歩く死者

夏枯 つきひ

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   恋する樹の事は、地方伝説として古びた教会に残っていた。
   調べるため王都まで出向いたのに、灯台下暗しとは、この事だ。
   80年ほど前に潜伏していた山賊が行方不明になり
   その部下が捕まった時、おかしな事を口走っていた。

   ボスは樹に魅入られてた。恋人に囁くみたいに近づいて止められなかった。
   ボスが気になって。気になって…

   それはボスが樹になってしまったという事なのでは?
   呪文がなくても世代交代は起こったらしい。

   それが分かれば充分だ。
                トリアの回顧録



               ◆ ◆ ◆


「さて、最後の手紙が2通入ってます。ええと、ここにいる全員に聞いて欲しい。と、あります。それと、ああ…遺産譲渡の関係書類ですね」

 周りの人間に厳かに告げ 
 ヴィンラックは分厚い手紙と書類を出した。
  軽く口元を拭って手紙を読み始めた。
  

   私は家族を諦めていました。
   両親も、伴侶も、子供も、短い時間しか一緒に居られなかった。
   この年になって、また家族と呼べる二人に感謝しています。
   サリアン、ディマ・ス、ありがとう
   これからもよろしくね。 

 たまらなくなってハンカチを目に押し当てて、サリアンは声を押し殺した。
 トリアは頼れる上司であり優しい姉貴だった。父親よりずっと身近な身内だ。
 「ごめんなさい。笑って送り出したかったのに」
 彼女は泣きながら微笑んだ。

 「続けて…まだ手紙は途中でしょ?」
 楽師は小さく頷いた。手紙を持ち直し、文字を追う。


   少し、聞いて欲しい事をかきます。
   私がハンターの生活から、定住する切っ掛けになった出来事から
   始めようと思います。
  
  
   睡眠の木は長い間、恐れられてきたました。
   アレの葉を取る事が可能になったのは、
   私がある古文書を手に入れたからです
  
   古代の遺跡を探して、探索を重ねた私たちは
   砂漠にあるという蜃気楼の話を聞きつけました。
   蜃気楼というのは、存外偽りではなくて、
   地面の熱のせいで、遠くの景色が映る時があるのです
  
   森が砂漠にある。奇妙な石の建物がある、という事で
   私たちは長い砂漠を移動する覚悟を決めました。
  
   3日程移動したころ、人の影もない、辺り一面砂しかない所で、
   私たちは流砂にはまってしまったのです。
   急に馬が嘶き、がっくりと膝をついたと思ったのは
   前足が砂に飲み込まれせいでした。

   早く馬から流砂だ、遠くに飛び降りろ。マドゥロは私に大声で言いました
  
   でも、間に合わなかった。
   流砂の中には大きな砂トカゲが隠れていて、
   私たちは砂トカゲに丸のみされてしまいました。
   今でもうなされます。
   すり鉢状の底に洞穴が開いていて
   そこから鞭のような舌が素早く出たり入ったりして

   マドゥロの胴体に巻き付いた舌は、あっという間に彼を引きずり込みました。
   最後に私の名前を呼び逃げろと言いました。
  
   私は足を取られて、気が付くと辺りは真っ暗で身動き一つとれませんでした。
   息もほとんどできなかった。
   流れ込む砂と締め付けて来る圧迫感で何も考えられません。
  
   その時に辺りが急に赤く光り始め、砂トカゲが暴れだしたのです
  
   動けない私にはどうしようもなく木の葉のように左右に激しく揺さぶられました。
  
   私がもうダメだと考えた時でした。
   何か固い物が手に当たったのです

   夢中で棒らしき物をつかみなんとか体制を立て直そうと力を込めました
   私のその行為は、トカゲの胃袋を内面から突く事になります
   固い表皮のトカゲも胃袋は柔らかかったのでしょう。
   激痛にトカゲは身を激しくよじったようです。
  
