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第1部4章 魔王降臨編
39 詠唱
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王宮図書館から目当ての古典魔術書を引っ張り出してきた承治は、再びバルコニーに躍り出た。
その背後にはヴィオラ、ユンフォニア、セレスタ、オババ様が続く。そして、ユンフォニアはウラシムの宝石を大量に抱えていた。
一団の先頭に立つ承治は、素早く魔術書を開いてページをめくる。
目的のページが開かれたところで、オババ様は承治に声をかけた。
「ここじゃ! このページじゃ!」
承治が軽く中身に目を通すと、『魔力行使に関わる精霊との契約権剥奪の術』といった旨の内容が書かれていた。
これが魔力の行使を封印する古代魔法なのだろう。
精霊との契約権云々で本当にファフニエルの魔法を封じられるかは分からなかったが、ここまでくれば試してみる他ない。
承治はオババ様に魔法の発動条件を再度確認する。
「僕は詠唱文を読むだけでいいんですよね!」
「うむ、ウラシム宝石の量は十分じゃ。これだけ魔法対価があれば発動できるじゃろう。後は詠唱文を一字一句間違えないように詠むだけじゃ!」
「じゃあ、僕は詠み始めます。皆は援護頼みます!」
承治の背後に控える四人は力強く頷く。
そして、承治はページの左端から慎重に詠唱文を詠み始めた。
『虚無の精霊ミトレアスよ。我は貴君を呼び起こす者。我は貴君の力を欲す者』
承治の放つその言葉は聞いたこともない古代言語だったが、不思議と周囲にいる人間にも内容が理解できているようだった。これも一級言語能力の恩恵だろう。
すると、上空から降下を続けるファフニエルも、承治が魔法詠唱を行っていることに気付き始める。
「あら、魔術書で上級魔法でも発動させようってわけ? そう簡単にはさせないわよ!」
ファフニエルは詠唱を続ける承治に迫る。
だが、その前に四人の人影が立ちはだかった。
承治を庇うように現れたヴィオラ、ユンフォニア、セレスタ、オババ様の四人は、全員が魔法を使える。そして、魔力の供給源となるウラシム宝石はユンフォニアが王宮の宝物庫から大量に持ち出していた。
四人は事前の作戦通り、ヴィオラとユンフォニア、セレスタとオババ様の二ペアに別れ、それぞれ声を重ねて魔法を行使する。
『『グロースフランメ!』』
『『ヴィントシュトース!』』
すると、炎魔法によって生み出された火炎は風魔法の突風に巻き込まれ、巨大な火炎放射となってファフニエルに襲いかかる。
「あちちっ! 服が燃えちゃうじゃない!」
ファフニエルは防御魔法を展開しつつバルコニーから距離を取る。
その間にも、承治の詠唱は続いた。
『虚無の精霊ミトレアスよ。貴君は名立たる精霊の中でも、とりわけ聡明かつ眉目秀麗(びもくしゅうれい)である。有象無象の我は貴君に嫉妬する。貴君は精霊界でも、さぞモテモテであろう』
ん? 詠唱文これで合ってるよね?
