異世界で俺はチーター

田中 歩

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{第五十七話} 頭のおかしい戦闘大好きバカ

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団長とエリックの戦いは殺害予告をした割には、殺し合いと言う雰囲気は無く、2人は戦いを剣を交える事を楽しんでいる様に見えた。

それを悟ったからこそ、おじさんとネラは2人の戦いに割っては入る事をしないのだろう。
もちろん、オレも2人を見守っている。割って入るなんて事は絶対にしない。

会場には剣同士が擦り合い、ぶつかり合う事によって発生した金属音が響いていた。
金属音の間隔はとても短く「太達」で言えば「カオスタイム」である。
そんな絶え間なく鳴り響く金属音の間に2人の話し声が聞こえる。
はっきりとは聞こえないが、剣を交えながら会話をしているのは理解できる。

「殺害予告なんて遠まわしな事をしてまで、こんな事を...」

「簡単な事だ、お前と実力を試したかっただけだ」

「それなら回りくどい事なんかせずに、正面から来れば良かっただろう」

「今、このオレが回りの貴族達に危害を加えるかもしれないと言うこの状況が重要なんだ」
「そうでなければ、本気のお前と勝負が出来ないだろう」

そんな金属音が響き渡り火花が散る実力の拮抗した戦い。
実力が拮抗しているからこそ、両者の体力消費は大きく額には汗の川が出来、呼吸がとても荒い。

両者の体力がレットゲージに突入したその瞬間、待ってました!と言わんばかりにおじさん達を含めた会場の中央、GOSの壁の外側に居る人間全員目掛けて割れた窓から数千本の矢が降り注いだ。
しかし、降り注いだ矢のすべてが頭上1m程上で止まってしまった。
まるで透明な見えない板に刺さっているようだった。
そして、矢は消滅した。

おじさんからしたら雨が降ってきたから傘をさす様な事なのだろう。

そこへ、窓ガラスを蹴破り超軽量装備な女が乗り込んで来た。
窓を蹴破って入ってくるの流行ってるの?

今まで余裕な表情でGOSの壁に寄りかかって居るおじさんが寄りかかるのをやめ、刀を抜いた。
ネラも同様にレイピアを構えた。
さっきまで戦っていた団長達2人も、剣を構え女の方を向けている。
それほどヤバイ相手だと言う事だろうか?

そんな警戒心を一点に向けられた彼女は笑顔を浮かべ元気に言い放った。
「こ・ん・ば・ん・わ~!」

は?
会場全体が彼女の放った一言に静まり返った。
さすがのおじさんも驚いている。
これはあれですわ、頭のおかしい戦闘大好きバカですわ。

「あれ?聞こえなかったのかな~?」
「こ!ん!ば!ん!わ~!!」
さっきよりも大きな声で叫んだ。

おじさんはしかたなさそうに「こんばんわ」と返した。

「お、やっと返してくれた!」
「聞こえてないのかと心配しちゃったよ~」
「おじさん強そうだね、でも今日の目的はおじさんじゃないだ。ごめんね。」
「もちろん、隣のおねえさんもね」
「今日の目的はこっちの2人!」
短剣を抜き、団長達に向けた。

「今日はね~2人を殺しに来たの!」
「おじさん達は邪魔しないでね~!」
「あと、邪魔してきそうなのは~...そこの君!」
オ、オレ!?
彼女が剣を向けたのはそう!王の隣に立って居るオレだ。
「え?オレ?」と言う感じに辺りをきょろきょろしながら、自分を指差した。

「そう!君!君はね~そこのおじさんとはでは行かないまでも、なかなか強そう!」
「君もじゃまさしないでね~」
オレは取り合えずうなずいた。
おじさんの方がやかましいのでを見ると、オレを指差し「俺より弱いってばれてんぞ~ww」みたいな顔して笑っている。
緊張感が無いな。

「じゃあ、邪魔者も居なくなったし!はじめるよ~」
抜いた短剣を舐め、構えながらなにやらブツブツ言ったいたかと思うと、一瞬でエリックの後ろに。
瞬間移動して敵の後ろを取るの流行ってるの?

「おにいさんどうも~」
「こっちのおにいさんの方が弱そうだったから先に行くよ~!」
急に隣に来た女に驚き剣を振るがヒラリとかわされた。

「おにいさん、そんな剣の速さじゃあ私に当たらないよ~?」
「止まってるかと思ちゃったじゃん~w」
完全に舐めきっている。

「おっと!」
そんなエリックを舐めきっている彼女に団長は切りつけたが、かわされた。

「私の友人をバカにするのはやめてもらおうか」

「こっちのおにいさんは少しは早いね~」
「でも、まだまだ私には追いつけないよ~」
そこにエリックも切りかかる。

「そういうお前は早いだけで、攻撃一つ出来ていないじゃないか」

「あ~今動くのはやめた方がいいと思うよ~」
連続で切りかかるエリックの攻撃をヒラリヒラリと余裕でかわしながら言う。

「はっ!なにを!」
特にエリックの身には何も無くピンピンしている。

「しょうがないな~」
「おにいさん、バイバイ!」
そう言うと「パチンッ」と指を鳴らすとエリックの腕や足、顔に無数の線が走った。
エリックの体中に走った無数の線からは勢い良く真っ赤な血が噴出し、彼は自分の血で出来た血溜まりの床の上に倒れ、動かなくなった。

「エリック!エリック!」
団長が何度も呼びかけるが、そんな呼びかけにこたえる事はもう二度とないだろう。

「さてと~つぎはこっちのおにいさん!」
「いくよ~!」
短剣を構えまた消えるが次の瞬間、とても大きな金属音が会場に鳴り響いた。

「いや~止められて良かったよ~」
「とう?君の真似してみたけど?」
彼女の短剣はおじさんの剣により止められていたが、止めていなかったら間違いなく団長の首に線を走らせていただろう。

「やっぱり、おじさんなかなかやるね~」
「でも、私はもっと加速できるんだよ~?」
そう言いニヤリと笑うと、姿が消えた。
おじさんは肩から先が見えないし、かろうじて見える体も素人のパラパラマンガのような動きをしている。

金属音も間隔が短すぎて「キンッキンッ」が重なり合い「キキキキッ...」に聞こえる。

それにおじさんの体の回りを剣同士がぶつかり合ったときに火花だけが見え、おじさんが光って見える。
まるで多くの報道陣からカメラのフラッシュを向けられている様だ。
絶対画面の下に「※激しいフラッシュの点滅にご注意ください」って書いてあるだろう。
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