2人のあなたに愛されて ~歪んだ溺愛と密かな溺愛~

けいこ

文字の大きさ
132 / 135
after story 佐藤君の災難と青い空

1

しおりを挟む
何をする訳でもなく、ただブラブラ歩く。
青いはずの空の色が、俺には暗いグレーに見えていた。


警察沙汰にまでなって、散々な人生。
いつの間にか、こんなに落ちぶれて……


俺を解雇したあのバカ会社のせいだ。
上司の奥さんと不倫したぐらいで。
あのクソ部長の奥さんが、俺を誘惑したんじゃないか。


それを、俺だけのせいにして。


腹いせにギャンブルして、借金。返済に困ってた時、柚葉の話をたまたま聞いてしまった。
あいつだけが玉の輿に乗って幸せになるなんて、なんか胸くそ悪い。


でも、俺の目論見は失敗に終わった。
強いと思ってた自分を、遥かに超えてきたあのイケメン野郎。


本当、こんな人生なんか、もう終わってもいい。


「お兄ちゃん、これ」


振り向くと小さなガキがいた。
幼稚園児か?


「何だよ」


「はい、これ、落としたよ」


俺の財布……


「あ、ああ」


「お兄ちゃん、カッコイイね!   強そうだし。僕もお兄ちゃんみたいになりたい!   そしたら、ゆみちゃんに告白するんだ」


「ゆ、ゆみちゃん?」


「うん!   友達。僕……カッコよくないから、告白してもフラレるでしょ。だから、頑張ってカッコ良くなるんだ」


満面の笑みで俺を見る。


「頑張ったらカッコよくなれるのか?」


「なれるよ!   ママが言ってたもん。お兄ちゃんも頑張ったからカッコいいんでしょ?   勉強とかスポーツとかたくさん」


頑張ってきたから……?


「俺……もっとカッコよくなれるか?」


「うん!   お兄ちゃん、もうカッコイイけどね。でも、いっぱいいっぱい頑張ったら、もっともっとカッコ良くなれるよ!」


「そっか……だったら、どっちが早くカッコ良くなれるか……競走するか?」


「わーい!   する、する!   負けないぞ。だって、ゆみちゃん、しょうたくんが好きだって言ってるから、早くカッコ良くなって告白しないとダメなんだ」


キラキラ目を輝かせてやがる。
こんな綺麗な目……
もうずっと長いこと見たことなかった。


死んだみたいな俺からしたら、この子の顔、めちゃくちゃカッコ良く見える。


「ゆみちゃんに告白して、両思いになれたらいいな。頑張れ」


「ありがとう!   お兄ちゃんも頑張ってね!   約束だよ」


「あ、ああ。また、必ず会おうな。俺、頑張るから……」


嘘だろ?
俺、頑張るとか言ってる……


それに、これ……涙……かよ。


俺、泣いてるのか?
全く、何年ぶりだよ……


スキップで行ってしまった男の子の言葉で、俺は……自分の人生を一瞬にして変えられたのか?


ほんと、俺はバカだな。


まだ、よくわからないけど……
でも、ほんの少しだけ、何かに頑張ってみようかなって……
そんな小さな炎が、心に現れた気がした。


誰かからの着信。


「はい……」


昔の先輩から、仕事の誘いだった。
一緒にやらないかって……


こんなタイミング……
ありか……よ……


また、何ともいえない熱い思いが溢れた。


「あのガキ……。俺、負けないぞ。あいつに会った時、胸を張ってられるような人生……送らなきゃな……」


自然に湧いてくるこの気持ち――
これが、感謝の気持ち……なのか?
そんなもの、遠い昔に置き忘れていた気がする。


「もう一度だけ頑張ってみるか。柚葉、ごめんな」


ふと見上げたグレーの空は、いつの間にか……
澄み切った爽やかな青に変わっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

処理中です...