親友4人でタイムリープ、鬼、天狗、河童、そして俺、俺だけモブな妖怪退治ライフ。

ポノキオ

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再会。

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2025年夏、関西某県N市郊外にある工場の社員食堂。

「あー、暑い!暑すぎる、マジで死んでまう…」

俺、天野 昂兵(あまのこうへい)38歳は社員食堂の店長として働いている。

建設されて半世紀以上は経つであろう社屋の一階にある古びた食堂の廚房にはエアコンもない。

夏場には40℃を越え、汗が滝のように流れ落ちる。
命の危機を感じる暑さだ。

それでも家で待つ愛する妻と可愛い2人の息子のために、この暑さに耐え、働いている。

いや正確には、涼しいエアコンの効いた職場で働くようなスキルがないだけだ。

そんな事実を認めたくない俺は、家族のために戦っていると自分に言い聞かせている。

「ただいま!」

我が家の扉を開ける。

2年前に築40年の中古10階建マンションをリフォーム代含めて1800万円のローンで購入した。

築40年のマンションを40年ローンで払い終えれば築80年か…と思う事もあるが、それでもここは自慢の城だ。

駅は近くないが、スーパーや小学校等は近くにあるし、治安も悪くない。マンション內の自治会が口うるさくて少々鬱陶しさはあるし、中学生の頃に思い描いたマイホームには程遠いが、それなりに満足している。

「おかーりー」

下の2歳になる息子が、覚えたての拙い言葉と、とびきりの笑顔で廊下をトコトコ走りながら俺を迎えてくれる。

俺以外の訪問者、たとえば宅配便のおじさんでも同じ反応なのだが、まあそれはいいだろう。

短い廊下を抜けてリビングに入ると、上の8歳になる息子がクッションにもたれながらスマホをみている。

YouTubeに夢中でこちらを見向きもしない。妻は家事が忙しいのか、おかえりの一言もない。が、俺は本当に幸せ者だ。うん、そうに違いない。絶対に幸せ者のはずだなのだ。

とある日曜日、正午を少し過ぎた頃。遅めの昼食を終え、息子にゲームの相手をさせられていた時だった。

スマホにLINEの通知が一件。英蔵からだ。

英蔵は小学校からの幼馴染で、今は転勤で青森に住んでいる。38歳になった今でも、俺たちは親友だ。

「次の金曜日にそっち帰るわ」

「21時から飲もうぜ。勇樹(ゆうき)と千聡(ちさと)にも声かけてる」

おいおい、急だなと思いつつも、久しぶりに親友3人に会えるのが楽しみで、思わず顔がニヤけてしまう。

しかし、楽しい週末を迎えるには、1つ試練を超えなければならない。

「あのさ、次の金曜日なんやけど、英蔵が帰ってくるみたいで。夜、出かけても大丈夫かな?」

恐る恐る、妻に許可を申請してみる。

「わかった」怒りとも呆れともつかない無表情で、妻は一言。

なんとか許可は得られた。いつもこの瞬間は、生きた心地がしない。それでも、金曜日の楽しみを考えれば、心は躍る。

酒戸英蔵(さかとえいぞう)
愛宕勇樹(あたごゆうき)
河松千聡(かわまつちさと)
そして俺。4人は中学の同級生で、いわゆる悪友というやつだ。いつもリーダーシップを発揮して、何かを言い出すのは英蔵だ。

英蔵は、日本最大の広域暴力団幹部を親に持つ。ヤクザの息子でありながら、親の威光を笠に着ることは決してなかった。むしろ、兄貴分として慕われ、暴力に頼らないその人柄から、ヤクザの息子であることを周囲に意識させず、みんなから好かれていた。

「英蔵から連絡きた?」

俺は千聡と勇樹に、同じLINEを送った。

先に返事が来たのは勇樹だ。

「來たで。金曜日やろ?取引先と打ち合わせ兼ねて、食事の予定やけど、20時には終わるから間に合うと思う。」

勇樹は年商数百億を誇る会社の御曹司。勇樹の父親は、若い頃は激動の昭和を暴走族のリーダーとして駆け抜け、神戸で名を轟かせた。その時に培った人脈と人身掌握術で、一代で成り上がった豪快な人だ。

