積んである物も全て紙ならかなりの量になるが…紙は貴重品という認識が壊れそうだ。
「ここは…?」
「所長室。ちょっと所長呼んでくるから待っててね」
そう言って女はディレスを引きずったまま来た道を戻り始めた。
はて、ここに来るまで一本道だったと思うが、一体どこに所長とやらがいるというのだろうか。
「…ところでルーシェ、いい加減お前に聞きたいことがあるんだが」
「なぁにぃ…レイ君…?」
「一体何用で俺やらアーネを呼び出したんだ?」
正直俺はこの前の研究所破壊突破事件のことを追求されるモンだと思っていたのだが、呼ばれていたのはアーネもだったし、何故か靴裏とか確認されたし、今に至ってはロクに知らない研究所の所長とやらに会おうとしている。場合によってはこの場にアーネも居たというのが尚更意味がわからん。
「んーっと…ねぇ…私のぉ…用事はぁ…ちょっと前にねぇ…ここの壁がぁ…壊されちゃってぇ…」
まぁその辺は想定済み。と言うかそれしか予想してなかった。
「で?」
「んー…多分、やったのってぇ…レイ君だよ、ねぇ…?」
「ああ、そうだ」、と言うより早くルーシェが言葉を続けた。
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「へぇ、なんで?俺何もしてないと思うんだけど」
「靴跡がぁ…そこに残ってたのとぉ…ちがったしぃ…」
靴跡?なんの事だ。そもそもあそこ、床は土とかじゃないからつくわけないし。
「ま、その辺はぁ…もうどうでもいいみたいだしぃ…いいんじゃなぁい…?」
「どうでもいい…みたい?」
「うん…ここのぉ…所長にぃ…お願いされたんだけどぉ…」
ルーシェはそこでピタリと言葉を止めた。
「?、どうし──」
「お待たせ。所長を連れてきたわ」
そう言ってさっき出ていった女が戻ってきた。
「んぇー?ここ?久しぶりに部屋に戻った気がするにぇー」
「約四日ぶりですね。そのせいで各所の研究室が混乱して大変でしたが」
「ありり?そうだっけ?私そんな邪魔した?」
「えぇ。ですが今はその後処理よりも…」
「あっそうだ!るーにゃん来てるんだっけ?どこどこどこ!?」
「ちゃんとこの部屋にいますよ。ちゃんと耳か鼻を使ってください」
「ぷぇ~、イーノのけちんぼ…教えてくれたっていいじゃん」
女が連れてきたのはこの前研究室でニアミスをした黒茶頭の女。こいつ所長だったのか。
「あれ?もう一人いる?誰?」
こちらを向いた所長の目は白く濁り、焦点をこちらに合わせられていない。
「ごめんにゃー?私、ちょっと昔に失明しちゃっててねん。知らない匂いがしたから多分はじめましてなんだけどー、もしかしてどっかで会ってた?」
「…いや、初対面だな」
「おっ?その声は…イーノ、ラの十二番ファイル取って」
「はい所長。これですね」
間髪入れずに渡される分厚いファイル。
「えーっと、あぁうん。君が《緋眼騎士》のレィア・シィル君だね?初めまして。私はラピュセ・ガウヴラン。ここの研究室の…一応所長をやってるよ」
「え、あ、うん、はじめまして。レィア・シィルだ」
「うん、知ってる」
突然ふざけていた雰囲気が抜け、真面目に自己紹介をしてくるラピュセ。
…ん?
「ガウヴラン?」
「そ。ガウヴラン。ラピュセ・ガウヴラン。苗字は言い難いでしょうし気軽にラピュセとかピュセとか所長とか…まぁ適当に呼んでくれればいいわ」
いやそこじゃなくて。
「何ルーシェ、お前の姉か何か?」
確かルーシェ…本名ルルシェルの苗字もガウヴランだった気が…
「んーん…おねえちゃんじゃぁ…ないよぉ…?」
じゃあ偶然の一致か。変わった苗字なのによくも綺麗に一緒になったものだ。
「おかあさんだよぉ…」
「ふーん…へっ?」
お母さん?母?マミー?
「そうよ。私はるーにゃ…失礼、ルーシェの母親です」
この二人が?親子?
正直似てねぇ。
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