Hold on please!-携帯持ってません!-

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46.卒業式

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 三月上旬。遂に卒業の日がやって来た。
 式にはばーちゃんが来てくれる。
 三年間いろんなことがあった。入学前に雪原にパフェをぶつけたことに始まり、俺の三年間は雪原一色だったと思う。
 どの場面を思い返しても雪原がいる。
 辛いこともあった気がするけど、振り返って楽しかったと思えるのは雪原のおかげだ。

 卒業証書授与のとき、雪原の番で俺は一際大きな拍手を送った。その凛とした佇まいはとても目を惹いた。

 卒業式を終えると教室に戻り、担任挨拶の後解散となった。
 クラスメイト達は卒業アルバムにメッセージを書いたり写真を撮り合っている。泣いてる女子もたくさんいた。
 町田は地方の公立大に合格し、地元を離れるらしい。
「緑君……、さすがに大学生になったら携帯買うよね?」
「うん、そのつもり」
「よかった。俺の連絡先教えとくから買ったら登録してね。鷹也君経由で聞いてもたぶん教えてくれないだろうからさ……」
 町田はそう言って俺の卒業アルバムに自分の連絡先を書いていた。俺はお返しに町田のアルバムに『お世話になりました』と書く。
「で、いつ告白すんの?」
 書きながらサラッと聞かれて、書いていた文字が大きく歪んでしまった。
「なっ……、なんで……、いや、なんのことだ?」
 冷や汗をかきながら慌てて否定した。
「誤魔化すの下手すぎるでしょ」
 なんて鋭いんだ……。
「てかさぁ、三年間付き合わなかったのが衝撃だよ。二人とも修行僧か何か? くっついたら教えてね」
 町田は自分の連絡先の下に『くっついたら連絡すること』とメモしていた。
 何一つ反論できないままに町田は去って行ってしまった。
 雪原を探しに行きたいけど、イベントの日は無理か……。
 教室だけ覗いてみるか。
 三年八組に行ってみたがやはり雪原は取り囲まれていた。教室の外からちらりと覗いたが、写真撮影の行列ができている。俺はつい雪原のブレザーのボタンがあるか確認してしまった。
 よかった。全部ある。
 でも今からたくさん告白されたりするんだろうか……。
 彼女が出来たとか言わないよな?
 急に心配になり、女子に囲まれる雪原を見ていられなくなった。そそくさとその場を離れようとした時だった。
「緑!!」
 雪原に大声で呼ばれ、俺は驚いて振り向いた。
 雪原が周りを振り解いてこちらに走ってくる。
「みんな、悪いけどまたな!」
 雪原はそう言ってクラスメイトに向かって手を振って、俺の目の前までやって来た。
「またっていつよ!」と悲鳴がいくつも聞こえたが、雪原は俺の制服の裾を掴んで走り出した。
「えっ、待てって……、どこ行くんだよ!?」
 俺は雪原に必死に着いて行った。

 辿り着いたのは一年の時の教室だった。
 周辺の教室は誰もいないようで、さっきまでの喧騒が嘘のようにシンとしている。
「懐かしいな」
 雪原が入学当初の席の前に立った。俺はその一つ前、かつて自分の席だった机に触れた。
 一階の窓の外からは、時折舞い散る桜の花びらが見える。
「俺、教室入って緑を見つけた瞬間、すっげー嬉しかったんだよ」
 そのときの様子は、俺もよく覚えている。
「お前、俺が携帯持ってないって信じてなかっただろ」
「そうそう、まじでビビった。そんで家まで押しかけたもんな……」
「そうだったな」
 外からは別れを惜しむ生徒たちの騒ぎ声がかすかに聞こえてくる。
「高校生活、楽しかった?」
 雪原に聞かれて、俺はこの教室から始まった三年間を思い出した。
「……楽しかったよ」
 全部全部、お前のおかげだ。
 最初は何も期待していなかった。
 友達は出来ないと諦めていた。
 体育祭の打ち上げに参加するなんて思ってなかった。
 家に写真を貼るなんて考えもしなかった。
 初詣も、修学旅行も、最後の文化祭も……。俺の中で記憶がキラキラ輝いている。
 ばーちゃんが倒れた時、親父にキレた時、どんなに辛くても立ち直れた。
 みんな、お前がいたからだ。
 鼻がツンとして、俺は雪原と反対側に顔を背けた。
「……ありがと」
 ボソッと呟くと、雪原が俺の肩にポンと手を置いた。
「俺も、緑と三年間過ごせて良かった。まだまだ過ごすけど」
「……うん」
「あ、そうだ! ファミレス行こうよ!」
  唐突な提案に、俺は雪原の顔を見た。
「ほら、行こう」
「え? あぁ……」
 急かされるまま教室を出る。
 卒業証書をバトンのように握りしめ、俺達は高校を後にした。

 俺は自転車、雪原は電車だったので、一時間後にファミレスに集合した。
「卒業おめでとう!」
 店に入ると先輩達みんながそう言ってくれてくすぐったかった。
「苺パフェ食べようよ」
 雪原がそう言って勝手に二人分頼んでしまった。
 季節のメニューの苺パフェは、少しトッピングを変えて今年もメニューに加わっていた。
「俺、食べるのは初めてかも」
 いつも作ってはいるが、食べたことは無いということにこの時初めて気がついた。
「マジで!? 美味いよ!?」
 お前が食べてる分をいつも作ってるのは俺だけどな、と思って俺は吹き出してしまった。
「これを緑が俺にぶつけたんだよな」
 届いた苺パフェを食べながら雪原が呟いた。俺は苺が喉に詰まりそうになる。
「それはマジでごめんって……」
「あははは、いいんだよ。でも俺たぶん一生忘れないな……」
「え……、そんなに根に持ってんの……?」
 パフェを食べる手を止め恐る恐る雪原の顔を見たが、目の前の顔は穏やかに笑っていた。
「違う違う、記念日ってこと」
 そう言うと雪原は真っ赤な苺をパクリと口に入れた。
 何の記念日だよ……。
 変な期待をしてしまいそうで、俺は底に沈んだスポンジケーキをほじくり出すことに集中した。
「春休み、何する?」
「バイト」
 俺が即答すると雪原は笑っていた。
「緑はブレないなぁ……。で、いつ遊ぶ?」
「お前もブレないな」
 俺も笑って、そう答えた。
 
 俺は次があることに安心した。
 もう学校で会うことは無いけれど、学校が無くても、雪原は俺と会おうとしてくれる。
 パフェを綺麗に完食して、俺たちは次の約束をして笑顔で別れた。

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