異世界で俺はチーター

田中 歩

文字の大きさ
上 下
107 / 124

{第百五話} makitaだから!

しおりを挟む
これで安心となった瞬間、そのガラスをめがけて楕円状の物がどこからとも無く飛んで行き、ガラスに当たると白く濃い煙を辺りに撒き散らした。
取り合えず後ろに飛んでフロストと距離を取った。
「何が起きた?アレはネラのヤツ?」
取り合えずネラに聞くが、どうやら違うらしく、かといってネイでも無いらしい。
ではいったい誰が、と考えていた矢先、肩の上に何かが乗っている事に気づいた。
そこには白を基調としたボディーに水色のラインが入った身長15cm程度の小さなロボットが乗っていた。
サイズ感としてはミイと一緒で、肩に乗っている感じも似ている為気づかなかった。
「何だ、コイツ」

一方、警備室のモニターで様子を見ていたオイラー達も昌達と同じ反応だった。
「何だ、あの小さいロボットは!」

「見方か?」
「そうとは限りません。結論を急いで出してはいけません」
ネラの忠告でしばらく様子を見る事にすると、フロストをめがけて走って行った。

「まだ仲間が居たのか」
走ってきたロボットに対してもフロストは攻撃を始めたが、動きが早すぎる。
早すぎて度々瞬間移動に見える程だ。
もちろんフロストのアーム攻撃など簡単にかわしている。
攻撃をかわしながらロボットが何か上に投げたが、そこまで気には留めなかった。

「アイツ早いっ!」
「アームを2本使った攻撃もかわしていますね」
しばらく攻撃をかわしていたかと思うと、昌達の元に走ってきた。
「ん?」
昌の足元で立ち止まったロボットを見ると、ロボットは昌の足元に魔法陣を出現させ、昌はどこかに消えてしまった。

「ん?んん??」
昌が飛ばされたのはこの部屋の天井からアームで吊り下げられたコンテナの上にテレポートした。
取り合えずコンテナの上から顔を出してネラ達に自分の無事を証明した。
ネラ達は昌の無事を確認すると、ロボットを警戒した。
「やはり敵ですか」
警戒しているネラ達をよそに、昌はロボットに対して不思議と警戒したり疑ったりはしなかった。
それはコンテナの上かた顔を出した昌を見つめるロボットの様子を見てからっだった。
すると、昌のスマホに一通のメールが送られてきた。
送られてきたメールの内容は「コンテナを落とせ アリーセ」だった。
「アリーセ?」
どうやらあの小さなロボットは「アリーセ」という名前らしい。
コンテナをフロストの上に落とせって事か、と理解した。
それをネラ達に伝えると、アリーセはフロストの元へ走って行きひきつけると、昌が載っているコンテナの丁度真下に誘導した。
それを理解した昌はコンテナの上からフロストに向かってGOSで出したナイフを大量に投げて、今度は自分にフロストをひきつけた。
これでフロストにコンテナを落とす下準備は出来た。
昌の存在に気づいたフロストは昌を何とか下に下ろそうと、昌が載っているコンテナをアームで叩いて揺らしてきた。
そんな足元が不安定の中、このコンテナを落とさなければならない。
さて、どうしたものか。
取り合えずコンテナを吊り上げているアームにあるボルトやネジを片っ端から外して行こう。
ドライバーやスパナ等の道具はGOSで作ってもいいし、クリエイトで出してもいいので特に問題は無い。
一番最初にアームの根元についた金属の板を止めている四隅のネジを外した。
外した金属の板を下に居るフロスト目掛けて落とし、挑発して注意を引く事を忘れない。
四隅のネジを外している最中にも、フロストが自身のアームでコンテナを揺らしてきたため、ただ四隅のネジと外すだけの簡単な作業でさえ手間取ってしまった。
これは「ドライバー」ではなく「インパクト」を出して使えばよかったと今更ながら思っている。
もちろん「「makita」だから」
そんな事はさて置き、板を外した所には基盤が付いていた。
これはこの基盤をどうにかすれば、閉じたアームを開かせる事が出来る可能性が高いが、基盤を見たところで昌にそれを成す術はないため、ここでも登場するのはネラである。

「ネラさん、ネラさん。ちょっと良いですか」
「はい、なんでしょうか」
「これをどうにかすればコンテナを落とせると思うんだが、どうにかする方法が分からないのでネラの手を借りたくて、ですね...」
ネラにスマホでビデオ通話を使って基盤を見せた。
「ミイを呼んでください。ミイを経由して私が基盤を操作します」
言われた通りにミイを呼ぶと、話しを聞いていたミイは基盤に設置された外部接続時に使うと思われる「Type Cポート」に自分の両手を入れた。
ミイがポートに両手を入れてから数秒で、ネラから準備が出来たという報告がきた。
ビデオ通話でネラの様子をしていたが、見た感じは何かを操作している様子は無い。
ネラの事だからマルチタスクをしているに違いないし、ネラの事だから相当な量と数の作業を一気に片付けられるだろう。
コンテナを落とす準備が出来たということは、コンテナの上で作業をしている昌は一緒に落下する可能性があるため危険だが、これはGOSで床を作るだけで対応出来るので、作った床の上に載った事を確認したネラは外部からアームを開かせ、掴んでいてコンテナを落下させた。
狙い通りコンテナはフロストの真上に落下し、あの硬い装甲のフロストを潰した。
いくらコンテナを落としたとはいえ、硬い装甲のフロストを潰せた裏には、コンテナの底面を硬く強化したGOSで出した板で覆っていた事が大きいだろう。
そんなコンテナで潰された結果、フロストは黒い煙を出して止まったまま動く事は無かった。
フロストを中で操作していたケティングはコンテナが当たった衝撃で、頭をぶつけて気絶してしまっていた事がフロストが動かなくなった要因のひとつだが、昌達はそんな事を知る由もない。
昌はGOSで階段を作って下に下りてきた。
あらためて近くに行き、動かなくなったフロストを見て昌達は一息ついた。
ふと、昌はアリーセの事を思い出し、辺りを見回すがあのロボットの姿はどこにも無かった。
辺りを見回していると、倉庫内にスピーカーから聞こえる男の声が響き渡った。
「菊田昌。ここにはもう菊田京一はもういない。返して欲しければ「BC」に出場して優勝しろ」
声の主はガウスであったが、今の昌達は知る由も無い。
しおりを挟む

処理中です...