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運命の開戦
5.
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昭和15年初冬。
戦時中ではあるが、まだ年の瀬に向けて慌ただしい毎日が続いている。
伊号第400潜水艦、そして伊号第500潜水艦が完成し、日夜訓練航海に明け暮れていた。
潜航浮上の繰り返しは勿論の事、搭載機の発艦及び着水回収、浮上砲撃等。とにかく南田艦長の要求基準が厳しく、乗組員からも不満の声が相次いでいた。それが変わってきたのは、先輩格の旗艦イ- 401との合同訓練を経てからである。
日高艦長は南田艦長より細かくも厳しくもなかったが、401は司令座乗艦だ。有田司令も十二分にうるさい人物だったので、401も相当鍛えられていたのだけど、練度の点に於いて400が上回る様になったのである。
出航は勿論潜航、浮上発艦や砲撃。
あらゆる事が、イ- 400の方が早く達した。
これは前原先任や矢上航海長、甲本運用長、平松砲術長、神田機関長等幹部乗組員に実戦経験者が配置されている事も大きい。今はまだ中国との戦争が主目的で、海戦はイギリスインド洋艦隊との小競り合い程度でしか行われておらず、特に爆雷を喰らった地獄の如き経験を持つ者は、そう多くはなかったのだ。
艦長の厳しい猛訓練の意図を、前原達が正しく理解し各班員へ徹底したのである。
疲労困憊で、怪我人まで出てしまった猛訓練。それまであった乗組員達の不満は解消され、大いに溜飲が下がる結果を得た。旗艦に対して「どんなもんだい!」的な優越感を持ったのである。
逆に401にとっては旗艦の面目丸潰れだ。
日高中佐にとっても面白い事態ではなかったが、有田司令としては分然やるせなかった。また戦略砲撃潜水戦艦であるイ- 500の事も有田にとって不愉快な事になっていた。
有田大佐は、特型潜水艦隊は全て自分の指揮下に入ると思っていたのである。が、イ- 500と501は、この2隻で砲撃艦隊とし司令として柴少将が乗り込み、500艦長に山崎大佐が着任した。無論年齢的にも年次的にも有田が上だとは言え、同階級の艦長の存在は有田に「潜水空母艦隊の、要するに分艦隊司令だ」という事実を突き付ける形であり、特型潜水艦の運用に持論を持っていた有田の構想に「待った」を軍令部がかけたも同然である。高いプライドをへし折られた時に、旗艦の面目まで失った有田は「気分がすぐれぬ」と401の司令官室に数日籠ってしまったのだった。
そうこうしているうちに、運命の昭和16年が明けた。
この年明け、1月7日に山本五十六司令長官は及川古志郎海相に対米戦作戦として真珠湾攻撃を提出している。いよいよ本格的に対米戦が始まろうとしていた。
この頃には新聞各社も「アメリカ討つべし」と盛んに書き立て、政府談話として「もはや開戦は避けられず」との発表もあった。開戦前で、まだ国交を断絶した訳でもないので、居心地は悪かろうがアメリカ人記者が政府談話を聞ける立場にいた。
アメリカの新聞も「日本と開戦か?」と書き立てたのである。
これはアメリカ政府にとって面白くない話だ。
勿論、対独戦の為もあり日本との開戦を望んではいるものの、この時点ではまだ日本との関係改善へ交渉している段階なのだから。
前年(昭和15年)、日米通商航海条約が失効した。
言わば無条約時代になってしまい、この頃から日本も強硬路線へと対米交渉を転換し、挙句には日独伊三国同盟を締結してしまったのだ。
対中戦時の中国停泊中のアメリカ軍艦への撃沈や、三国同盟締結前ではあるが9月の日本軍インドシナ進駐もあって、日米関係は急速に悪化していった。アメリカも経済制裁を行い、昭和16年には資産凍結や石油の禁輸措置をとったのである。
4月。
駐米大使野村吉三郎とハル国務長官の間で日米交渉が始まった。
三国同盟の反米的性格を薄めた日米諒解案が出来つつあったのだが、松岡洋右外相の反対で、この諒解案は暗礁に乗り上げてしまう。
アメリカ側の態度硬化が決定的となった。
日本が出した譲歩案を拒否すると、国務長官の外交文書を提示してきたのだ。
いわゆる「ハルノート」と呼ばれる外交文書は、「極秘、一時的にして拘束力無し」と冒頭にある覚書でアメリカ政府の正式文書では無かったのだが、到底日本が受け入れられるモノではなかった。
アメリカは「平和的解決案」と提示していたが、日本側は「無理難題」と受け取り、政府談話として「アメリカの無理難題を非難する」と発表した。
第三者から見ても「これはアメリカに攻め込むであろう」と判断する者も出た内容であり、その意味でもアメリカにとって想定外だったのである。
