【完結】悪役令嬢に転生したのに、あれ? 話が違うよ?

ノデミチ

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第四章

21. 叛乱勃発! そしてアリスは企む

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 ロズファンブルグ帝国王宮。
 皇太子襲撃の一報は帝国中に激震となって貴族を揺さぶった。
 ハインツ皇太子が王宮を抜け、自身の安全を確保すべく居城ペイルハイドに入り、態勢を立て直そうと動く間、どうしても穏健派は動きが取れない…或いは鈍くなってしまう。
 その間隙をぬって戦争派は、マールディア王国との国境に軍勢を終結させていた。
 「時間はないぞ! 皇太子が復権するまでにマールディアを! 港を手にいれるのだ! 」
 「王国内の工作員にも連絡を! 例の伯爵にも協力させよ!!」


 国境の動きは直ぐ様マールディア王宮に知れる。
 「宰相…」
 「妃殿下。おそらくアリス達と皇太子の密約が戦争派に火を着けたのでしょう。穏健派にここまで出し抜かれては…。さて、サイナス伯爵。アリスやルイーゼ嬢より伯爵家に叛意は無いと聞いておるが、その忠節を信じてよいのだな」
 セレナ王妃や宰相バルトの前で跪くサイナス伯爵。
 「フローラ…、いやルイーゼとは互いに利用し合う存在でした。全く影響の無い地方貴族から脱却したかった。亡命貴族と嘲られる日々から脱却したかったのです。何と浅はかな…。ガーランド公爵令嬢やルイーゼに庇われとりとめた命。もはや王国に捧げる以外に使い道はございませぬ。我が家に入っておりました帝国工作員は一部捕らえてはおりますが…」
 「指揮官等実行工作員は逃げ出したか。いや、だとしても伯爵領を拠点とされない事だけでも助かるのだ」
 「次期王太子妃とも約束しておる。『サイナス伯爵家は利用されたに過ぎぬ』。そう妾が明言したのだ。捧げると言った忠節、期待する故励むと良い」
 「有り難き幸せ」

 「妃殿下! 宰相閣下!! 軍団の編成は終わりました。これより国境へ向かいます。またフォルティス辺境伯の軍勢が既に国境を固めております」
 近衛軍司令ウォルフ=ザルツ公爵が報告に来る。
 「流石に仕事が速いな、ウォルフ」
 「有事に備えて、と軍に色々便宜を図る宰相殿のお陰だよ、バルト。それとサイナス伯爵にはトリマ城を中継拠点にして戴き感謝しますぞ!」
 「お役に立てて何よりです」
 「では、陛下の裁可を仰ぐ事にするぞ」

 「うむ。帝国の侵略、見事蹴散らして参れ」
 「御意」
 国王ユーノスの裁可は下った。


 「勇ましいお姿ですけど…、敢えてお聞きします。『本気ですか?』」
 多少呆れ気味の言葉。
 国境を固めるフォルティス辺境伯の補給拠点として、国境近くの風光明媚な場所にある伯の別荘。
 そこに、どう見ても冒険者としか見えない少女が2人と、呆れた様相の貴族令嬢。
 別荘の主、フォルティス辺境伯の令嬢テレーゼと冒険者風のレザーアーマー姿のアリスとクラリスだ。
 「敢えて言います。伊達や酔狂でこんな格好を致しませんよ」
 「するじゃないですか、貴女方は。もう…、王太子殿下はご存知なのでしょうね?」
 「まさか?」
 「それはご無理と言うものです」
 笑う2人に、
 「とうとう私迄悪巧みに巻き込むのですね、アリス様」
 ため息をつくテレーゼ。
 アリスはいつもの帯刀姿。クラリスもショートソードを数本腰に着けており、肩には狩弓、背に10数本の矢が入った矢筒がある。しかも使い込まれていて、全く取って付けた感じには見えなかった。
 「ここが補給拠点で本当に良かったです」
 「とりあえず時間稼ぎ。あ、勿論私達2人のみで行うのではありませんよ? 色々伝手があるのです」
 「クラリス様のご婚約者コーラス伯も?」
 「セロン様は別に動いております。実はカプール子爵家に妙な動きがあるのです」
 流石にテレーゼもピンとくる。

