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第一章『それは、新しい日常』

第十六話「確認」

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 帝国に来た本来の目的である換金を終えた俺たちは、そのまま帝国に残る理由もなく魔王城に帰ってきていた。例によって《瞬間移動》での移動である。



 突然現れた俺たちに門番の人が驚き、二人のうち一人が城の中に慌てて走っていく。いつの間に通常運転に戻ったんだ?

 しばらくすると、城の方から何人もの人がバタバタと慌ただしく走ってくる。彼らはものの数分で俺たちの前に整列した。

 その中にはあのボルガーの姿もある。今朝、帝国に出発する前に集ったメンバーだろう。

 代表であろうボルガーが一歩前に出てお辞儀をする。



「お帰りなさいませ、皆さま」



 口に出そうになった、お前誰だという言葉慌てて飲み込む。話を止めるわけにはいかない。



「た、ただいま。えっと...これは?」



 シオンが戸惑いながらも代表して前に出る。



 すると、今度はリリィーがシオンとボルガー間に入って、仲介人のような立ち位置をとった。



「国を作るために協力者は多い方が良いと思って。一度こっちに戻って説得しておいたのよ」



 リリィーはふふんっと鼻を鳴らすと、「どうよ、偉いでしょ」とでも言いたげだ。



 なるほど、用事があると言って何処に行っていたのかと思えば。

 わざわざ説得する為に戻って来ていたのか。

 きっと帰って来た時に、また面倒事が起きないよう計らってくれたのだろう。律儀な奴だ。



 シオンは驚き硬直していた。

 まさかリリィーがここまで積極的に協力してくれるとは、シオン自身思っていなかったようだ。



 姿勢をただし手を差し出しすシオン。

 その姿には敬意が見て取れた。



「ありがとう、リリィー」



「べ、別にあんたの為ってわけじゃないわよ!」



 まさか、こんな改まって礼を言われるとは思っていなかったのだろう。リリィーは少々照れをまじえながら、唇を尖らせそっぽを向く。

 差し出された手を軽くふれる程度で握り返し、シオンのほうをチラチラと確認していた。







 お~...

 あまりにもキレイなツンデレに、俺は開いた口が塞がらなかった。

 流石テンプレを地でいく魔王さん。

 しばらく呆然としていると横から袖を引っ張られる。



「ユウキ... ユウキ...」



「なんだ?」



「ユウキの為じゃ... ないんだからね...」



 イブが眉一つ動かさずにそんな事をのたまう。



「...いや、何の話だよ。やめとけイブ、お前にツンデレは無理だ」



 だって表情が全く変わらないんだもの。ツンもデレも一切感じられない。



 イブがムッと不機嫌な顔になる。



「そんなことない...」



 全く何に対抗心を燃やしているんだか。俺はもう一度、未だにお礼とツンデレを繰り返している二人を見ながら嘆息する。



「安心しろ、俺は別にツンデレが好きなわけじゃない」



「そう... ならいい...」



 俺とイブがそんなやりとりをしていると、ボルガーが今度はこちらにやって来た。

 後方ではボルガーの部下たちがシオンの周りに集まり話をしている。

 なるほど、信用を得るためにも交流は必要か。



 近ずくボルガーに挨拶をしようと手をあげようとすると、彼は俺たちに向かってひざまづいた。



「神様、転生者様、私たちの世界の為に動いて下さること感謝します」



「...リリィーが喋ったのか」



「魔王様が悪い訳ではありません。部下たちは知らないので不都合があるのであれば、今ここで私の首をはねればいいだけです」



「いや発想がこえーよ」



 リリィーが話しても大丈夫だと判断したなら特に問題はない。

 というか、ボルガーは知らないだろが、既に人間界で名を広める為にぶっちゃけトークをかましている。俺たちは特段隠そうとしているわけではないのだ。

 そもそも、神だとか転生者だとかそんな話、本当に信じる者が何人かいるというのか。



「リリィーをせめてる訳じゃない、ただその突拍子もない話を、お前は信じたんだなってそう思っただけだ」



「魔王様がそんなくだらない嘘をつくとは思えないので」



 認識のずれか?俺の中のあいつはくだらない嘘、普通に言ってそうなんだけど... どこのパラレルワールドのリリィーを指してるんだ?