日米開戦の日は、近付きつつあった。
戦時中ではあるが、まだ年の瀬に向けて慌ただしい毎日が続いている。
伊号第400潜水艦、そして伊号第500潜水艦が完成し、日夜訓練航海に明け暮れていた。
潜航浮上の繰り返しは勿論の事、搭載機の発艦及び着水回収、浮上砲撃等。とにかく南田艦長の要求基準が厳しく、乗組員からも不満の声が相次いでいた。それが変わってきたのは、先輩格の旗艦イ- 401との合同訓練を経てからである。
日高艦長は南田艦長より細かくも厳しくもなかったが、401は司令座乗艦だ。有田司令も十二分にうるさい人物だったので、401も相当鍛えられていたのだけど、練度の点に於いて400が上回る様になったのである。
出航は勿論潜航、浮上発艦や砲撃。
あらゆる事が、イ- 400の方が早く達した。
これは前原先任や矢上航海長、甲本運用長、平松砲術長、神田機関長等幹部乗組員に実戦経験者が配置されている事も大きい。今はまだ中国との戦争が主目的で、海戦はイギリスインド洋艦隊との小競り合い程度でしか行われておらず、特に爆雷を喰らった地獄の如き経験を持つ者は、そう多くはなかったのだ。
艦長の厳しい猛訓練の意図を、前原達が正しく理解し各班員へ徹底したのである。
疲労困憊で、怪我人まで出てしまった猛訓練。それまであった乗組員達の不満は解消され、大いに溜飲が下がる結果を得た。旗艦に対して「どんなもんだい!」的な優越感を持ったのである。
逆に401にとっては旗艦の面目丸潰れだ。
日高中佐にとっても面白い事態ではなかったが、有田司令としては分然やるせなかった。また戦略砲撃潜水戦艦であるイ- 500の事も有田にとって不愉快な事になっていた。
有田大佐は、特型潜水艦隊は全て自分の指揮下に入ると思っていたのである。が、イ- 500と501は、この2隻で砲撃艦隊とし司令として柴少将が乗り込み、500艦長に山崎大佐が着任した。無論年齢的にも年次的にも有田が上だとは言え、同階級の艦長の存在は有田に「潜水空母艦隊の、要するに分艦隊司令だ」という事実を突き付ける形であり、特型潜水艦の運用に持論を持っていた有田の構想に「待った」を軍令部がかけたも同然である。高いプライドをへし折られた時に、旗艦の面目まで失った有田は「気分がすぐれぬ」と401の司令官室に数日籠ってしまったのだった。
そうこうしているうちに、運命の昭和16年が明けた。
この年明け、1月7日に山本五十六司令長官は及川古志郎海相に対米戦作戦として真珠湾攻撃を提出している。いよいよ本格的に対米戦が始まろうとしていた。
この頃には新聞各社も「アメリカ討つべし」と盛んに書き立て、政府談話として「もはや開戦は避けられず」との発表もあった。開戦前で、まだ国交を断絶した訳でもないので、居心地は悪かろうがアメリカ人記者が政府談話を聞ける立場にいた。
アメリカの新聞も「日本と開戦か?」と書き立てたのである。
これはアメリカ政府にとって面白くない話だ。
勿論、対独戦の為もあり日本との開戦を望んではいるものの、この時点ではまだ日本との関係改善へ交渉している段階なのだから。
前年(昭和15年)、日米通商航海条約が失効した。
言わば無条約時代になってしまい、この頃から日本も強硬路線へと対米交渉を転換し、挙句には日独伊三国同盟を締結してしまったのだ。
対中戦時の中国停泊中のアメリカ軍艦への撃沈や、三国同盟締結前ではあるが9月の日本軍インドシナ進駐もあって、日米関係は急速に悪化していった。アメリカも経済制裁を行い、昭和16年には資産凍結や石油の禁輸措置をとったのである。
4月。
駐米大使野村吉三郎とハル国務長官の間で日米交渉が始まった。
三国同盟の反米的性格を薄めた日米諒解案が出来つつあったのだが、松岡洋右外相の反対で、この諒解案は暗礁に乗り上げてしまう。
アメリカ側の態度硬化が決定的となった。
日本が出した譲歩案を拒否すると、国務長官の外交文書を提示してきたのだ。
いわゆる「ハルノート」と呼ばれる外交文書は、「極秘、一時的にして拘束力無し」と冒頭にある覚書でアメリカ政府の正式文書では無かったのだが、到底日本が受け入れられるモノではなかった。
アメリカは「平和的解決案」と提示していたが、日本側は「無理難題」と受け取り、政府談話として「アメリカの無理難題を非難する」と発表した。
第三者から見ても「これはアメリカに攻め込むであろう」と判断する者も出た内容であり、その意味でもアメリカにとって想定外だったのである。
日米開戦の日は、近付きつつあった。
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