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第1部4章 魔王降臨編
40 発動条件
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承治はすぐさまページの文末に書かれた一文を読む。
そこには、こう書かれていた。
――※異性にキスをしてもらいながら『ラッキーラッキー大ラッキー』と叫んでください。
「バカだろこの著者!」
古典魔術書の著者に対していよいよ我慢ならなかった承治は堪らず叫ぶ。
もはや、今まで書かれていた内容が全て著者の悪ふざけなんじゃないかという気すらしてくる。
だが、今はこの魔術書以外に頼る物がないのも事実だ。
覚悟を決めた承治は、その場に居合わせるヴィオラ、ユンフォニア、オババ様に向かって必死の形相で口を開く。
「誰か、僕にキスしてください! 多分、どこでもいいから、はやく!」
当然ながら三人は面食らったように目を点にする。
そして、最初に口を開いたのはヴィオラだった。
「ホントにもう! ジョージさん、真面目にやってるんですか!?」
その表情には、明らかに怒りの色が見える。
承治はたまらず弁明する。
「こんな時に冗談言うわけないでしょ! これが発動条件なんですって!」
続いてオババ様とユンフォニアが承治に迫る。
「このオババでもよいのか!?」
「余でも構わないのか!?」
正直に言えばオババ様よりユンフォニアの方が望ましいが、今はなりふり構っている場合ではない。
「もう誰でもいいからはやく!」
そうこうしていると、重力魔法に抗うファフニエルが徐々に体を持ち上げ始める。
「っ! あ、アンタたちっ! 私を、コケにっ、しているの!? 皆殺しに、するわよ!」
その様子を見て、最初に体を動かしたのはヴィオラだった。
「わかりました。私がやります! どこでもいいんですよね!」
そう告げたヴィオラは、両手で乱暴に承治の顔を掴み、己の顔を寄せていく。
不安と恥じらいが入り混じるヴィオラの表情は眉間に皺が寄り、顔と耳が赤く染まり始める。そして、疲れのせいか息も荒くなっていた。
だが、そんな状況であっても、承治はヴィオラの顔を心底美しいと感じた。
って、キスするのはどこでもいいって言ったけど、まさかの正面ですか。
ヴィオラにガッチリと顔をホールドされた承治は堪らず目を瞑る。
もはや浪漫も糞もない。完全にやけくそ状態だった。
そして、一息置いた次の瞬間、ヴィオラの小さな息使いを肌に感じながら、承治の頬にこそばゆい感触が伝わった。
「ラッキー! ラッキー!! 大ラッキイイイイイイーーー!!!」
承治の渾身の叫び声がカスタリア王宮全体に響き渡る。
周囲の兵士達が承治に奇異の目を向ける中で、一時の沈黙が場を支配する。
すると、承治の携える古典魔術書から黒い霧のようなものが溢れだし、ファフニエルの体を包み込んだ。
「きゃっ! 何よ、コレ! あっ……ぐっ……あ、ああっ、あああああああ!!!」
黒い霧に包まれたファフニエルは顔を歪めて悶え始める。
これが古典魔術の効果なのだろうか。
承治はその様子を傍らから見守る。
「これで、本当にファフニエルの魔法は封印できるんですかね」
その問いにオババ様が応える。
「ふむ、このオババも古典魔術の発動を見るのは初めてじゃ。あの一風変わった詠唱文も気になるが、本当に効果があるかは分からん」
一風どころか二風も三風も変わってましたよあの詠唱文。
などと承治が心の中でツッコミを入れていると、ファフニエルを包む黒い霧が徐々に晴れていく。
そして、黒い霧から解放されたファフニエルは頭を抱えて起き上がり始めた。
「……お前ら、私に何をしたか知らないけど、覚悟はできてるの? 私がその気になれば、この場にいる全員を重力魔法で跪かせることだって……」
そう告げた次の瞬間、ファフニエルは突如驚いたように目を見開く。
「えっ! 何で!? 魔法の呪文が分からない……さっきまで自然に使えたのに!」
その言葉に、古典魔術の成功を確信したユンフォニアは声を張り上げて叫んだ。