文末でどこか間の抜けた言葉を口走る承治に対して、必死に魔法を行使するヴィオラやユンフォニアはいぶかしむような視線を脇目で投げかけてくる。
承治は構わず詠唱を続ける。
『我もモテモテになりたい。願わくば、我はモテモテになれる魔術を欲す。だが、才色兼備な精霊ミトレアスは素でモテモテなので、モテモテになれる魔術は知るまい。これは世の理(ことわり)を表す現実に他ならない。我はその現実に深く悲しむ』
いや、おかしいだろこの文章。絶対適当に書いてるだろ。こんな詠唱で本当に魔法発動できんのかよ。
承治が困惑しつつ詠唱を続けていると、たまらずヴィオラが叫ぶ。
「ジョージさん真面目にやってますよね!?」
大真面目なんですホントに。一字一句間違えないよう必死に詠んでるんです。
そして承治の詠唱は続く。
『致し方ないので我は貴君の持つ真の力を頼ることにする。虚無の魔術は我が心を写すが如し。モテモテになることを諦めた我が心は今や虚無なり。しかし、我が心に怒りあり。モテる者全てに憤怒あり』
すると、四人がかりの火炎放射を防いでいたファフニエルは、一旦高度を取って体勢を立て直していた。
「そっちがその気なら、こっちも全力で行かせてもらうわよ!」
上空で両手をかざしたファフニエルは、素早く呪文を唱える。
『グロースファイヤーヴォイル!』
すると、巨大な火球がファフニエルの正面に出現し、火炎放射を蹴散らしながらバルコニーに向かって降下を始めた。
オババ様は攻撃魔法を中断してセレスタに指示を飛ばす。
「防御は三人でやる! セレスタは空から牽制を頼むよ!」
「ガッテン!」
セレスタはすぐさま〝空飛ぶモップ〟に跨り、バルコニーを飛び立つ。
そして、残るヴィオラ、ユンフォニア、オババ様は声を揃えて防御魔法を展開した。
『『『グロースシルト!』』』
王宮を覆う巨大な防御シールドに命中した火球は、大爆炎を上げて砕け散る。
その様子を見たファフニエルは楽しげに高笑いを見せた。
「いいねぇ、こういうの! 力比べってやつ!? どこまで耐えられるかしら!」
ファフニエルは続けざまに攻撃を放とうとする。
だが、その攻撃は上空に飛び立ったセレスタによって阻害された。
セレスタは小さなウラシム宝石をファフニエル周辺にばら撒き、呪文と共に弾幕の如く爆炎魔法を展開する。
『エクスプロジオン!』
「きゃっ!」
爆炎に晒されたファフニエルは体勢を崩す。
その間も承治の詠唱は続いた。
『我の怒りを一抹でも理解するなら我に虚無の力を与えよ。我の想いは全てのモテざる者の怒りである。我はモテモテになりたい。モテモテの精霊ミトレアスよ。貴君が真にモテる者ならば、そのモテパワーを我に与えよ』
周囲に集まる兵士達も壮大な空中戦に目を奪われつつ、意味不明な発言を繰り返す承治に蔑むような視線を脇目で投げかけている。
いや、わかってます。皆があんなに頑張ってるのに、僕ばっかり訳分かんないこと呟いてたら誰だって軽蔑しますよね。でも、僕は本気なんです信じてください。
だが、そんな意味不明な詠唱もいよいよ佳境にさしかかった。
承治は残りの行数が少なくなったことを確認し、詠唱を続けながら左手を高く上げる。
それが、魔法発動が近くなった合図だ。
承治の合図を確認したセレスタは、ファフニエルの背後に回って再び爆炎魔法を展開する。
『エクスプロジオン!』
「ちっ、鬱陶しい!」
すると、ファフニエルはセレスタの思惑通り、爆炎を避けようとバルコニーの真上まで移動した。
その瞬間を見逃さなかったヴィオラ、ユンフォニア、オババ様は一斉に呪文を唱えて次の一手を打つ。
