大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

別行動と人形

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ニケを急いでプクナイムへ送り、俺は森に残る。理由は二つ。
ひとつは一分一秒でも早く情報を届けるため。俺がいる分ニケが遅くなるのは避けたい。
説明についても、ニケは馬鹿だが頭が悪い訳では無い。説明もそれなりに出来るはずだし、少なくともアレが糸ではなく虫であるとだけでも伝われば、きっと向こうは察してくれるだろう。
そしてもうひとつは、俺があの戦場に戻って出来ることは無いからだ。
勿論、あの糸のような寄生虫を倒せないとかそう言う理由ではない。知っていればちゃんと殲滅出来る。
だが、当たり前だが効率が悪い。悪過ぎる。何百といる魔獣の首をただ斬るだけなのだから、この前のように真夜中になるだろう。
都市側からしたら、そんな奴はとっとと後ろに下がって欲しいはずだ。
俺なら都市側の魔法部隊なりなんなりを引っ張り出して、城壁がまだ健在なうちに広範囲かつ大規模な魔法を落とす。丁度前にアーネがやったように。
そんな訳で俺は暇になった訳だ。
情報を伝え終わって手が空いていたら俺を連れてプクナイムに戻ってくれとニケに言ったのだが、多分あちこちに行ったり来たりしなくてはならないだろうし、しばらく時間はあると見て間違いないだろう。
「さて、と」
そうなると、この人形を片付けなくてはならない。どうもアベルも俺に敵意がないと分かっているらしく、特に抵抗も何もしない。
「聞こえてるんだよな?なら悪いが、またお前には眠っててもらう。いいか?」
アベルがこっくりと頷く。
聞こえはしているし、意味もわかっているようだが、声は出ないらしい。まぁ、人形に呼吸は要らないから普通に考えりゃ喋れんわな。
「シャル、今のうちに説明しろ」
『……そうさな。こいつは元々俺の部下…というか右腕でな。色んな任務に連れ回していたんだが…実は機人のスパイでな。腕は立つしスキルも持っていたように見えたから、完全にやられたよ』
「スキルつってもしょぼい能力なら誤魔化せそうだが…」
『アベルの能力は《変容》。身体を好きな材質、好きな形に変化させる能力だ』
「…機人にゃスキルはないんだろ?それに魔力がないから魔法が使えない。ってんならどうやって姿を変えたりしてたんだ?」
『自前の能力さ。こいつはそもそもヒトでも機人でも、ましてや魔族でもない。お前の金剣、アレのヒトガタの姿だ』
「…は?」
『ありとあらゆる物に通じる能力、それが機創人の特殊ユニット。森羅万象遍くを形とした一対の武装。それがお前の言う金剣、銀剣の本来の正体。比翼にして連理。故にその名前は比翼の剣。個別の名前は《連》と《理》だ』
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