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タイムリープ。
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「おい!大丈夫か!」英蔵の大声で、俺はハッと意識を取り戻し水面から引き起こされた。そうだ、勇樹と千聡は?
そう思った瞬間、
「ぶはっ!死ぬかと思った!」
勇樹が水面から顔を出す。
「はぁ、はぁ、やばかったね。40前のおっさんが酔っ払って公園の池で溺死なんて笑えないよ?本当」続いて千聡も顔を出した。
どうやらみんな無事なようだ。
「笑えないよ、やないわ!お前のせいやろ!」俺は思わず千聡に悪態をついた。
「ごめんごめん、とりあえず池から上がろうよ」
千聡がザブザブとほとりの方へ歩き始めたのを見て、俺はふと疑問がよぎり、さっきの水底で見た光景を思い出す。
やはり水深は、せいぜい腰の下か太ももの付け根あたりなのだ。酔っ払っているとはいえ、大の男が3人も溺れるとは考えにくい。
そして、暗い底なし沼のような水底で白く光っていた、あの手は一体……?
そうだ、俺たちを突き飛ばした奴は?
あの不気味に佇む男の顔を思い出そうとするが、顔にモヤがかかったようでどうしても思い出せない。
ただ漠然とした不安が心を支配していく、そんな感覚だけが残り冷や汗が止まらなくなる。怖い、ただ怖いのだ。
「おーい、昂兵、早く上がってきなよ」
千聡の声にハッとして、みんなの元へ向かいはじめた。
水を含んだ服は、思っているよりかなり重たい。
先に池から上がっている3人を見て、またも胸の鼓動が早くなる。
おかしい、誰だあそこにいる3人は? 俺の知っている親友3人ではない。いや、正確には今の親友3人ではないのだ。
「昂兵? どうしたの? そんな狐につままれた様な顔して」
千聡が続ける。
「ん? てか、昂兵の服そんなだっけ? そんなカッコいい(ダサい)迷彩のズボン履いてた?笑」
俺はいつのまにか履いた覚えのない迷彩柄のズボンを履いていた。
大切なものは、目に見えない、と言うけれど、この迷彩のダサさは、誰の目にも明らかだ。しかしどこか懐かしさを感じる。
そもそも千聡を助けようと、俺は服を脱いだはずなのになぜこんな罰ゲームのような格好を? そんな事を考えながら進む。
俺が近づくに連れて、みんなの表情も強張る。
そうなのだ、俺たちはどう見ても10代半ばの容姿になっていた。
「ちょっと待ってよ、コレどう言う事??」
千聡の顔に先ほどの笑みはない。
「夢か? それともやっぱり俺たちは死んだのか? いや、この感覚は現実だ……」
手をグーパーさせながら、勇樹がボソボソと呟く。こんなあり得ない事態に陥っても、冷静に状況を把握しようとしているようだ。
英蔵の手を借り池から上がったものの、俺たちは呆然と立ち尽くす。
皆それぞれ考えていることがあるのだろう。
そんな沈黙を最初に破ったのは千聡だった。
「あのさ、もしかして、コレってタイムスリップ? いや、タイムリープ?」
「どっちでもええわ! 何がちゃうねん」
英蔵が呆れたように答える。
「あのね英ちゃん、タイムスリップとタイムリープの違いは明確で、分かりやすく言うとタイムスリップは時間滑走、タイムリープは時間跳躍、つまり瞬間的に時間移動することを……」
「あー、わかった! もういい、ありがとう」
都市伝説好きの千聡のうんちくを、英蔵が鬱陶しそうな顔しながら遮る。
「つまり俺達は池に落ちて、そのタイムリープってやつをしたって事か?」
「いや、そうとは限らへんやろ? ただ池に落ちて若返っただけかも」
俺が答えると、英蔵が続ける。
「池に落ちて若返り?まさか浦島太郎でもあるまいし。亀はどこにおるんや?いや、待てよ。浦島太郎はジジイになったから逆か。んなアホな」
「そんなこと言うたら、タイムリープだってあり得へんやんけ!」
「いや、間違いないコレはタイムリープやな」
俺と英蔵がレベルの低い言い争いをしていると、勇樹が冷靜なトーンで間に入った。
「根拠は昂兵のズボン、俺はその恐ろしくダサいズボンを20年以上前に見たことがある」
「あぁ、確かに俺もあるぞ」
「うん、絶対そうだ」
英蔵と千聡も腑に落ちた顔をしている。
そう、中学生の頃の俺は、迷彩柄が1番カッコいいと信じてやまなかったのだ。