息子の勇樹もただのボンボンではない。高校時代は、名門野球部で汗を流し、甲子園を目指した。夢は叶わずとも、その経験を糧に一流企業へ。

しかし、彼は父の背を追うことを選び、今では二代目として辣腕を振るっている。

スポーツで培った根性と、生まれ持った頭の良さ、そして隠しきれない色気。それが勇樹という男だ。

そんな勇樹に、俺は自分との差に劣等感を感じながらも、憧れを抱いているのは本人には秘密だ。

「了解。じゃあ金曜日」

そう勇樹に返して数分後、千聡から返事がきた。

「来たよっ!金曜日でしょ?俺、配信があるんだよね。ちょっと遅れて行くわ!終わったらすぐ行くから!」

千聡は、大物ヤクザの息子や、数百億の会社の息子とは違い、銀行員の父親と専業主婦の間に産まれた三兄弟の末っ子。

絵に描いたような一般家庭の息子だ。
幼い頃は東京で過ごし父親の転勤で小学生の頃に東京から引っ越してきたのだ。

そんな普通の家庭に産まれた千聡だが、ある意味、一番普通じゃないかもしれない。

180を超える身長にスラリとした手脚。それでいて、歌えばプロ級だ。ユーモアがあり面白いし、学生時代の成績も良く、日常会話程度なら英語もできる。

中学生時代はクラスの、いや学年中の人気者で、そんな千聡を俺はいつも天才ともてはやす。

一緒にYouTubeをしないかと誘った事もあった。この天才となら、一発当てられるんじゃないかと思ったからだ。

結局、凡人の俺には続けられず、今は千聡が1人でゲーム配信者として活動している。

まだバズってはいないが、一定のファンもついていて、酔っ払うと直ぐ脱ぐ癖さえ気をつければ、有名配信者になる日も近いだろう。

三人とも集まるのは数年ぶりだ。


 「ごめん!遅くなって」
23時ごろ、配信を終えて遅れて千聡がやってきた。

「おぅ千聡、遅いぞ。もうだいぶ飲んでんで」
英蔵が赤い顔で答える。

「英蔵ちゃん、久しぶりだね!3年ぶりくらいかな?やっぱり、青森に比べたらこっちは暑い??」
千聡が久しぶりに帰省した旧友に声をかける。

「うーん、住んどったらあんまり感じへんけど、こっち來たらやっぱり暑いなー」

「そうなんだ。てかさ、なんでこんな暑いのに、公園なの??」
千聡が苦笑いで疑問を投げかけてきた。しかし、それは俺も感じていた事だ。

「いや、さっきまで焼き鳥屋にいたんやけど、英蔵が久しぶりに火ノ池公園に行こうって言い出してさ」
勇樹が答える。

「くそ暑いし、蚊もいるし意味わからんやろ」
俺は笑いながら悪態をつく。
「職場でも暑いのに、休みの日ぐらい涼しい所で過ごさせてくれ」

千聡は相変わらず苦笑いし。英蔵は意地の悪いニヤケ顔で口を開く。

「まあ、そう言うなって。たまにはええやろ。だからちゃんと蚊取り線香も買ってきたやんけ」

「覚えてるか?昔は金もなくて、昼も夜もこの公園がみんなの溜まり場やったやんか」 

火ノ池公園は、中央の大きな池を中心に、子供たちの遊び場、木陰のベンチ、池では釣り糸を垂らす子供たちの姿、豊かな緑が広がる木々の間では、かくれんぼを楽しむ子供もいる、地域の憩い場だった。