「今だ! ファフニエルの魔法は封印した! 皆の者、こやつをひっ捕えろ!」
すると、不可解な出来事に当惑していた周囲の兵士達は、我に返ったかのように怒号を上げて一斉にファフニエルへ飛びかかる。
「嫌っ、何すんのよ! 羽を触んな! きゃあ! セクハラッ!」
そんな悲鳴も虚しく、魔法を封じられたファフニエルは数の暴力で襲いかかる兵士達を前になすすべがなかった。
体を抑え込まれたファフニエルは、どこからともなく持ち寄られた縄によって縛り上げられ、王宮の中へと引きずり込まれていく。
そして、ファフニエルが姿を消したところでカスタリア王宮の屋外は一時の静寂に包まれた。
戦いは終わった。
バルコニーに集まる一同は未だ興奮冷めやらぬ心地がしたが、ようやく肩の荷が下りてきた。
そしてバルコニーの前面に進み出た第一王女ユンフォニアは、堂々と勝利宣言を行う。
「皆の者! 魔王ファフニエルは打倒された! 我々の勝利だ!」
その言葉に呼応し、カスタリア王宮は盛大な完成に包まれる。さながら戦争に勝利したかのような雰囲気だ。
そんな中、承治はバルコニーの中心で一人へたり込む。
この戦いで最も重要な役割を演じたのは間違いなく承治だ。
しかし、バルコニーで展開された承治の活躍を知る者は少ない。それを表すかのように、兵士達の歓声は勝利宣言を行ったユンフォニアに集められている。
だが、承治は別に自分が評価されたいとは思わなかった。
己の居場所であるこのカスタリアを守ることができたという事実だけで、承治は十分に満足していた。
その過程でいささか珍妙な立ち回りはしたが、それも今となってはどうでもいいことだ。
と、言いつつも、承治は勝利に沸くバルコニーの中で、ある人物へこっそりと視線を向ける。
それはヴィオラだ。
成り行きとは言え、承治はヴィオラにキスされてしまった。
それをいささか気にかける承治は、笑顔で勝利を喜ぶヴィオラの横顔を眺める。
すると、承治の視線に気付いたヴィオラと目が合ってしまった。
大歓声の中で目を合わせた二人は、先ほどの出来事を思い出して複雑な思いを共有する。
そして、その感情は互いに頬を染めながら苦笑いを浮かべるという形で表現された。
そこには、こう書かれていた。
――※異性にキスをしてもらいながら『ラッキーラッキー大ラッキー』と叫んでください。
「バカだろこの著者!」
古典魔術書の著者に対していよいよ我慢ならなかった承治は堪らず叫ぶ。
もはや、今まで書かれていた内容が全て著者の悪ふざけなんじゃないかという気すらしてくる。
だが、今はこの魔術書以外に頼る物がないのも事実だ。
覚悟を決めた承治は、その場に居合わせるヴィオラ、ユンフォニア、オババ様に向かって必死の形相で口を開く。
「誰か、僕にキスしてください! 多分、どこでもいいから、はやく!」
当然ながら三人は面食らったように目を点にする。
そして、最初に口を開いたのはヴィオラだった。
「ホントにもう! ジョージさん、真面目にやってるんですか!?」
その表情には、明らかに怒りの色が見える。
承治はたまらず弁明する。
「こんな時に冗談言うわけないでしょ! これが発動条件なんですって!」
続いてオババ様とユンフォニアが承治に迫る。
「このオババでもよいのか!?」
「余でも構わないのか!?」
正直に言えばオババ様よりユンフォニアの方が望ましいが、今はなりふり構っている場合ではない。
「もう誰でもいいからはやく!」
そうこうしていると、重力魔法に抗うファフニエルが徐々に体を持ち上げ始める。
「っ! あ、アンタたちっ! 私を、コケにっ、しているの!? 皆殺しに、するわよ!」
その様子を見て、最初に体を動かしたのはヴィオラだった。
「わかりました。私がやります! どこでもいいんですよね!」
そう告げたヴィオラは、両手で乱暴に承治の顔を掴み、己の顔を寄せていく。
不安と恥じらいが入り混じるヴィオラの表情は眉間に皺が寄り、顔と耳が赤く染まり始める。そして、疲れのせいか息も荒くなっていた。
だが、そんな状況であっても、承治はヴィオラの顔を心底美しいと感じた。
って、キスするのはどこでもいいって言ったけど、まさかの正面ですか。