1つの疑問が解決したが、俺は何か大切なものを失った気がした。
公園の道路を挟んで斜め向かいにあるコンビニに入り新聞コーナーで今日の日付けを確かめた。
新聞紙に書かれた日付はどの新聞社のものを見ても2002年8月30日だ。覚悟はしていたがそれでも絶望感が押し寄せる。
なんとか元の時代に戻れないかと俺は何度も池に飛び込んだがその度に泥水を被るだけで何も変わらなかった。
「あかん、なんべんやっても戻られへん。やっぱりあの白い手が原因なんか?」
俺が独り言のように呟いたのを聞いて勇樹が反応する。
「おい、昂兵も見たんか?白い手、てことはやっぱりアレは気絶してる間に見た夢じゃなかったんやな...千聡と英蔵は見たか?」
「俺は無我夢中でもがいてたからよく覚えてないんだごめんね」千聡がそう言うと続いて英蔵が口を開いた。
「俺も見てへんな、お前ら全員落ちてもうて、慌てて助けに入ったからな、気づいたらこの状態や」
俺たちはその後、1時間程ああでもない、こうでもないと、考察を続けたが結局元の時代に戻る糸口は何も見出せなかった。
「とりあえず一旦この時代の自分の家に帰るしかないな、多分明日は始業式のはずやから学校で会おう。」
英蔵の提案に同意し、俺たちは、23年前の自宅にそれぞれ帰宅することになった。
俺は当時の家の自分の部屋のベランダの柵を乗り越えて自分の部屋に入った。
やっぱりベランダの鍵は開けっぱなしだ、俺はいつも夜中に家を抜けだしていたので、不用心にもベランダの鍵はずっと開けっぱなしにしていた。
懐かしい俺の部屋、あの頃大ファンだったモーニング娘。のポスターで埋め尽くされていた。
小学6年生の時にオーディション番組でプッチモニのレコーディング風景が流れており、後藤真希がレコーディングしているのを見て衝撃を受けたのだ。
こんなに可愛い人がこの世にいるのかと。それ以来後藤真希の大ファンになったのだ。
いや、そんな事はどうでもいい
びしょ濡れだった服も、幸い家に入る頃には水が滴り落ちない程度には乾いていた。
身体の汚れを落とすためにシャワーを浴びて懐かしい部屋のベッドに潛り込んだ。
どうか、悪い夢であってくれ、おきたら元の世界に戻っていてくれ、と願いながら俺は眠りについた。
朝目覚めて目を開けると、女神様がこちらを見て微笑んでいた。
いや違う。
ベッドのすぐ横の壁に貼られた、ハッピーサマーウエディングのポスターだ。
やはりこれは現実なんだと思い知らされた。
二人の息子と妻のことを思い、焦りと悲しみが合わさったような、なんとも言えない感情で胸が締め付けられた。
俺は、なんとしてでも必ず家族の元に帰ると、心に誓った。
「あんた、ええ加減に起きや。学校終わってまうで」
そう言いながら部屋の扉を開けて母が入ってきた。まだ白髪染めもしていないし、顔のシワも少ない、懐かしい母の姿を見ると、心が温まる感覚を覚え、少しだけ気持ちが楽になった。
「オカン、ありがとうな」
自然に言葉が出ていた。
「はあ? なんやの、いきなり。気色悪い」
そう言いながら台所の方へ朝食の支度に戻る母、その背を追うように部屋を出て、リビングに向かう。親父の姿はもうなく、どうやら既に仕事に出かけたようだ。
「親父はもう仕事行ったん?」
母にそう尋ねた。
「もうとっくに仕事行ったわ。あんたも早よ食べて、さっさと学校行き」
俺は懐かしいグレーのチェック柄のズボンとブレザーの制服に着替え、当時毎日母が作ってくれていた、バタートーストと胡椒だらけの目玉焼きを食べ、学校へ向かった。
そう思った瞬間、
「ぶはっ!死ぬかと思った!」
勇樹が水面から顔を出す。
「はぁ、はぁ、やばかったね。40前のおっさんが酔っ払って公園の池で溺死なんて笑えないよ?本当」続いて千聡も顔を出した。
どうやらみんな無事なようだ。
「笑えないよ、やないわ!お前のせいやろ!」俺は思わず千聡に悪態をついた。
「ごめんごめん、とりあえず池から上がろうよ」
千聡がザブザブとほとりの方へ歩き始めたのを見て、俺はふと疑問がよぎり、さっきの水底で見た光景を思い出す。
やはり水深は、せいぜい腰の下か太ももの付け根あたりなのだ。酔っ払っているとはいえ、大の男が3人も溺れるとは考えにくい。
そして、暗い底なし沼のような水底で白く光っていた、あの手は一体……?
