大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

休息と鼓動

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あくまで「ある程度」であり、決定的な証拠もまだない。加えて完全には絞りきれていないので、名前はまだ挙げないそうだ。だが、逆に言えばそれなりに絞り込めてはいるらしい。どう絞ったか分からんが。
「けど、もう少しな気がするんですわよね……それが少し引っかかるんですけれど」
そう言ってアーネは首を傾げる。
「まぁ、分かってるだろうけど、その辺のことを俺に聞いてもわかんねぇからな。頑張ってくれ」
「えぇ。もちろんですわ」
とまぁ、そんな会話をして、久しぶりの自室に戻る。
魔族に攻め込まれ、逆に攻め込み返し、そして倒れ、起きたらすぐに王都へ送られたので、自室に戻るのは非常に久しぶりに感じる。
学校長に、今日は休んでいいと言われたのでゆっくりしてようか。
久々のベッドに軽く飛び込むようにして寝転がると、アーネが俺目掛けて思い切り飛び込んで来た。
「のぅわっ!?」
咄嗟に髪で受け止めようとするが、距離が近すぎる。衝撃を殺し切り、ソフトに俺の上に置くのが精一杯だった。
危ねぇな、と言おうかと思って口を閉ざす。
ぎゅぅぅぅうっ、と俺を抱きしめながら、アーネは自身の顔を、俺の薄い胸板に擦り付ける。
「……少し汗臭いぞ」
英雄と一戦交え、そのままベル達を走って帰した後、すぐに転移したのでシャワーなど浴びていないし、汗もロクに拭えていない。
だからそう言ったのだが、アーネはむしろ強く俺を抱きしめ、深く息を吸って、そして吐いた。
「……おい」
「構いませんわよ。これぐらい。一週間ぶりですのよ。ちょっと補給させてくださいまし」
「補給って……何をだよ」
「生きる活力ですわ」
んな大袈裟な。そう思いつつ、無理矢理引き剥がす程の事でもないのでしばらく放置する。
まぁ、でも流石に吸うのはやめろと言っておく。
そうすると、アーネは若干名残惜しそうにこちらを見たあと、ずりずりと身体をずらし、俺の顔の所まで頭を持ってきて、下から頬にキスをした。
「……なんか変なモンでも食ったか?」
「そんなことは無いですわよ……ただ単に寂しかっただけですわ」
こんな事言う奴だっけ。そう思って今までのアーネを振り返ってみるが、変なタイミングで弱気になったり、突然スイッチが入ったかのように、本音を漏らすようになっていたように思う。
存外こちらが本音で、いつもこうしていたいと思っていたりするのかも……なんて考えたが、流石にそれは極端すぎるかと軽く否定する。
たまに壊れるぐらいは誰しもあるか。
そう思い、なら俺も応えるぐらいはしようかと、彼女の背中に手を回し、こちらも少しだけ抱きしめ返す。
すると、アーネが驚いたように震え、その反応に俺が手を止めると、「もっとやれ」と視線で訴えたられたので再度抱きしめ返す。
うーん、柔い。男と女だからなのか、それとも戦士と魔法使いだからなのか。皮膚の下には脂肪があり、それが俺の腕を柔らかく受け止める。
互いに抱きしめあった結果、彼女の胸が押し付けられ、分厚い脂肪の奥にある心音が、早鐘を打っているのを胸板で拾う。
「緊張、してますの?」
ふと、アーネがそう言う。
「いや?」
「嘘ですわね。だってほら、あなたの心臓が、こんなに早く鳴ってるんですもの」
「お前の方のだろ」
「あなたもですわよ」
そうだろうか。そう思って、自分の心音に意識を集中してみるが、何故だかどうもよく分からない。
仕方なく「気の所為だろ」と言うと、アーネは「そういう事にしておきましょう」と言って、俺の頬にもう一度口付けをした。
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