大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

夜更と子守

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細い引っ掻き傷のような怪我を六ヶ所。それがこの三十分で増えた傷だ。
かすり傷とすら言えないような微細な傷だが、これが全てシエルによってつけられた傷なのだから笑い事ではない。
別に当たっても、俺には大した効果を発揮しないだろう。それならより実戦に近い方がシエルのためになると思ってスキルの使用を制限していなかったため、六回とも血をごっそり抜かれかけた。
俺は身体全体を自由に操るスキルだが、シエルは血を自由に扱うスキル。効果範囲が狭いため、スキルだけで操作権を奪い合った場合、シエルに軍配が上がる。さらに血海を含めれば俺が勝つのだが、多分そこまでするとシャルにストップを食らうのでやらない。
『で?やらなかった場合がこのザマか?』
まぁそう言うなって。
頭痛と疲労感、倦怠感、若干の動悸。血が抜かれすぎたか。
俺とシエルが本気で血の操作権を奪い合った結果、戦闘中なら血の約半分がシエルの言う事を聞くらしい。これもスキルに慣れてきた結果だろう。プクナイムの地下でやったように、スキルだけで血を巻き戻し、何事も無かったように戦うことはもう出来ないだろう。
あー気持ち悪。
『マスター・十分経ちました・当初の予定通り・再開しますか』
「あぁん?もうそんな時間か……アーネ、シエル、やるか?」
「わ、私はいいですわ……もう魔力が無いんですの」
「そか。シエルは──」
「………………………。」
『マスター・シエル様は既に・ご就寝なさっています』
「見りゃわかる」
まぁ、夜中に三十分も動き回ればチビッ子は眠くなるか。
『でも半分魔族だからな。その気になったら寝ないで戦闘とか普通に出来ると思うぞ』
それでもまだ精神とかが未熟って事だろ。それが子供らしい。
「んじゃアーネ、悪いけどシエルを部屋に運んでくれないか?どうせもう部屋に帰るだろ?」
「私は暫く貴方の特訓を見るつもりだったんですけれど…」
「ンなもん、見てても面白いモンでもないぞ。せめて剣使うなら話は別だろうが…お前の専門は魔法だろ」
魔法を使うと言えば…俺の周りにはユーリアぐらいか。クアイちゃんも使うが、ありゃ念力系だし、ラウクムくんはせいぜいサポートで少し使う程度、得手と言うほどでは無い。あとは…《不動荒野》か。あいつらは気軽に呼べない。多分、今度からの練習が死闘になる気がする。俺が呼ばなくても勝手に待ち構えてそうだし、鍵とか「「作った」」とか言いそうで怖い。
「俺はあと一時間ぐらいしてから部屋に戻る。あー…マキナ、補助で目立たないようにシエルを支えられるか?」
『可能です』
「じゃあ任せる」
少しアーネが何か言っていたが、すぐに訓練所から出ていって静かになる。
『血界は今日禁止な…あー、でも《血呪》は部分展開を維持し続けろ』
「了解」
アップは終わった、今日は動きを鋭くして行こう。
俺は亀裂など一つも無くなった銀剣を握りしめて《血呪》を発動する。
この剣もまた、いつも以上に馴染んでる。
これならもっと速く。
これならもっと鋭く。
次へと行けるだろう。
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