そうだ、俺たちを突き飛ばした奴は?
あの不気味に佇む男の顔を思い出そうとするが、顔にモヤがかかったようでどうしても思い出せない。
ただ漠然とした不安が心を支配していく、そんな感覚だけが残り冷や汗が止まらなくなる。怖い、ただ怖いのだ。
「おーい、昂兵、早く上がってきなよ」
千聡の声にハッとして、みんなの元へ向かいはじめた。
水を含んだ服は、思っているよりかなり重たい。
先に池から上がっている3人を見て、またも胸の鼓動が早くなる。
おかしい、誰だあそこにいる3人は? 俺の知っている親友3人ではない。いや、正確には今の親友3人ではないのだ。
「昂兵? どうしたの? そんな狐につままれた様な顔して」
千聡が続ける。
「ん? てか、昂兵の服そんなだっけ? そんなカッコいい(ダサい)迷彩のズボン履いてた?笑」
俺はいつのまにか履いた覚えのない迷彩柄のズボンを履いていた。
大切なものは、目に見えない、と言うけれど、この迷彩のダサさは、誰の目にも明らかだ。しかしどこか懐かしさを感じる。
そもそも千聡を助けようと、俺は服を脱いだはずなのになぜこんな罰ゲームのような格好を? そんな事を考えながら進む。
俺が近づくに連れて、みんなの表情も強張る。
そうなのだ、俺たちはどう見ても10代半ばの容姿になっていた。
「ちょっと待ってよ、コレどう言う事??」
千聡の顔に先ほどの笑みはない。
「夢か? それともやっぱり俺たちは死んだのか? いや、この感覚は現実だ……」
手をグーパーさせながら、勇樹がボソボソと呟く。こんなあり得ない事態に陥っても、冷静に状況を把握しようとしているようだ。
英蔵の手を借り池から上がったものの、俺たちは呆然と立ち尽くす。
皆それぞれ考えていることがあるのだろう。
そんな沈黙を最初に破ったのは千聡だった。
「あのさ、もしかして、コレってタイムスリップ? いや、タイムリープ?」
「どっちでもええわ! 何がちゃうねん」
英蔵が呆れたように答える。
「あのね英ちゃん、タイムスリップとタイムリープの違いは明確で、分かりやすく言うとタイムスリップは時間滑走、タイムリープは時間跳躍、つまり瞬間的に時間移動することを……」
「あー、わかった! もういい、ありがとう」
都市伝説好きの千聡のうんちくを、英蔵が鬱陶しそうな顔しながら遮る。
「つまり俺達は池に落ちて、そのタイムリープってやつをしたって事か?」
「いや、そうとは限らへんやろ? ただ池に落ちて若返っただけかも」
俺が答えると、英蔵が続ける。
「池に落ちて若返り?まさか浦島太郎でもあるまいし。亀はどこにおるんや?いや、待てよ。浦島太郎はジジイになったから逆か。んなアホな」
「そんなこと言うたら、タイムリープだってあり得へんやんけ!」
「いや、間違いないコレはタイムリープやな」
俺と英蔵がレベルの低い言い争いをしていると、勇樹が冷靜なトーンで間に入った。
「根拠は昂兵のズボン、俺はその恐ろしくダサいズボンを20年以上前に見たことがある」
「あぁ、確かに俺もあるぞ」
「うん、絶対そうだ」
英蔵と千聡も腑に落ちた顔をしている。
そう、中学生の頃の俺は、迷彩柄が1番カッコいいと信じてやまなかったのだ。
1つの疑問が解決したが、俺は何か大切なものを失った気がした。
公園の道路を挟んで斜め向かいにあるコンビニに入り新聞コーナーで今日の日付けを確かめた。