『『『アンツィーウングスクラフト!』』』
「わわっ! 今度は何!?」
その瞬間、ファフニエルの全身に重力魔法の凄まじい重みがかかり、一気にバルコニーまで落下を始めた。
虚を突かれたファフニエルは、なすすべなく承治達の目の前へと墜落する。
ファフニエルの墜落による激しい衝撃と土埃が舞う中で、すかさずオババ様が叫ぶ。
「今じゃジョージ!」
そして、承治は最後の一文を詠み切った。
『モテざる者の怒りを受けよ! 虚無魔術、マギーズィーゲル!』
そして、数秒の時が流れる。
バルコニーの中心で重力魔法に圧されて悶えるファフニエルに変化はない。
承治は堪らず悲痛な声を上げた。
「えっ、ウソでしょ! 頑張って詠んだのに発動しないじゃん!」
すると、オババ様は承治の持つ本の中身を確認する。
「但し書きがある! 発動条件がまだあるんじゃ!」
承治はすぐさまページの文末に書かれた一文を読む。
そこには、こう書かれていた。
その背後にはヴィオラ、ユンフォニア、セレスタ、オババ様が続く。そして、ユンフォニアはウラシムの宝石を大量に抱えていた。
一団の先頭に立つ承治は、素早く魔術書を開いてページをめくる。
目的のページが開かれたところで、オババ様は承治に声をかけた。
「ここじゃ! このページじゃ!」
承治が軽く中身に目を通すと、『魔力行使に関わる精霊との契約権剥奪の術』といった旨の内容が書かれていた。
これが魔力の行使を封印する古代魔法なのだろう。
精霊との契約権云々で本当にファフニエルの魔法を封じられるかは分からなかったが、ここまでくれば試してみる他ない。
承治はオババ様に魔法の発動条件を再度確認する。
「僕は詠唱文を読むだけでいいんですよね!」
「うむ、ウラシム宝石の量は十分じゃ。これだけ魔法対価があれば発動できるじゃろう。後は詠唱文を一字一句間違えないように詠むだけじゃ!」
「じゃあ、僕は詠み始めます。皆は援護頼みます!」
承治の背後に控える四人は力強く頷く。
そして、承治はページの左端から慎重に詠唱文を詠み始めた。
『虚無の精霊ミトレアスよ。我は貴君を呼び起こす者。我は貴君の力を欲す者』
承治の放つその言葉は聞いたこともない古代言語だったが、不思議と周囲にいる人間にも内容が理解できているようだった。これも一級言語能力の恩恵だろう。
すると、上空から降下を続けるファフニエルも、承治が魔法詠唱を行っていることに気付き始める。
「あら、魔術書で上級魔法でも発動させようってわけ? そう簡単にはさせないわよ!」
ファフニエルは詠唱を続ける承治に迫る。
だが、その前に四人の人影が立ちはだかった。
承治を庇うように現れたヴィオラ、ユンフォニア、セレスタ、オババ様の四人は、全員が魔法を使える。そして、魔力の供給源となるウラシム宝石はユンフォニアが王宮の宝物庫から大量に持ち出していた。
四人は事前の作戦通り、ヴィオラとユンフォニア、セレスタとオババ様の二ペアに別れ、それぞれ声を重ねて魔法を行使する。
『『グロースフランメ!』』
『『ヴィントシュトース!』』
すると、炎魔法によって生み出された火炎は風魔法の突風に巻き込まれ、巨大な火炎放射となってファフニエルに襲いかかる。
「あちちっ! 服が燃えちゃうじゃない!」
ファフニエルは防御魔法を展開しつつバルコニーから距離を取る。
その間にも、承治の詠唱は続いた。
『虚無の精霊ミトレアスよ。貴君は名立たる精霊の中でも、とりわけ聡明かつ眉目秀麗(びもくしゅうれい)である。有象無象の我は貴君に嫉妬する。貴君は精霊界でも、さぞモテモテであろう』
ん? 詠唱文これで合ってるよね?