   そして、唐突に私たちは砂と一緒に空中に吐き出されました
   青い空と新鮮な空気を意識したとき、
   自分が何をやったか分からないけれど、外に出られた。私は助かった。と思いました。

   安堵で暫く動く事も考えることもできませんでした。
   荒い呼吸は私のモノだけでした。

   乾燥で肺を刺す焼けた空気と真っ青な空を見ながら、
   ただ息をするのが精一杯でした。

   時間も長かったようで短かったような気がします
   段々と冷静になって、あたりを見回すと、
   見上げるような大きさの砂トカゲが口を開けたまま死んでいました。

   胴体の大部分はまだ砂の中に隠れていましたが。
   周りには首の折れてしまった馬と私達の荷物が散らばっていて、
   気が遠くなるのを堪えて、マドゥロを探しました。

   生きていれば。と思いましたが、マドゥロの体には大きな傷があって、
   体はあり得ない角度で折れ曲がっていました。
  
   こうして、私は連れ合いを亡くしました。
   砂トカゲの腹の中の剣で私は命拾いをしたのです。
   引き摺り込まれるときに無理な力を受けたせいで、私は走れなくなりました。

   マドゥロを形だけでも埋葬し、使えるものをまとめて、
   剣を杖代わりに、砂漠をさまよいました。

   彷徨い歩く途中ではぐれた馬が帰ってきた時、生きる希望が出てきました。
  
   そうしてこのオアシスを見つけました。
   噂通り、沼地のほとりには、遺跡があり、
   遺跡の中には厄介な睡眠の木の扱い方が記してありました。
  
   この世に一本だけ生える、魔物の木だという事
   元は、強力な麻痺の効果がある毒草と美味しい実をつける花は、
   とある選ばれた人間を合成させて作り出されたキメラがこの木の正体なのです。

   ある程度の意識を持って、防衛本能があります。
   あの木はこの館を守るよう命令を受けています。
   本能まで刷り込まれているようです。
  
  
   私はここが博識の魔法使いの研鑽所だったと言うことを知りました。
   地下にはたくさんの書物がありましたが殆どが私の読めない文字でした。
   そして私はここを危険な森を通り抜ける為の休憩地にして
   商売を始めることを思いつきました。
  
  
  
  
   今、歌っている睡魔の木が望んでいるのは、後継者です。
  
  
  
   マドゥロを失った後、くじけそうな心の支えは可愛い息子だけになりました。
   もう、遺跡の探索や長期の旅で留守にするのは、やめにしなくては。
   けれど、子供と二人で生きて行くには無理する事もあるのです。

   知り合いのアードリアはとてもいい人で、
   息子もなついて、よく留守の子守りを頼みました。
   彼女もお小遣い稼ぎに丁度いいと喜んでいた。
  
   でも、私の留守中に息子は攫われて、遺体で見つかった。
   手には、茶色の巻き毛が絡みついて、
   息子の食いしばった口の中には肉片が入っていた。
   左耳の一部だとわかりました。多分、犯人の耳でしょう。
   遺体には沢山の傷がつけられて、殆どが左から入って右側に抜けていた。
  
   息子を亡くして、私の心がどんな風に死んでいったかは、
   ここで書くのは止めておきます。
  
   巻き毛の茶色
   左利き。
   左の耳が半分しかない。
   呪文になっていました。
  
  
   息子の苦悶と恐怖の顔
   沢山の傷ついた体を丹念に調べた事は、私の心に深い傷を残しました。
   私はこの睡眠の木の香料と薬草がなくては寝られません。
   だんだん、薬が効かなくなってきた時、私の命も尽きるでしょう。
   残された時間はあまり無いと思いました。
   正気でいられるうちに終わられせる覚悟をしました。
  
   息子を殺したと思われる犯人は意外にも直ぐに捕まりました。
   近所の人が私の留守中に若い男が出入りするのを見たと証言したのです。
   重い罰を受けると思いきや、一ヶ月ほどで、すぐに彼は釈放されました。
   彼は家族の元に帰って療養をしていました。
  
