3 / 7
先見の聖女は、覚悟を決めた
しおりを挟む
ケイトではない聖女の手を取って去ってしまったコーダの姿に、ケイトは一人涙を流して悲しむ……
「馬鹿、コーダは本当に馬鹿なんだから! 勇者なんて持ち上げられて王都にまでノコノコ連れ出されて、コーダの馬鹿!! 国王が魔王討伐を扇動しようとして、それに祭り上げられているだけって、なんで気が付かないのよ!!」
……ようなことは、していなかった。
悲しんでいるだけで、人生が好転するなんてことはあり得ない。
そうであったら、ケイトは王城に閉じ込められるばかりの人生なんて、送ってはいないだろうから。
だから悲しむ代わりに、ケイトは部屋の中にあったクッションをボスリと殴って、再び「馬鹿」と呟いた。
「……コーダ、大きくなってた」
怒っていた筈なのに、うっかり緩んでしまいそうになった口元に、ケイトは慌ててクッションをもう一度殴った。
照れ隠しのような二度目のグーパンチを食らったクッションだったが、元の質が良いからか、生地が破れるようなことは無かった。
◇ ◆ ◇
「先見の聖女様? あの、先ほどから物音が激しいのですが、何かございましたでしょうか?」
「なんでもないわ。気にしないで」
「はぁ……」
「何かあったら声を掛けるわ」
「ですが……」
「逃げ出そうなんて考えていないから大丈夫よ」
しばらくの間クッションをポスポスと叩いていたケイトは、その物音に気が付いてやって来た侍女の姿に、手のひらをヒラヒラと振って見せた。
「逃げ出そうなんて考えていない」というケイトの言葉に、侍女は一瞬顔を強張らせる。
ケイトの足首に鎖まで付けている癖に、「聖女を監禁している」という事実は認めたくないらしい。
「いえ、そんな! 私はそんな心配は……先見の聖女様は、その、お役目を全うして下さる、ご立派なお方と信じておりますから……」
ケイトは「何を今更」と呆れるだけだが、侍女の誤魔化すように曖昧な返事には、それ以上突っ込まなかった。
そそくさと、逃げるように去っていった侍女の姿を見ながら、ケイトは少し冷静になってきた頭で考える。
「……きっとコーダは、魔王討伐の役者にされるのよね」
魔王の討伐は最近、国王が積極的に扇動している話だ。
国王なのに、呼び方が「クソ男」で良いのかという点に関しては、ケイトを聖女として王城に囲っているのが国王なので、仕方ない。
「あの国王、わざと私に魔王討伐の未来を見せなかったわね」
国王が魔王討伐計画を進めながらも、ケイトにその未来を見るように指示をしなかったのは、コーダの姿を見られることを嫌ったからだろう。
ケイトがもしも、事前にコーダが関わっていることを知っていれば、確実に未来を変えようとしたから。
「本当に、嫌な男」
呟いて、ケイトは目を瞑った。
「魔王討伐は止められない。ここまで話が進んでしまったら無理よ」
真っ暗な世界の中、ケイトは思考を巡らせる。
「コーダの他に、勇者と呼ばれるような人は……過去から未来へ、移り行く時間。<今を見る目>」
コーダの代わりの勇者になれそうな人が居ないかと、ケイトは先見の聖女の力で国中を見渡したけれど、強者と言えるような人は居なかった。
「駄目ね。それに、コーダが祭り上げられているし、今から勇者を変えられない」
コーダが戦えなくなるような怪我でもすれば、勇者の椅子から降りることを許されるかもしれないけれど……
「いえ、それも駄目」
……そこまで考えてから、ケイトは首を振った。
この国には、ケイト以外の聖女も居る。
コーダが大怪我をしたとしても、癒しの聖女あたりが治療をして終わりだろう。
「ああ、もう。コーダが勇者になるしか、選べる道が残っていないじゃない!」
ボスンと、ケイトはもう一度クッションを殴りつけた。
大方、ケイトがクソ男と呼ぶ国王が、他の道が選べないところまで上手く進めたのだろう。
「コーダが勇者になって、魔王と戦うのは決定事項ってことね。……あの国王、本当に大嫌い」
呟いて、ケイトは覚悟を決めた。
「なら、私が絶対にコーダを死なせない。魔王を倒して、コーダをあの村に戻してみせる」
コーダを絶対に死なせずに、魔王を倒す覚悟を。
「今回は国王の思惑に乗ってあげるわよ」
閉じていた瞳をゆっくりと開く。
ケイトの黒い瞳は、強い輝きに満ちていた。
「馬鹿、コーダは本当に馬鹿なんだから! 勇者なんて持ち上げられて王都にまでノコノコ連れ出されて、コーダの馬鹿!! 国王が魔王討伐を扇動しようとして、それに祭り上げられているだけって、なんで気が付かないのよ!!」
