大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

朝と腕

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翌朝、リビングで一人、乾いた木を弄っていると、ひたひたと足音が聞こえて来た。
「何だお前、もしかして一睡もしなかったのか?」
起きてきたヤツキに、開口一番そう言われた。
「…あぁ、寝れない友人の相手やら結界抜けてきた魔獣の相手でいつの間にか日が昇っててな。それよかこれ、どうだ」
「ん」
と言ってとりあえず出来た右腕を寄越す。
ヤツキは渡されたそれを付けようとするが、やはり慣れていない様子。
黙って俺が着けてやると、二、三度腕を回して握り拳を開いて閉じてと動作を確認する。
「寸分違わず同じか。測った様子もメモした様子もなかったのに。良くやる」
「何度触ったか分からんからな。身体が覚えてる」
そう言ってもう一本分のパーツを組み立て、そちらもヤツキの腕と交換して確認する。
「んー…やっぱりこっちはちょい重いか」
「あぁ。とは言えこれぐらいなら許容範囲だ」
「そうか。三本もあれば暫くは大丈夫だろ。多分次に来るのは年末…冬の大行進の時には戻る」
「わかった。出るのは今晩だったな?」
「ん…まぁ遅くとも。それがどうかしたか?」
「いや何、確認しただけだ」
そう言ってヤツキが懐から出したのは傷だらけの銀の鍵。それを俺に渡した。
「昨日言ってたヤツだ」
とだけ言ってヤツキは家を出ていった。朝の見回りだろう。
んー、夜に出るとは言ったものの、もっと早い方がいいかもな。ユーリアの体調も気になるし、ヤツキもユーリアが合わないみたいだし。
そう思い、髪の中から一本の矢を出す。
別に大した代物ではない。学校長の矢で、これを折れば学校長に矢が折れた事が伝わるらしい。これを合図にして迎えのトゥーラがこちらに向かうというそれだけの物。
「よっこい…あら?」
思ったより硬く、まるで折れなかったので少々困惑したが、マキナと髪を使って全力で力を入れると、ようやく折れた。
やってて虚しくなったが、これは俺の非力さが悪いのか、それともやたら硬い矢を渡した学校が悪いのか…まぁ、事故で折れたら困るのは分かるが。
来た時間を考えると、およそ四時間から五時間か。どれ、一眠りするかね。部屋に戻る…程でもないか。軽い仮眠だし。
そう思い、静かに瞼を閉じて眠る。
それからどのぐらい過ぎたか。家の戸が鳴る音で目が覚めた。
「時間」
『只今午前九時丁度です』
「わかった」
ざっと二時間。まぁそんなもんか。椅子の上で寝たため身体が少々痛い。
背伸びをしつつ立ち上がると、丁度帰ってきたヤツキと目が合った。
僅かに血と汗の匂いがする。どうやら一戦交えて来たらしい。
耳長種エルフは?」
「ユーリア?そういや見てねぇな。部屋にいんじゃねぇか?」
昨晩は結構遅くまで話していた。疲れもあっただろうが、話の途中で寝落ちしたユーリアと言うのがなんとも珍しかった記憶がある。
流石に起こすのも放置するのも忍びなかったので、部屋に運んで寝かせたやった。
「…見てこい」
「俺が?まぁいいけど」
「早く」
何だ、妙に急かすな。そんなに気になるなら俺じゃなくてヤツキが行きゃいいのに。
ノックしても返事なし。少し待ってもう一度するが、やはり反応はない。
「ユーリアー、入んぞー」
と言って入ろうとするが、鍵がかかってる。
「ん…?」
あれ、俺昨日鍵掛けたっけ?いやそんな事しねぇよな。
少し考え、マキナを鍵穴に差して即席の鍵を作って開ける。
「ユーリアー?起きてんのかー?」
すると、部屋の中央で布団にくるまった何かがいるのが見えた。
「…ユーリア?」
直後、氷の槍が顔に目掛けて飛ばされてきた。
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