   アナタは、殺人犯人として、捕まった筈なのに、何故釈放されたの。 
   私の問いに彼は完全な耳を見せて言いました。

   俺じゃない

   俺が獄中でも同じような事件が起こったからさ。
   子供が行方不明の末に惨殺された。

   その子は、指は全部折られてた事を別にすれば、
   傷はそっくり同じだ。左手で短刀で何度も切りつける。

   当局は、ぴりびりして、俺のせいにしたかったらしいが、俺は右利きだ。
   そして俺は耳なしじゃない。
  
   彼は泣き出した。
  
   アードリアは俺を知らないと、言った。なぜだ?
   アードリアはなぜ一度も会いにきてくれなかったんだ?
  
  
   彼はアードリアの恋人でした。
  
   そう考えた時、恐ろしい考えが浮かびました。
  
   では貴方は私の家で恋人と会っていたと。
   私の質問に、彼は頷いて「あの家が誰の家かは気にしていなかった」と言いました。
   「アードリアと食事して、音楽を聴いて、…」
   「どんな食事を?」
   素早い私の問いに面食らいながらも、彼はいくつかの料理を言いました。
  
   それは全て息子の好物だった。
   留守の間に食べるように作っておいた物でした。

   アードリアは、子守りを引き受ける、とお金をもらいながら、私の息子を外に追い出して、
   息子の食事を横取りし私の家で、恋人と宜しくデートした。
   息子は、外で遊んでいた所を拐われた。
  
  
  
「ウソよ!デタラメよ、部屋で寝かせていたのに、居なくなったの!あの子は、家から拐われたのよ!」
  
 アードリアは興奮して机をたたいた。
  
  
「子守りしてなかったことを隠すために
 シラをきって恋人を裏切った。」
  
 ヴィンラックは、ポツリ呟いた。アードリアは、彼をを睨みつけた。
 彼らが疑いの視線を向けると、座り込み小声でくりかえした。
  
「違う。…そんな事、してない…」
  
 ヴィンラックは手紙に目を戻した。
  
   男は、近所の人に見られていて、捕まった。
   そして、厳しい拷問を受けたようです。
  
  
「シュタラクが…そんな…」
  
  
  
  
   男は、顔を覆って囁いきました。
   殆ど目が見えないんだ。
   …見えるようになるか、あんた、分かるか?
   俺の眼は見えるのか?…
  
   私は、黙って携帯用目薬を渡すことしかできませんでした。
   彼は誤認逮捕された。私の息子を殺した犯人は今でものうのうと暮らしている。
   いつでも片隅にある、この思いは消える事はありません。
  
   コード・ラ・シェは徐々に評判になっていきました。
   短期で契約した大工達が酔っ払って妖魔に襲われそうになったり、
   何の気なしに売っぱらった壺や首飾りが、
   実はかなりな高値で悔しい思いもしましたが、宿屋は繁盛しました。
  
   なによりここは、国境で唯一のオアシスで迂回すると二週間以上かかる所を
   2日で抜けられる事。交易の難所であり、要なのです。
   それと、自慢してもいいと思うのですが、美味しい珍しい料理が出ること。
  
   もちろん、建物が古いとか、設備の不備はありましたが、
   妖魔から襲われる心配がぐっと低くなるのが、何よりなのです。

  
  
  
   そして、もう一つに、睡魔の木から取れる秘薬は、
   都では、不眠症の貴族に人気がありました。
   香りは素晴らしい香水になり、それらを採集できるのは、私だけなのです。
   森の薬草にも珍しいものがあり、苦労して読み解いた古文書から得たものです。
  
   儲けたお金は、私の息子を殺した片耳の左利きを探すために使いました。
   沢山のならず者の噂をしらべて報告し、役人や実力者とのパイプも作りました。

   しかし、一向に左利きの片耳は見つかりませんでした。
  
  

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