大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

早起きと会談

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小さく腰元に振動が伝わる。
うっすらと意識が浮上し、抗いがたい睡魔がもう一度俺を沈みこませようとした所で。
『マスター・予定の時刻です』
「………………………くぁ。わかった。今起きる」
そうだった。用事があるんだった。
欠伸を一つ吐きながら身体を起こす。
時間は深夜三時。眠らないマキナに、時間になったら起こすように言ってあったから間違いないだろう。
聖女サマとのデートは零時丁度ぐらいまで続いたが、聖女サマは明日も…と言うか今日も早起きなのだろう。もしかしたら、昨日できなかった修行とやらを今までしていて、ついさっき寝たかもしれない。
ちなみに打ち上げの屋台とかが終わったのもその時間。それでもまだ広場に残る奴らはいたがな。
俺?俺は勿論速攻で部屋に戻って、先に部屋にいたシエルと一緒に寝た。
昨日で聖学祭はすっぱり終わり。今日の七時頃、それぞれ宿屋を出て学校を目指す予定だ。
まぁ、三時起きた訳だが。
眠気を軽く振り払い、まだぐっすりと寝ているシエルの頭を軽く撫でてから一言呟く。
「…いくか」
誰かに言うわけでもなく、強いて言うなら自分に対して言ったその言葉が暗闇に溶ける頃には部屋を出ていた。
扉からではなく、窓からだが。
「よっ」
伸ばした髪が屋根のへりを捕え、いとも容易く俺の身体を釣り上げ、屋根の上に乗せる。
「っ、寒いな。流石に」
愛用しているコートの襟を立て、髪をマフラーのように巻いて走り出す。
寝起きの身体はやたら硬くて動きにくかったが、俺のスキルは身体を自由に動かすスキルだ。二歩歩く前に身体はほぐれた。
音もなく屋根を飛び歩き、大きな壁……都市と都市を区切る壁を一つ、飛び越え──ようかとした所で、目的の人物が見えた。
それは細く、しなやかな身体をしつつ、それでいながら柔軟かつ強靭な筋肉を連想させる身体付き。
露出がやや多く寒そうに見えるが、それをおくびにも出さずに、細長い槍を一本、弄びながら俺を待っていた。
「よう、《ジャガー》」
「はぁい、《緋眼騎士》ぃ」
屋根の端と端、俺の武器の間合いの外、豹の間合いの外にそれぞれ立つ。
「私からの合図、気付いてくれたのねぇ」
「あんな露骨な合図、気付かない方が難しいだろ」
つい数時間前。
幾度となく追いかけられた俺達だが、実は俺を見つけて声を上げる奴はほとんど同じ顔だった…一部ラウクム例外もいたが。
笛吹男ハーメルンだっけ?あんな事に使うなよ」
場所取りの時にヴォルテールくんが使っていた笛吹男とはまた別の様だったが、そんな事は些細なことだ。
流石に何度も同じ顔のヤツばかりが俺を指さして、見つけた!と叫ぶのを繰り返せば妙だと思う。
普通の知り合いなら話しかければいいのに、わざわざそんな事をしないで、周りに知らせるようにして集団を作り、わざと逃げさせるような手を打つ。
誰がそんな事をさせて、どんな得があるか。
考えてみれば、そんなまわりくどいことをする必要があるヤツなど──西学のヤツしか頭に浮かばなかった。
「場所も時間も指定していなかったけどねぇ。あなたが気付かなくって、このまま帰ろうかと思っていた所よぉ」
「なんだ、それならもう一時間寝ときゃよかった。そうすりゃ面倒事にならなかっただろうにな」
「私も、一時間前に切り上げておくべきだったわぁ」
さて、ふざけた話はここまでにして。
「で?用件はなんだ?」
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