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第2章
1 外れた二人④
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私は新メンバーの理雄先輩に電話を掛けた。
「はい」
「先輩~~~」
「どうした」
「今週末また泊まりに行っていいですか?」
ソフレを欲する者、ソフレで慰むべし。
こんな簡単なことに気づかなかったとは、私もまだまだ初心者だ。
「なんだ、淋しいのか?」
「わかりません。でも私にはソフレが必要なんですぅぅ!」
「意味わからん奴だな」
先輩の声が笑った。
それを聞いて、不覚にもじわっと胸が温かくなる。
「週末って金曜? 土曜?」
「どっちでもいいです……あっ、金曜は推しがテレビに出るんだった。土曜日の夜でもいいですか?」
「いいよ。なんか食べる?」
「え?」
「土曜なら時間あるし、なんか作ってやるけど」
「かみかー!」
「は?」
「先輩は神様ですねありがとうございますって意味です!」
「あっそ……。そんじゃ、何食べたいか考えて後でメッセージ送って」
「はーい! めっちゃ元気出ました! ありがとうございます!」
「はいはい」
電話を切って、スマホを両手で握りしめて崇めるように掲げた。
マジで神……!
えっ何気に理雄先輩スペック高くない??
仕事できてお金持ってて料理できて話聞いてくれて背が高くて体型まで完璧。
最高のソフレをゲットしてしまった……。
「――それで、仲間を失って落ち込んだと」
「そうです……」
平日は先輩と飲みに行くのを我慢してイラスト制作に精を出し、無事にSNSへの公開を終え、迎えた土曜の夜。
私のリクエストに応えて先輩が作ってくれたオムライスを食べながら、優子さんのことを話した。
「お前なー。変な考え方で生きてるくせに、仲間がいると思うのがそもそも大間違いだろ」
「えっヒドッ……! 先輩は仲間じゃないんですか?」
私は悲しくなって、隣に座っている理雄先輩の方を向いた。
先輩は小さくため息をつき、険しい目で私をじっと見る。
「わからん。これから仲間になるかもしれないし、もう仲間かもしれない」
「どっちにしても仲間」
「少なくとも、パートナーとしての価値を恋人じゃなくてソフレに見いだそうとしている時点で、完全に世の主流から外れた人間だろ」
「そうですけど……優子さんだけは仲間だと思ってたのに……」
俯く私の頭を、理雄先輩が小突く。
「片瀬さんはソフレなんてアホなこと考えたこともないだろ、きっと。お前とは違うんだよそもそも。仲間は俺で我慢しとけ」
私は少し考え込んだ。
これまでは優子さんだけが仲間だったけど、理雄先輩がいれば、1+1-1=1で、変わってない。
問題ない。
「じゃあはい」
私はスプーンを置いて、理雄先輩に向かって両腕を広げた。
「は?」
「傷心の伊月ちゃんに慰めのハグをひとつ」
「頭がおかしい」
「いいじゃないですか、もうたっぷり抱きしめ合った仲なんだし。はい、ハグ!」
無理やり抱きつくと、
「俺の選択権!! ったく……」
諦めたのか、先輩は私の背中をポンポンとたたく。
「別に、人と比べる必要はない。お前にはお前の生き方があるんだろ?」
「はい」
目を閉じて、わかってるな~理雄先輩、最高だわと思いながら、頼もしい肩にしばらく頭を預けた。
「よし。それじゃ落ち着いたら食え」
「はい」
体を離して先輩の顔を見たら、急に笑いが込み上げた。
それを見た先輩は怪訝そうに眉をひそめる。
「何笑ってんだ」
「あはは、わかりません」
私は再びスプーンを持って、オムライスを食べ始めた。
「先輩のごはんほんとおいしい」
「そうか」
バイト時代に作っていたオムライスは卵をしっかり焼いたものだったらしく、とろとろのやつがいいと言った私のために、平日のうちに一度半熟で作る練習をしてくれたらしい。
一度練習しただけで完璧なものを出してくる先輩は、よほど料理のセンスがあるんだろう。
私にはないものを、理雄先輩はたくさん持っている。気がする。
逆に私にしかないものって、何かあるだろうか。
「はい」
「先輩~~~」
「どうした」
「今週末また泊まりに行っていいですか?」
ソフレを欲する者、ソフレで慰むべし。
こんな簡単なことに気づかなかったとは、私もまだまだ初心者だ。
「なんだ、淋しいのか?」
「わかりません。でも私にはソフレが必要なんですぅぅ!」
「意味わからん奴だな」
先輩の声が笑った。
それを聞いて、不覚にもじわっと胸が温かくなる。
「週末って金曜? 土曜?」
「どっちでもいいです……あっ、金曜は推しがテレビに出るんだった。土曜日の夜でもいいですか?」
「いいよ。なんか食べる?」
「え?」
「土曜なら時間あるし、なんか作ってやるけど」
「かみかー!」
「は?」
「先輩は神様ですねありがとうございますって意味です!」
「あっそ……。そんじゃ、何食べたいか考えて後でメッセージ送って」
「はーい! めっちゃ元気出ました! ありがとうございます!」
「はいはい」
電話を切って、スマホを両手で握りしめて崇めるように掲げた。
マジで神……!
