大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

亡き人と昔話

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血鎖けっさ?」
『そう、キミの背中から飛び出た、あの鎖にはそういう名前がついてるんだ』
「んで、その血鎖とやらが出たから、なんでナナキが出てくるって話になるんだ?」
『使い方を教えるために』
一瞬の空白すらなく即答。
「ナナキが?なんで使い方を教えるって事に?」
『…少し、昔話をしようか』
ナナキは一拍空け、そして話を始めた。
『今から…そうだな、七十年以上前、けどまぁ、八十年は昔じゃない、そのぐらいから昔話は始まる。
ある時、さびれた村のその隅で、女の子が生まれた。ただし、親のいない…捨て子だったんだ。
そしてその村にも魔族は当然進行してきて、村の人はほとんど死んでいった。
そんな彼女は、わずか五歳にして小さなナイフを持ち、村人の死体に紛れ、魔族がフラリと寄った瞬間に手にしたナイフでその魔族の喉元を引き裂いた。これが』
後に勇者、と呼ばれ、死してなお生き恥を晒し続ける愚か者の始まりルーツだ。
そうナナキは一度締めくくった。
しかし、すぐに続きを語り始める。
『さて、その後は彼女は国の軍によって保護されたが…彼女は自ら強く望んで軍に入った。当時たしか…七歳だったか。
彼女は軍に入り、芽生えたスキルを百パーセント以上引き出し、たったひとりで何十、何百もの魔族をひとりで倒してきた。歳を重ね、十六になる頃には勇者と呼ばれていたけど、胸が邪魔だときつく縛り、身体に纏わりつくのが嫌で髪を常に短くしていたから、男と勘違いされ、彼女も否定するのが面倒でそのままにしていたから、もし当時を知るものがいたら勇者は男、と思っているかもしれないけどね
しかし、そんな彼女も長年戦っていればそのうちガタが来る。
ある戦いで遂に死に、その命は三十年と持たなかった………はずだったのに』
そこでナナキは苦しそうに唇を噛んだが、すぐに話を続ける。
『ちょうど彼女が…勇者が死んだと同時期に、同じようにさびれた村から、一人の奇跡が生まれる。そう、聖女の誕生だ。
勇者と違い、聖女というシステムはかなり完成度が高いシステムらしく、死んだら次の聖女が生まれる…そして、二代目はちょっとした鬼才だったみたいだね。ある時、結界の弱かったところを迎撃するためにホムンクルスを創ることを考え、適任者を探した。
ホムンクルスに必要なのは、肉体を創る胤、あとは人格。肉体は当時最強と言われた騎士のものを使い、人格は当時最強だった騎士よりも相応しいものが過去にいた。そう、勇者だ。
二代目はあちこちを視察という名目で歩き回り、遂に勇者の墓を暴き、その人格を抽出することに成功、さらにコピーアンドペーストまでしてみせた』
つまり、とナナキは昔話を締めくくりにかかる。
『ボクは過去に勇者をやっていた事があるんだよ』
そして、と。
『そのキミが背負っているマーク、それは《勇者紋》と呼ばれる、勇者の証だ』
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