 まあ、冗談はさて置きすごい忠誠心だな。いい部下をもったもんだ。



「リリィーの事... 信じてるの...?」



「信じる...とはちょっと違うでしょうか。私は魔王様に助けて頂いた身です。本人にその自覚はないでしょうが、私はその恩を返そうとしているだけですよ」



 なるほど、恩義でねー。過去に何があったかは知らないが、下手に信じているなんて言葉を使われるよりも幾分も信用できる。

 ならば、国づくりにあたって存分に働いてもらおう。



「勇者との事はもういいのか? お前結構人間に恨みがあるんだろ?」



「ええ、ですが魔王様に説教を貰いまして。お前の憎むべき相手は本当に合っているのかと」



「憎むべき... 相手...?」



 イブが更なる説明を求め首を傾げる。



「私も外見は人間と大差ない。ならお前は私を殺すのか?と、そう言われてしまえば返す言葉はありませんでした」



「そうか」



 あの魔王がそんな事を... 普段とのギャップから、ちょっと想像出来ないな。俺たちの前ではポンコツキャラって感じだったのに。

 あ、そう、ギャップと言えば気になっていた事がある。真面目な話ばかりだったので聞くタイミングを逃していた。



「なあ、お前そんな喋り方だったか?」



 何の指摘をされたのか分かったのだろう。ボルガーはあー、と少し恥ずかしそうに答える。



「私は戦となると熱くなってしまう性格のようで。元の性格はこっちなんですよ」



 あー、はい、そういうタイプね。いる、そういう人。俺も親に好きな本の話する時はそんな感じだった。



「なるほどなー」



 ふと空を見上げると太陽が山に沈みかけていた。道理で薄暗い訳だ。今日はもう出来る事はないし、本格的な作業は明日からだろう。



「そろそろ中に入ろうぜ。だんだん冷えてきた。他の奴らにも声かけといてやってくれ」



「分かりました。伝えておきます」



 良い返事をしながら、ボルガーは踵を返し戻っていく。それを見送りながら俺とイブも城の中へと向けて歩きだした。



 待たないのかって? 思ったより風が冷たい!











 その日の夜、夕飯を食べ終わった俺は自分のステータス画面とにらめっこしていた。肩越しにイブが覗き込んでくるが、まあいいだろう。イブと敵対することなんてないだろうしな。



 スキルや称号の効果を知る為、今まで確認していなかったもの順番にチェックしていく。



 まずはスキルからだ。





《集中》

 集中力が上がる。



《観察眼》

 些細な変化すら見逃さない眼。



《鑑定》

 生物以外の全ての情報を見ることが出来る。



《縮地》

 速度が爆発的に上がる。



《怪力》

 力が爆発的に上がる。



《立体起動》

 三次元の戦闘の向上。アクロバティックな動きを可能とする。



《痛覚耐性》

 痛覚に対しての耐性を得る。



《再生》

 身体を元の状態に戻す力が働く。



《瞬間移動》

 自分の視界内への瞬間的な移動を可能にする。自分が過去にいた地点への瞬間的な移動を可能にする。



《亜空間》

 生物以外の物を無制限に収納する事が出来る。



《強運》

 運が大幅に上がる



《凶運》

 運が大幅に下がる



《万有引力》

 重力を操ることを可能にする。吹き飛ばす、引き寄せることを可能にする。制限は一律500kg。







 こうして見ると壮観だな。結構な数だ。

 基礎的なスキルもあれば、《再生》や《瞬間移動》、《万有引力》といったチートのようなスキルもある。どれも強力なものばかりだ。

 この様なスキルは戦闘経験の少ない俺をきっと支えてくれるだろう。スキルを獲得しやすいが為の、この特殊な多様性が俺の強みになってくる筈だ。



「まだまだ... 少ないね...」



 マジか、これで少ないのか。神と比べられてもって気はするけど。



「そう言うイブはいったいいくつあるんだ?」



「さあ...?」



 自分で把握出来てない量ってなんだ。神ってくらいだしこの世界の全スキルを持っていりするのだろうか。





 次は称号だ。







《巨人の殲滅者》

 対象が自分より大きければ大きいほど攻撃力が上がる。





 あれから増えた称号はこれだけだ。もしかしたら称号はスキルと違って手に入りずらいのかもしれない。

 称号っていうくらいだ。特別な条件が必要なのだろう。

 この称号を獲得したときもサイクロプスを数体倒したでけじゃ獲得できなかった。

 称号集めはこれからの鬼門になってくるだろう。



 ドラゴンにとどめでも刺していればドラゴンすレイヤーなんて称号でも入ったんだろうか。今じゃもう確かめるすべはないけど。



 俺はステータス画面を閉じベットに寝転ぶ。



 今日も一日いろいろあって疲れたな。こっちに来てから印象の強い出来事ばかりで、休みなく動いてる気がする。どうせ明日も国づくりと称して働かなければならないはずだ。

 俺に内政チートは出来るだろうか。本で読んだことが全てが全て正しいとは限らない。情報の取捨選択が必要だ。

 まあ考えるのは明日だな。あー、休日がほしい。



「ユウキ... お風呂は...?」



「あー、先入っていいぞ。俺はあとから入る」



「ん... わかった...」



 イブは返事をすると自分の着替え道具を持って部屋を出ていく。

 てかここ俺の部屋だよな。いや、もう何も言うまい。











 ......



「さて...」



 気合を入れて立ち上がる。

 扉を開けイブがもういないことを確認し、一人静かな廊下を歩く。

 イブを先に風呂に行かせたのにはちゃんとした理由がある。俺はとある人物に用があるのだ。今はそいつの部屋に向かっている途中。



 お、噂をすれば丁度向かいの廊下から歩いてくるな。部屋にまで呼びに行く手間が省けた。







「よう、ちょっと外出ようぜ」
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