えっ何気に理雄先輩スペック高くない??
仕事できてお金持ってて料理できて話聞いてくれて背が高くて体型まで完璧。
最高のソフレをゲットしてしまった……。
「――それで、仲間を失って落ち込んだと」
「そうです……」
平日は先輩と飲みに行くのを我慢してイラスト制作に精を出し、無事にSNSへの公開を終え、迎えた土曜の夜。
私のリクエストに応えて先輩が作ってくれたオムライスを食べながら、優子さんのことを話した。
「お前なー。変な考え方で生きてるくせに、仲間がいると思うのがそもそも大間違いだろ」
「えっヒドッ……! 先輩は仲間じゃないんですか?」
私は悲しくなって、隣に座っている理雄先輩の方を向いた。
先輩は小さくため息をつき、険しい目で私をじっと見る。
「わからん。これから仲間になるかもしれないし、もう仲間かもしれない」
「どっちにしても仲間」
「少なくとも、パートナーとしての価値を恋人じゃなくてソフレに見いだそうとしている時点で、完全に世の主流から外れた人間だろ」
「そうですけど……優子さんだけは仲間だと思ってたのに……」
俯く私の頭を、理雄先輩が小突く。
「片瀬さんはソフレなんてアホなこと考えたこともないだろ、きっと。お前とは違うんだよそもそも。仲間は俺で我慢しとけ」
私は少し考え込んだ。
これまでは優子さんだけが仲間だったけど、理雄先輩がいれば、1+1-1=1で、変わってない。
問題ない。
「じゃあはい」
私はスプーンを置いて、理雄先輩に向かって両腕を広げた。
「は?」
「傷心の伊月ちゃんに慰めのハグをひとつ」
「頭がおかしい」
「いいじゃないですか、もうたっぷり抱きしめ合った仲なんだし。はい、ハグ!」
無理やり抱きつくと、
「俺の選択権!! ったく……」
諦めたのか、先輩は私の背中をポンポンとたたく。
「別に、人と比べる必要はない。お前にはお前の生き方があるんだろ?」
「はい」
目を閉じて、わかってるな~理雄先輩、最高だわと思いながら、頼もしい肩にしばらく頭を預けた。
「よし。それじゃ落ち着いたら食え」
「はい」
体を離して先輩の顔を見たら、急に笑いが込み上げた。
それを見た先輩は怪訝そうに眉をひそめる。
「何笑ってんだ」
「あはは、わかりません」
私は再びスプーンを持って、オムライスを食べ始めた。
「先輩のごはんほんとおいしい」
「そうか」
バイト時代に作っていたオムライスは卵をしっかり焼いたものだったらしく、とろとろのやつがいいと言った私のために、平日のうちに一度半熟で作る練習をしてくれたらしい。
一度練習しただけで完璧なものを出してくる先輩は、よほど料理のセンスがあるんだろう。
私にはないものを、理雄先輩はたくさん持っている。気がする。
逆に私にしかないものって、何かあるだろうか。
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