新聞紙に書かれた日付はどの新聞社のものを見ても2002年8月30日だ。覚悟はしていたがそれでも絶望感が押し寄せる。
なんとか元の時代に戻れないかと俺は何度も池に飛び込んだがその度に泥水を被るだけで何も変わらなかった。
「あかん、なんべんやっても戻られへん。やっぱりあの白い手が原因なんか?」
俺が独り言のように呟いたのを聞いて勇樹が反応する。
「おい、昂兵も見たんか?白い手、てことはやっぱりアレは気絶してる間に見た夢じゃなかったんやな...千聡と英蔵は見たか?」
「俺は無我夢中でもがいてたからよく覚えてないんだごめんね」千聡がそう言うと続いて英蔵が口を開いた。
「俺も見てへんな、お前ら全員落ちてもうて、慌てて助けに入ったからな、気づいたらこの状態や」
俺たちはその後、1時間程ああでもない、こうでもないと、考察を続けたが結局元の時代に戻る糸口は何も見出せなかった。
「とりあえず一旦この時代の自分の家に帰るしかないな、多分明日は始業式のはずやから学校で会おう。」
英蔵の提案に同意し、俺たちは、23年前の自宅にそれぞれ帰宅することになった。
俺は当時の家の自分の部屋のベランダの柵を乗り越えて自分の部屋に入った。
やっぱりベランダの鍵は開けっぱなしだ、俺はいつも夜中に家を抜けだしていたので、不用心にもベランダの鍵はずっと開けっぱなしにしていた。
懐かしい俺の部屋、あの頃大ファンだったモーニング娘。のポスターで埋め尽くされていた。
小学6年生の時にオーディション番組でプッチモニのレコーディング風景が流れており、後藤真希がレコーディングしているのを見て衝撃を受けたのだ。
こんなに可愛い人がこの世にいるのかと。それ以来後藤真希の大ファンになったのだ。
いや、そんな事はどうでもいい
びしょ濡れだった服も、幸い家に入る頃には水が滴り落ちない程度には乾いていた。
身体の汚れを落とすためにシャワーを浴びて懐かしい部屋のベッドに潛り込んだ。
どうか、悪い夢であってくれ、おきたら元の世界に戻っていてくれ、と願いながら俺は眠りについた。
朝目覚めて目を開けると、女神様がこちらを見て微笑んでいた。
いや違う。
ベッドのすぐ横の壁に貼られた、ハッピーサマーウエディングのポスターだ。
やはりこれは現実なんだと思い知らされた。
二人の息子と妻のことを思い、焦りと悲しみが合わさったような、なんとも言えない感情で胸が締め付けられた。
俺は、なんとしてでも必ず家族の元に帰ると、心に誓った。
「あんた、ええ加減に起きや。学校終わってまうで」
そう言いながら部屋の扉を開けて母が入ってきた。まだ白髪染めもしていないし、顔のシワも少ない、懐かしい母の姿を見ると、心が温まる感覚を覚え、少しだけ気持ちが楽になった。
「オカン、ありがとうな」
自然に言葉が出ていた。
「はあ? なんやの、いきなり。気色悪い」
そう言いながら台所の方へ朝食の支度に戻る母、その背を追うように部屋を出て、リビングに向かう。親父の姿はもうなく、どうやら既に仕事に出かけたようだ。
「親父はもう仕事行ったん?」
母にそう尋ねた。
「もうとっくに仕事行ったわ。あんたも早よ食べて、さっさと学校行き」
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