 元はカプール家の陪臣、カラン家の3男であったセロンは、主家と実家に棄てられてアリスに拾われ奴隷従者となった。
 そしてアリスと兄マイケルの計らいでガーランド公爵家の遠戚コーラス伯爵家の養子となり名跡を継ぐ事になったのだが、その為にセロンは下級騎士家のカラン処か主家のカプール子爵家より家格と立場が上がったのだ。王太子妃の従属護衛騎士となり、役職も王室護衛近衛騎士の第2騎士団団長にも抜擢された。
 確かにガーランド公爵家のゴリ押しではある。だがアリスに拾われ、ガーランド公爵家に仕えてからは慢心する事なく地道に鍛練を重ねていったセロンの剣技は、近衛騎士団の鍛練トーナメントで優勝を数年譲らない程の腕前となっていて、実力主義の騎士団に於いて文句の付けようのない強者だと、皆の尊敬を得る程になっていた。
 だが、カプール家と言うより嫡男のタランや、セロンの次兄アロンは、その事を認める事が出来なかった。
 セロンと、何よりも自分達を辱しめ嘲笑するガーランド公爵嫡男マイケル、そして主因たるアリスに怨嗟の念が高まっていったのである。

 そして、それをガント=エノクに巧く使われてしまう。

 ガントとしてはサイナス伯爵家と共に手駒の1つとして使うつもりでいた。ロズファンバルグ帝国が侵攻した時に、国境から若干入り込んだ補給拠点として都合のいいサイナス伯爵領と、侵攻国境と王都を挟み反対側にあるカプール子爵領。ガントは周到に侵攻準備をしてきた…つもりでいた。

 実際、その辺についてもアリス達に読まれている。
 カプール子爵軍は王都へ続く街道筋のハリキア平原辺りで近衛騎士団と対峙する破目になっていた。
 無視するか、何かしらの言い訳を考えるのが妥当だったにも関わらず、騎士団をセロンが率いている事がわかったタラン=カプールは怒髪衝天となり、騎士団に挑みかかっていった。
 国軍に戦を仕掛けたのである。
 その意味すら考える事なく…。

 「タラン卿…。これで彼らは反乱者だ。首謀者は逮捕拘禁する。撃退せよ!」

 平民苛めしかしていない地方貴族の兵士が鍛練に明け暮れる近衛騎士団に対抗出来る筈もなかった。

 「く、くくくっ…、セロン!」

 コーラス伯セロンの姿を確認した次兄アロンは、奇怪な叫び声をあげながら向かってくる。
 「国家反逆罪だ、アロン。マールディア王国、国王陛下の名の元に、アロン=カラン! 貴様を逮捕拘禁する」
 セロンの剣戟で呆気なく弾き跳ばされ剣を落とすアロン。そのまま柄で胸元を突かれ、簡単に落馬してしまう。
 「ぐはっ」
 「捕らえよ! さてタラン卿、貴方が首謀者と確認した。お覚悟を!!」
 「首謀者? ま、待て! 私は王国に刃向かう訳ではなく…」
 「国軍に仕掛けていてそれは通じませんよ。カプール家は貴方の廃嫡を申し出てきておりますが、それで済むとは思わぬ事です」
 「は、廃嫡? そんな…」


 「アリス様」
 「来ましたね。あれが帝国の補給部隊。あれを本隊に届けさせる訳にはいきません」
 「全く、とんでもねぇ令嬢ですな、貴女方は」
 「今更ですよ、親方」
 「へっ。さて、オメェ等! 積荷は好きにしていいそうだ。あれを帝国なんぞに使われるより俺達が売りさばいた方が遥かに有意義だとよ」
 「ありがてぇ話だ。けへへへへ」
 笑いが止まらない男達。
 山賊にしか見えない風体。実際、盗賊達なので変わらないのだが…。

 「それでは、やってしまいましょう」
 補給を絶つのは戦の常道。騎士道精神は兎も角。

 アリスの無双伝説の幕開けである…。
 
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