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化け物王子は、毒兵器の幸せを願う

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敵を切り、銃弾をその身に受け、頭はフラフラとする。しかし俺は歩みを止めようとはしなかった。

幾人を切れば、幾人の命を奪えば戦争は終わるのか。そんなことは分からなかった。ただ、目の前に居る敵を切り。剣が折れれば素手で。鎧が砕ければ体を剥き出しのまま突き進み。



そうして気が付けば俺は、幾人も付けられていた護衛を失い、隣国の兵士に囲まれていたが、その状況にほんの少し安心してしまっている自分が居た。

戦争を終わらせることは出来なかったが、それでもここで俺が死ねば、戦争に勝っても負けても、余計な火種は残さないで済む。

そう思って、死を受け入れようとして…。



「手負いの男一人に時間を掛けるな!丘の向こうに毒が撒かれた、早く殺してそちらに向かうぞ!」



司令塔らしき人物の言葉に、目を見開いた。

戦場で騒ぎになるほどの毒を扱うことの出来る人物なんて、知る限りシャウラしかいなかった。しかし、シャウラは逃がした筈で。



『主様が逃げろと言うのでしたら』



しかし、どうしても別れ際のシャウラの、寂しげな顔が思い浮かぶ。何かを言いたげだった。早く逃がさなければとそればかりで、尋ねることも出来なかったが。

もしかしたら、シャウラが俺を追って来てしまったかもしれない。そんなこと、ある筈なんて限りなく少ないのに。



「…まだ死ねない理由が出来てしまった!」



死を受け入れていた筈の俺が、地に落ちていた剣を再び握ったことに、敵兵は驚いた様だった。しかしそんなことはどうでもよく、何人もの兵を切り裂き、俺は丘の先へと進んだ。

敵を切る度、俺の体にその血がかかる。そうして俺の体にもまた、幾筋もの切り傷が入っていき。それでも足を止めなかった。

ただ、その幸せを願った少女が、丘の先に居ないことを願って。


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