20数年ぶりに足を踏み入れた懐かしい公園は、思い出の宝庫だ。次々と記憶が蘇り、思い出話に花が咲く。きっとそれも英蔵の思惑通りなのだろう。

公園の周りの景色は変わってしまったけれど、この場所だけはあの頃のまま、時が止まっているようだ。

思い出話に花を咲かせ、だいぶ酒も進んでいた深夜2時ごろ、英蔵が急に気味の悪い話を始めた。

「あのさ、この公園幽霊が出るって噂があるの知ってるか?」

「あー、なんかYouTuberがやってたな、そんなん。でも、俺らずっとおったけど、一回も見た事ないけどな。笑」勇樹が返す。

確かにそうだ。昼も夜も、夜中抜け出して朝までいた事もある公園。毎日いたが、俺を含めてここにいる誰一人、幽霊なんて見た奴はいない。

「俺達が遊んでた頃より前か後かは、分からんけど、トイレで首吊り自殺があったらしいで」英蔵が話をつづける。

「あと、池から白い手が出て手招きしてくるって噂も。俺たち、あの頃も池の方には、全然行ってないよな?ちょっと探検してみよか」

「面白そう!」
千聡がすぐに賛成した。

勇樹も続いた。
「行こか」

実は大のオカルト好きで妖怪オタクの俺は、内心はワクワクしていた。

結局、俺たち4人のおじさんは、アルコールの力に後押しされ。深夜の探検へと出発することになった。

うっそうと茂った草木をかき分け、中心の池を目指す。さほど大きな公園ではないため、すぐに池のほとりについた。

池の中からは人の背丈ほどに伸びた草が生い茂り、まるで池の中心を隠しているかのようだ。

「で? どこから手が出てるって?」
勇樹が呟く。

「草がいっぱいで見えないよね」
千聡が前のめりになり、目の前に生い茂る草を手でかき分けた。

その瞬間、目の前にいたはずの千聡が消えた。

バシャーン!

相当アルコールを飲んでいたせいか、バランスを崩した千聡が池に落ちてしまったのだ。

やばい! 心臓が早鐘のように鼓動を鳴らす。

「捕まれ!」
勇樹と俺が同時に手を伸ばし、千聡を引き上げようと必死に手を伸ばしたが、屆かない。

泳ぎが得意なはずの千聡だが、池の藻や草が絡むのか、水面に上がることができずに必死にもがく。

彼の身体が、少しずつ水面に沈んでいく。

「助けて! お願い!」

千聡の悲鳴と、俺たちの助けようとする声が静かな公園に響きわたる。

やばい、やばい、どうする。周りに何か長い棒のようなものはないか見渡すが、役に立ちそうな物は何もない。

「千聡! もっと手え伸ばせ!」
勇樹が大声を張り上げながら必死に手を伸ばす。

「あかん、藻が絡んでる。中に入って助けな無理や!」
俺は叫びながらTシャツを脱ぎ、池に飛び込もうとしたが勇樹に静止された。

「アホか! 助けるやつが2人になるだけや! 考えろ! 英蔵、とりあえず119でレスキュー呼んでくれ!」
勇樹が振り返ってそう叫ぶ。

「やばい! 顔が沈んでもうた!」
俺は千聡が沈むのを見て叫んだ。

いつも冷静な勇樹も、かなり焦っているようだ。
「おい! 英蔵、何してんねん! 早く救急……」

ドン! 

バシャーン、バシャーン!

2人の水に落ちる音が響きわたる。

何者かに、俺と勇樹は突き飛ばされた。
突き飛ばされる瞬間、振り返りざまにそいつの顔を見た。ひっそりと佇む不気味な顔を。

真っ暗な水の中に顔から落ちた。8月とは思えないほど水溫は氷のように冷たかった。俺は水面に這い上がろうと必死にもがいた。しかし、もがけばもがくほど水中に引きずり込まれる。

やばい、死にたくない。落ち著け、落ち著け! そう心の中で唱える。おかしい、いくら大きめの池とはいえ、街の公園の池がこんなに深い訳がないのだ。足に絡む藻を解こうと、なんとか目を開けた。

俺はその光景に心臓が止まりそうになった。真っ暗な水の中、足に絡みついていたのは藻ではなく、白く光る手のようなものだったのだ。

いやだ、苦しい、死にたくない……。

暗闇の中、俺の身体と意識が深い闇に沈んでいった。
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