先見の聖女は、聖女であることを望まない。~幸せを願った幼馴染が、勇者になるのだけは想定外~

千 遊雲

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先見の聖女は、覚悟を決めた

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ケイトではない聖女の手を取って去ってしまったコーダの姿に、ケイトは一人涙を流して悲しむ……

「馬鹿、コーダは本当に馬鹿なんだから! 勇者なんて持ち上げられて王都にまでノコノコ連れ出されて、コーダの馬鹿!! 国王クソ男が魔王討伐を扇動しようとして、それに祭り上げられているだけって、なんで気が付かないのよ!!」

……ようなことは、していなかった。

悲しんでいるだけで、人生が好転するなんてことはあり得ない。
そうであったら、ケイトは王城に閉じ込められるばかりの人生なんて、送ってはいないだろうから。

だから悲しむ代わりに、ケイトは部屋の中にあったクッションをボスリと殴って、再び「馬鹿」と呟いた。

「……コーダ、大きくなってた」

怒っていた筈なのに、うっかり緩んでしまいそうになった口元に、ケイトは慌ててクッションをもう一度殴った。
照れ隠しのような二度目のグーパンチを食らったクッションだったが、元の質が良いからか、生地が破れるようなことは無かった。


  ◇  ◆  ◇


「先見の聖女様? あの、先ほどから物音が激しいのですが、何かございましたでしょうか?」
「なんでもないわ。気にしないで」
「はぁ……」
「何かあったら声を掛けるわ」
「ですが……」
「逃げ出そうなんて考えていないから大丈夫よ」

しばらくの間クッションをポスポスと叩いていたケイトは、その物音に気が付いてやって来た侍女の姿に、手のひらをヒラヒラと振って見せた。
「逃げ出そうなんて考えていない」というケイトの言葉に、侍女は一瞬顔を強張らせる。
ケイトの足首に鎖まで付けている癖に、「聖女を監禁している」という事実は認めたくないらしい。

「いえ、そんな! 私はそんな心配は……先見の聖女様は、その、お役目を全うして下さる、ご立派なお方と信じておりますから……」

ケイトは「何を今更」と呆れるだけだが、侍女の誤魔化すように曖昧な返事には、それ以上突っ込まなかった。
そそくさと、逃げるように去っていった侍女の姿を見ながら、ケイトは少し冷静になってきた頭で考える。

「……きっとコーダは、魔王討伐の役者にされるのよね」

魔王の討伐は最近、国王クソ男が積極的に扇動している話だ。
国王なのに、呼び方が「クソ男」で良いのかという点に関しては、ケイトを聖女として王城に囲っているのが国王クソ男なので、仕方ない。

「あの国王クソ男、わざと私に魔王討伐の未来を見せなかったわね」

国王クソ男が魔王討伐計画を進めながらも、ケイトにその未来を見るように指示をしなかったのは、コーダの姿を見られることを嫌ったからだろう。
ケイトがもしも、事前にコーダが関わっていることを知っていれば、確実に未来を変えようとしたから。

「本当に、嫌な男」

呟いて、ケイトは目を瞑った。

「魔王討伐は止められない。ここまで話が進んでしまったら無理よ」

真っ暗な世界の中、ケイトは思考を巡らせる。

「コーダの他に、勇者と呼ばれるような人は……過去から未来へ、移り行く時間。<今を見る目>」

コーダの代わりの勇者になれそうな人が居ないかと、ケイトは先見の聖女の力で国中を見渡したけれど、強者と言えるような人は居なかった。

「駄目ね。それに、コーダが祭り上げられているし、今から勇者を変えられない」

コーダが戦えなくなるような怪我でもすれば、勇者の椅子から降りることを許されるかもしれないけれど……

「いえ、それも駄目」

……そこまで考えてから、ケイトは首を振った。
この国には、ケイト以外の聖女も居る。
コーダが大怪我をしたとしても、癒しの聖女あたりが治療をして終わりだろう。

「ああ、もう。コーダが勇者になるしか、選べる道が残っていないじゃない!」

ボスンと、ケイトはもう一度クッションを殴りつけた。
大方、ケイトがクソ男と呼ぶ国王が、他の道が選べないところまで上手く進めたのだろう。

「コーダが勇者になって、魔王と戦うのは決定事項ってことね。……あの国王クソ男、本当に大嫌い」

呟いて、ケイトは覚悟を決めた。

「なら、私が絶対にコーダを死なせない。魔王を倒して、コーダをあの村に戻してみせる」

コーダを絶対に死なせずに、魔王を倒す覚悟を。

「今回は国王クソ男の思惑に乗ってあげるわよ」

閉じていた瞳をゆっくりと開く。
ケイトの黒い瞳は、強い輝きに満ちていた。

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