……ようなことは、していなかった。
悲しんでいるだけで、人生が好転するなんてことはあり得ない。
そうであったら、ケイトは王城に閉じ込められるばかりの人生なんて、送ってはいないだろうから。
だから悲しむ代わりに、ケイトは部屋の中にあったクッションをボスリと殴って、再び「馬鹿」と呟いた。
「……コーダ、大きくなってた」
怒っていた筈なのに、うっかり緩んでしまいそうになった口元に、ケイトは慌ててクッションをもう一度殴った。
照れ隠しのような二度目のグーパンチを食らったクッションだったが、元の質が良いからか、生地が破れるようなことは無かった。
◇ ◆ ◇
「先見の聖女様? あの、先ほどから物音が激しいのですが、何かございましたでしょうか?」
「なんでもないわ。気にしないで」
「はぁ……」
「何かあったら声を掛けるわ」
「ですが……」
「逃げ出そうなんて考えていないから大丈夫よ」
しばらくの間クッションをポスポスと叩いていたケイトは、その物音に気が付いてやって来た侍女の姿に、手のひらをヒラヒラと振って見せた。
「逃げ出そうなんて考えていない」というケイトの言葉に、侍女は一瞬顔を強張らせる。
ケイトの足首に鎖まで付けている癖に、「聖女を監禁している」という事実は認めたくないらしい。
「いえ、そんな! 私はそんな心配は……先見の聖女様は、その、お役目を全うして下さる、ご立派なお方と信じておりますから……」
ケイトは「何を今更」と呆れるだけだが、侍女の誤魔化すように曖昧な返事には、それ以上突っ込まなかった。
そそくさと、逃げるように去っていった侍女の姿を見ながら、ケイトは少し冷静になってきた頭で考える。
「……きっとコーダは、魔王討伐の役者にされるのよね」
魔王の討伐は最近、国王が積極的に扇動している話だ。
国王なのに、呼び方が「クソ男」で良いのかという点に関しては、ケイトを聖女として王城に囲っているのが国王なので、仕方ない。
「あの国王、わざと私に魔王討伐の未来を見せなかったわね」
国王が魔王討伐計画を進めながらも、ケイトにその未来を見るように指示をしなかったのは、コーダの姿を見られることを嫌ったからだろう。
ケイトがもしも、事前にコーダが関わっていることを知っていれば、確実に未来を変えようとしたから。
「本当に、嫌な男」
呟いて、ケイトは目を瞑った。
「魔王討伐は止められない。ここまで話が進んでしまったら無理よ」
真っ暗な世界の中、ケイトは思考を巡らせる。
「コーダの他に、勇者と呼ばれるような人は……過去から未来へ、移り行く時間。<今を見る目>」
コーダの代わりの勇者になれそうな人が居ないかと、ケイトは先見の聖女の力で国中を見渡したけれど、強者と言えるような人は居なかった。
「駄目ね。それに、コーダが祭り上げられているし、今から勇者を変えられない」
コーダが戦えなくなるような怪我でもすれば、勇者の椅子から降りることを許されるかもしれないけれど……
「いえ、それも駄目」
……そこまで考えてから、ケイトは首を振った。
この国には、ケイト以外の聖女も居る。
コーダが大怪我をしたとしても、癒しの聖女あたりが治療をして終わりだろう。
「ああ、もう。コーダが勇者になるしか、選べる道が残っていないじゃない!」
ボスンと、ケイトはもう一度クッションを殴りつけた。
大方、ケイトがクソ男と呼ぶ国王が、他の道が選べないところまで上手く進めたのだろう。
「コーダが勇者になって、魔王と戦うのは決定事項ってことね。……あの国王、本当に大嫌い」
呟いて、ケイトは覚悟を決めた。
「なら、私が絶対にコーダを死なせない。魔王を倒して、コーダをあの村に戻してみせる」
コーダを絶対に死なせずに、魔王を倒す覚悟を。
「今回は国王の思惑に乗ってあげるわよ」
閉じていた瞳をゆっくりと開く。
ケイトの黒い瞳は、強い輝きに満ちていた。
24
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。
彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。
彼女は思った。
(今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。
今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる