プラトニック添い寝フレンド

天野アンジェラ

文字の大きさ
17 / 59
第2章

1 外れた二人⑤

しおりを挟む
 ふと、寝室側の壁に飾ってある絵の群に目が留まった。
 壁沿いに置かれた低めの本棚の上のスペースに、一枚一枚簡素な額縁に納められた小さな絵画が十枚ほど、不規則に点々と並んでいる。
 部屋に飾るにはけっこうな数なので、実は前回来た時から気にはなっていたんだけど、聞かずじまいだった。

「あの絵、理雄先輩が描いたんですか?」
「よくわかったな」
「なんかタッチが先輩ぽいと思って」
「まああれはレプリカというか、コピーなんだけどな。しかも縮小」
「え、現物は?」
「売った」
「え!?」
「インテリアとして一点数万円くらいで売れるんだよ。オーダーだと倍以上もらうけど」
「は!?」
「は?」
「自分の絵を売ってるんですか?」
「売ってる」

 か、考えたこともなかった――!
 私なんてSNSに垂れ流してるだけなのに、同じ業務外の制作で理雄先輩はお金を稼いでいる。

「先輩……。趣味ないって言いながら、たくさんあるじゃないですか……」
「そうか? まああれは趣味というか副業のつもりだしな」
「副業禁止なのに」
「バレなきゃいいの」
 先輩がそんな問題児だったなんて、知らなかった。

「なんかつき合い長いのに、まだまだ知らないこといっぱいありますね」
「本当のプライベートまでは見せてこなかったからな」
「……嫌じゃないですか? 踏み込まれて」
 この部屋で添い寝を始めるにあたって、内心少しだけ気になっていたことを、勇気を出して聞いてみた。
 すると、先輩はうーんと考え込んで、
「いや別に。お前に知られて困ることも特にないしな」
 それを聞いて、ほっと胸をなで下ろす。
 けっこう強引にここまで進めてきちゃったけど、先輩も私がいることをマイナスに思ってはいないらしい。

「じゃあ週一くらいで来てもいいですか?」
「いいけど、とりあえず今夜シラフで寝てみてから決めれば?」
「あははっ! そうします」
 やっぱり理雄先輩って居心地がいい。
 それは、先輩が私に恋愛感情を向けないからであって、私のことをよく知った上で一人の人間として大事にしてくれているようで、安心できるからだ。

 寝支度を整えて、寝室でベッドに寝ころがってSNSのTLタイムラインをスクロールしながら待っていると、シャワーを終えた理雄先輩がチャコールのシックなパジャマ姿で部屋に入ってきた。
「あれ、起きて待ってたのか」
「もちろんです。今日はしっかりソフレを実感して寝たいので!」
 そう言うと、先輩は少し笑った。

 それにしても、気になることがある。
「先輩、その髪セットしてないですよね?」
「え? ああ、癖毛でな……」
「そうなんだ!!」
 先輩の髪は短めで、普段はワックスで無造作に散らして額を出した感じの髪型。
 それが、シャワーとドライヤーを済ませてきた今も、普段とさほど変わらない状態だ。

「こういうときって普通は、普段上げてる前髪が下りててキュンってなるやつなんじゃないですか?」
「どうせ綺麗に下りないから上げてんの。てかこの前も見ただろ」
「朝しか見てないんで、寝癖かと思ってました。そんなにまんま活かせる癖毛ってあるんですね、あははは」
「笑うな」
 呆れたような顔になった先輩は、そのままベッドの奥に上がって、遠慮がちに端のほうに寝ころぼうとする。
「そんなに離れなくていいですよ。ソフレなんだからもっと近づいてくれないと意味ないじゃないですか~」
「……どんなふうに寝たいんだ」
「うーんと、そうだなぁ、腕枕かなやっぱり。先輩の肩の厚みが横寝の高さにちょうどよさそう」
「あっそ……」
 そう言いながら先輩は、寝ころんでこちらに腕を伸ばす。
 私は体をずらして先輩に近づいて、肩にちょこんと頭を乗せてくっついた。
 人体特有の弾力と肌なじみ。パジャマ越しに伝わってくるシャワー後の火照りも、人間らしい熱を感じさせる。

「最高」
「そうか」
「シラフでも全然いけます。先輩は?」
「んー……。不思議と、悪くない」
「もうちょい良い評価もらえません? 伊月ちゃんかわいくて最高とか」
「伊月ちゃんかわいくて最高」
「心こもってなー!」
 だからこそ最高なんだけど、と心の中で付け加えながら、私は目を閉じた。

 そして、いつでもこうして一緒に寝てくれる人ができたことの喜びをかみしめながら眠った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...