ヴィオラにガッチリと顔をホールドされた承治は堪らず目を瞑る。
もはや浪漫も糞もない。完全にやけくそ状態だった。
そして、一息置いた次の瞬間、ヴィオラの小さな息使いを肌に感じながら、承治の頬にこそばゆい感触が伝わった。
「ラッキー! ラッキー!! 大ラッキイイイイイイーーー!!!」
承治の渾身の叫び声がカスタリア王宮全体に響き渡る。
周囲の兵士達が承治に奇異の目を向ける中で、一時の沈黙が場を支配する。
すると、承治の携える古典魔術書から黒い霧のようなものが溢れだし、ファフニエルの体を包み込んだ。
「きゃっ! 何よ、コレ! あっ……ぐっ……あ、ああっ、あああああああ!!!」
黒い霧に包まれたファフニエルは顔を歪めて悶え始める。
これが古典魔術の効果なのだろうか。
承治はその様子を傍らから見守る。
「これで、本当にファフニエルの魔法は封印できるんですかね」
その問いにオババ様が応える。
「ふむ、このオババも古典魔術の発動を見るのは初めてじゃ。あの一風変わった詠唱文も気になるが、本当に効果があるかは分からん」
一風どころか二風も三風も変わってましたよあの詠唱文。
などと承治が心の中でツッコミを入れていると、ファフニエルを包む黒い霧が徐々に晴れていく。
そして、黒い霧から解放されたファフニエルは頭を抱えて起き上がり始めた。
「……お前ら、私に何をしたか知らないけど、覚悟はできてるの? 私がその気になれば、この場にいる全員を重力魔法で跪かせることだって……」
そう告げた次の瞬間、ファフニエルは突如驚いたように目を見開く。
「えっ! 何で!? 魔法の呪文が分からない……さっきまで自然に使えたのに!」
その言葉に、古典魔術の成功を確信したユンフォニアは声を張り上げて叫んだ。
「今だ! ファフニエルの魔法は封印した! 皆の者、こやつをひっ捕えろ!」
すると、不可解な出来事に当惑していた周囲の兵士達は、我に返ったかのように怒号を上げて一斉にファフニエルへ飛びかかる。
「嫌っ、何すんのよ! 羽を触んな! きゃあ! セクハラッ!」
そんな悲鳴も虚しく、魔法を封じられたファフニエルは数の暴力で襲いかかる兵士達を前になすすべがなかった。
体を抑え込まれたファフニエルは、どこからともなく持ち寄られた縄によって縛り上げられ、王宮の中へと引きずり込まれていく。
そして、ファフニエルが姿を消したところでカスタリア王宮の屋外は一時の静寂に包まれた。
戦いは終わった。
バルコニーに集まる一同は未だ興奮冷めやらぬ心地がしたが、ようやく肩の荷が下りてきた。
そしてバルコニーの前面に進み出た第一王女ユンフォニアは、堂々と勝利宣言を行う。
「皆の者! 魔王ファフニエルは打倒された! 我々の勝利だ!」
その言葉に呼応し、カスタリア王宮は盛大な完成に包まれる。さながら戦争に勝利したかのような雰囲気だ。
そんな中、承治はバルコニーの中心で一人へたり込む。
この戦いで最も重要な役割を演じたのは間違いなく承治だ。
しかし、バルコニーで展開された承治の活躍を知る者は少ない。それを表すかのように、兵士達の歓声は勝利宣言を行ったユンフォニアに集められている。
だが、承治は別に自分が評価されたいとは思わなかった。
己の居場所であるこのカスタリアを守ることができたという事実だけで、承治は十分に満足していた。
その過程でいささか珍妙な立ち回りはしたが、それも今となってはどうでもいいことだ。
と、言いつつも、承治は勝利に沸くバルコニーの中で、ある人物へこっそりと視線を向ける。
それはヴィオラだ。
成り行きとは言え、承治はヴィオラにキスされてしまった。
それをいささか気にかける承治は、笑顔で勝利を喜ぶヴィオラの横顔を眺める。
すると、承治の視線に気付いたヴィオラと目が合ってしまった。
大歓声の中で目を合わせた二人は、先ほどの出来事を思い出して複雑な思いを共有する。
そして、その感情は互いに頬を染めながら苦笑いを浮かべるという形で表現された。
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