文末でどこか間の抜けた言葉を口走る承治に対して、必死に魔法を行使するヴィオラやユンフォニアはいぶかしむような視線を脇目で投げかけてくる。
承治は構わず詠唱を続ける。
『我もモテモテになりたい。願わくば、我はモテモテになれる魔術を欲す。だが、才色兼備な精霊ミトレアスは素でモテモテなので、モテモテになれる魔術は知るまい。これは世の理(ことわり)を表す現実に他ならない。我はその現実に深く悲しむ』
いや、おかしいだろこの文章。絶対適当に書いてるだろ。こんな詠唱で本当に魔法発動できんのかよ。
承治が困惑しつつ詠唱を続けていると、たまらずヴィオラが叫ぶ。
「ジョージさん真面目にやってますよね!?」
大真面目なんですホントに。一字一句間違えないよう必死に詠んでるんです。
そして承治の詠唱は続く。
『致し方ないので我は貴君の持つ真の力を頼ることにする。虚無の魔術は我が心を写すが如し。モテモテになることを諦めた我が心は今や虚無なり。しかし、我が心に怒りあり。モテる者全てに憤怒あり』
すると、四人がかりの火炎放射を防いでいたファフニエルは、一旦高度を取って体勢を立て直していた。
「そっちがその気なら、こっちも全力で行かせてもらうわよ!」
上空で両手をかざしたファフニエルは、素早く呪文を唱える。
『グロースファイヤーヴォイル!』
すると、巨大な火球がファフニエルの正面に出現し、火炎放射を蹴散らしながらバルコニーに向かって降下を始めた。
オババ様は攻撃魔法を中断してセレスタに指示を飛ばす。
「防御は三人でやる! セレスタは空から牽制を頼むよ!」
「ガッテン!」
セレスタはすぐさま〝空飛ぶモップ〟に跨り、バルコニーを飛び立つ。
そして、残るヴィオラ、ユンフォニア、オババ様は声を揃えて防御魔法を展開した。
『『『グロースシルト!』』』
王宮を覆う巨大な防御シールドに命中した火球は、大爆炎を上げて砕け散る。
その様子を見たファフニエルは楽しげに高笑いを見せた。
「いいねぇ、こういうの! 力比べってやつ!? どこまで耐えられるかしら!」
ファフニエルは続けざまに攻撃を放とうとする。
だが、その攻撃は上空に飛び立ったセレスタによって阻害された。
セレスタは小さなウラシム宝石をファフニエル周辺にばら撒き、呪文と共に弾幕の如く爆炎魔法を展開する。
『エクスプロジオン!』
「きゃっ!」
爆炎に晒されたファフニエルは体勢を崩す。
その間も承治の詠唱は続いた。
『我の怒りを一抹でも理解するなら我に虚無の力を与えよ。我の想いは全てのモテざる者の怒りである。我はモテモテになりたい。モテモテの精霊ミトレアスよ。貴君が真にモテる者ならば、そのモテパワーを我に与えよ』
周囲に集まる兵士達も壮大な空中戦に目を奪われつつ、意味不明な発言を繰り返す承治に蔑むような視線を脇目で投げかけている。
いや、わかってます。皆があんなに頑張ってるのに、僕ばっかり訳分かんないこと呟いてたら誰だって軽蔑しますよね。でも、僕は本気なんです信じてください。
だが、そんな意味不明な詠唱もいよいよ佳境にさしかかった。
承治は残りの行数が少なくなったことを確認し、詠唱を続けながら左手を高く上げる。
それが、魔法発動が近くなった合図だ。
承治の合図を確認したセレスタは、ファフニエルの背後に回って再び爆炎魔法を展開する。
『エクスプロジオン!』
「ちっ、鬱陶しい!」
すると、ファフニエルはセレスタの思惑通り、爆炎を避けようとバルコニーの真上まで移動した。
その瞬間を見逃さなかったヴィオラ、ユンフォニア、オババ様は一斉に呪文を唱えて次の一手を打つ。
『『『アンツィーウングスクラフト!』』』
「わわっ! 今度は何!?」
その瞬間、ファフニエルの全身に重力魔法の凄まじい重みがかかり、一気にバルコニーまで落下を始めた。
虚を突かれたファフニエルは、なすすべなく承治達の目の前へと墜落する。
ファフニエルの墜落による激しい衝撃と土埃が舞う中で、すかさずオババ様が叫ぶ。
「今じゃジョージ!」
そして、承治は最後の一文を詠み切った。
『モテざる者の怒りを受けよ! 虚無魔術、マギーズィーゲル!』
そして、数秒の時が流れる。
バルコニーの中心で重力魔法に圧されて悶えるファフニエルに変化はない。
承治は堪らず悲痛な声を上げた。
「えっ、ウソでしょ! 頑張って詠んだのに発動しないじゃん!」
すると、オババ様は承治の持つ本の中身を確認する。
「但し書きがある! 発動条件がまだあるんじゃ!」
承治はすぐさまページの文末に書かれた一文を読む。
そこには、こう書かれていた。
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