大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

本編

怯えと原因

前動作も何も無く、突如放たれた氷の槍。
「ん」
しかしそれは、俺が何か反応するまでもなく、マキナの自動反応で叩き落とされる。
次弾があるかもしれないと考え、魔法返しを意識して強化。通常時以上、血鎧未満の魔法耐性になる。
念の為いつでも剣を抜けるよう構えておきつつ、もう一度「ユーリア？」と声を掛けながらゆっくり近づく。
今のところ魔法の気配はない。近づいていくと、丸まった布団が僅かに震えているのがわかった。
「おい」
と言って触れた瞬間、強い衝撃と共に腕が弾かれた。
「障壁!?」
さらに連鎖するように氷の魔法、土の魔法が発動。俺を取り囲むように発動したそれらが、一斉に放たれた。
「馬ッ鹿野郎！」
マキナを放り投げて実体化、さらに偽剣を渡し、俺は俺で金剣を握って落ちてくる魔法全てを叩き壊す。
魔法自体は俺を害することは出来ない程度の魔力量。これがあと十倍の数あっても俺に傷はつかなかっただろう。
だが、こんなものが着弾したら俺ではなく家が吹っ飛ぶ。全てが正確に俺に落ちるとも思えん。
ンな事されてたまるか。
金剣の能力によって軽くなった身体を十全に活かし、全ての魔法を撃墜。部屋が多少荒れたが、これぐらいなら問題は無い。
「おいユーリア！どうした俺だ！レィアだ！」
と言っても反応はない。仕方が無いのでそのまま金剣で障壁をぶった斬り、布団をひっぺがす。
すると、完全に怯えきった目をし、カタカタと小刻みに震えているユーリアと目が合った。
「あ…あ、あ…？」
「どうした？何があった？」
こんな状態のユーリアは見たことがない。森に来た時から様子がおかしかったが、今回は特に異常だ。
「レィ…ア？」
「そうだ俺だ。落ち着け。何があった」
「ずっと見られてて、木が。ずっと、一晩中。話しかけられた。呻きながら、すっと。で、赤い眼が…眼が──」
そこでユーリアがもう一度俺の目を見て、顔を強ばらせた。
「う、うわぁああああああああ!?」
「ユーリア!?」
魔法か剣か。それとも逃走か。何をしようとしたかは分からないが、ユーリアが暴れようとした瞬間、がくんと気絶した。
「おいユーリア!?大丈夫か!?」
「私が後ろから気絶させただけだ。落ち着け」
いつの間にか部屋に入っていたヤツキがそう言った。
「…大切な友達が頭おかしくなったんだぞ。落ち着いてられるかよ」
「この森を出ればじきに収まる。言っただろう。この森の木と耳長種エルフは相性が悪いと。迎えが来るまでそのまま寝かせておけ」
「ユーリアがこうなった理由、知ってんだな？」
「もちろん。遠因は昔の私だしな」
「…どうせ迎えが来るまであと二時間はかかる。聞かせてもらいたいんだが」
「いいぞ。というか聞いてなかったのか。お前の中の私に」
「あ？何が」
パッと思い当たる節は無い。それに反応からして、シャルは今いないらしい。
「本当に知らないのか？当たり前だが勇者に引っかかる話だ。他言は無用だぞ」
と言ってヤツキは語り始めた。
「この森の木は元々機人の生きた耳長種エルフ達だった。それが敗戦してグルーマルの手によって木々に変えられたんだよ」
「…は？いや待て、耳長種エルフはハーフになってヒトに組み込まれたんじゃ？」
「それは極一部の裏切り者の話だ。機人のほとんどはグルーマルの勧めを断り、見せしめにこうなった」
と言って、窓から見える木々を指さす。
「耳長種エルフはここらの樹木に。龍人種ドラゴニアンと槌人種ドワーフは貴金属や宝石、魔石に。その上から巨人種ジャイアントを被せて全ての金属や宝石がでる夢のような山となった。妖精種フェアリーは溶かされて海の上に放たれ、幻影を見せる霧になって永遠に海の上をさ迷っている」
「獣人種ビーストマンはどうなった？」
「あいつらは機人の大半を占めてたからな。俺が戦争でほとんど殺し尽くした。残った奴らはほぼ全員グルーマルに従ったし、従わなかったヤツらはその場で自害したから何も残っちゃいない。他の種族も昔はもっといたんだが、滅ぶか全員拒否して何かに生まれ変わったかだ。機人を裏切って生き残ろうとした奴がざっと六種。それが今の貴族だの大貴族だのの先祖だ」