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第四話
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彼女には双子の妹がいた。が、生まれてまもなく死んだと聞かされていた。しかし、そうではない。彼女の妹は地下深くへと封印されたのだ。真紅の瞳を持って生まれたという理由によって。
彼女は真紅の血飛沫に染まった花嫁衣裳の姿のまま、その円い舞台へと昇る。白百合のような少女たちが、彼女の身体へと纏わりついてきた。少女たちはそっと彼女の身体を服の上から愛撫する。春のそよ風のように。やさしく。暖かく。
彼女は自分の身体の中で、ぞくりと官能が目覚め始めるのを感じた。彼女は知っている。目の前にいる少女たちがただの幻覚に過ぎないことを。
彼女の一族には、時折赤い瞳を持った女が生まれる。赤い瞳のものは、生まれつきふたつの能力を持っていた。
ひとつは、人に幻覚を見せる力。
もうひとつは、人の心を読む力。
赤い瞳のものは、他人の心奥深くにあるものを引きずり出し目に見える形を与え、人を惑わす。その能力はとても危険なものではあるが、それが赤い瞳を持つものたちが封印される理由ではない。
彼女たちが封印されねばならない理由は別にある。
真紅の血に染められた花嫁衣裳を纏った彼女は、少女たちの執拗な愛撫を受けながら赤い瞳の女の前へと向かう。少女たちの愛撫はまるで彼女の心と身体を縛っていた氷を溶かしてゆくように、彼女の身体の中から官能を引き出してくる。
彼女は自分の身体が快感に目覚めつつあるのを感じた。しかし、それは十分抑制できるものであったし、それは下腹部を覆うあまやかな疼きといった程度のものである。
赤い瞳のものは、少し唇を舐めると彼女に語りかける。
「姉さん、夜明けまではまだ時間がある、ゆっくりやりましょうよ」
幻覚の少女たちは、服の上からそよ風のような愛撫を続けている。それは彼女の乳房を、背中を、太ももを、鼠剄部を、そしてより深く秘めやかな部分を目覚めさせ、ざわつかせた。身体じゅうがより新しく強い刺激を求めて疼いている。
赤い瞳のものは、彼女をじっと見つめた。そして、彼女の記憶に触れ始める。彼女は、はじめて恐怖を感じた。
「だめよ、それは。やめて」
彼女の顔が歪むのを見て、赤い瞳のものは満足げに微笑む。
「これは必要なの。あなたが望むものを手に入れるためには、どうしても必要なことなのよ」
一人の少女が彼女の前へと立つ。その姿は溶けるように変化していった。そしてそれは、一人の男性のものとなる。彼女はその顔を知っていた。それは許婚の姿である。
「いや、やめて」
彼女の言葉を無視して、赤い瞳のものはより深いところに隠された彼女の記憶を掘り起こしてゆく。彼女の許婚は、彼女の身体を愛撫してゆく。そして、その行為は彼女の記憶どおり彼女のより奥深い官能を掘り起こしていった。
許婚の繊細な指先は、彼女の最も秘めやかな部分を楽器を演奏するようにリズミカルに愛撫してゆく。そして、彼女もまた許婚の熱く充実した部分を狂おしく愛撫する。記憶のとおりに。二人は指先で互いの欲望を掻き立ててゆく。
いや。
記憶とは少し違う。
それは、より深い快感と欲情を彼女へともたらすため、造りかえられたものだった。
しかし、それはそれでも記憶のとおりといえた。その脚色を行っているのは彼女の無意識に眠る欲望であり、願望でもあった。
「お願い、これ以上は」
彼女の言葉はあっさり無視された。
「さあ、はじまるのはこれからよ」
もう一人の少女が立ちあがる。その少女は許婚の隣に立つと、その姿を変えてゆく。
少女は蛮族の副官へと姿を変えていた。
あたりの情景が一変する。
それはあの運命の日。
許婚の支配する隣国との同盟が調印されるその儀式の場であった。正装した父と母、そして兄がおり、儀礼用の鎧を身に着けた蛮族の副官もいる。
彼女の傍らに許婚がおり彼女の腰に手を当てていた。彼女はその手の温もりから、昨夜の快楽を反芻している。許婚の指によって奏でられた快感を。
そしてなぜか彼女は全裸だった。
「違う、やめて」
硬く乳首を勃起させた彼女の前で、その儀式は進められてゆく。鋼の瞳を持った蛮族の副官は、欲情した彼女を見つめていた。
彼女は絶叫する。
「嘘だ、私はそんなこと、考えていない」
許婚の指は全裸の彼女の秘めやかな部分に向かって伸ばされる。儀式の進行を見つめながら、その指は快楽の音楽をリズミカルに奏ではじめた。
「違う、違う、違う、嘘だ、でたらめだ」
議場にある大きな革張りの椅子の上で彼女は、腰を少しつきだす。欲情して熱い涙を流している彼女の秘部が、蛮族の副官からもっとよく見えるように。
「やめろ、やめろ、やめろーーーー」
突然、景色が元に戻る。全裸の少女たちが彼女の周りで蠢いていた。赤い瞳のものは、少し嘲るような笑みを見せる。
「まさか、なんの犠牲も払わずに望むものを手に入れられると思っていたわけではないでしょうね」
彼女は首を振る。
「いいこと、私のくちづけを受けるためには、あなたはもっともっと、欲望を高めなければいけない。地上にはもっと卑劣で邪悪な想念を持ったものがいるし、そうしたものたちの思念は時折この封印された地下まで届くことがある。それにくらべれば姉さんの夢想なんて穢れのないものといってもいいくらい」
彼女は真紅の血飛沫に染まった花嫁衣裳の姿のまま、その円い舞台へと昇る。白百合のような少女たちが、彼女の身体へと纏わりついてきた。少女たちはそっと彼女の身体を服の上から愛撫する。春のそよ風のように。やさしく。暖かく。
彼女は自分の身体の中で、ぞくりと官能が目覚め始めるのを感じた。彼女は知っている。目の前にいる少女たちがただの幻覚に過ぎないことを。
彼女の一族には、時折赤い瞳を持った女が生まれる。赤い瞳のものは、生まれつきふたつの能力を持っていた。
ひとつは、人に幻覚を見せる力。
もうひとつは、人の心を読む力。
赤い瞳のものは、他人の心奥深くにあるものを引きずり出し目に見える形を与え、人を惑わす。その能力はとても危険なものではあるが、それが赤い瞳を持つものたちが封印される理由ではない。
彼女たちが封印されねばならない理由は別にある。
真紅の血に染められた花嫁衣裳を纏った彼女は、少女たちの執拗な愛撫を受けながら赤い瞳の女の前へと向かう。少女たちの愛撫はまるで彼女の心と身体を縛っていた氷を溶かしてゆくように、彼女の身体の中から官能を引き出してくる。
彼女は自分の身体が快感に目覚めつつあるのを感じた。しかし、それは十分抑制できるものであったし、それは下腹部を覆うあまやかな疼きといった程度のものである。
赤い瞳のものは、少し唇を舐めると彼女に語りかける。
「姉さん、夜明けまではまだ時間がある、ゆっくりやりましょうよ」
幻覚の少女たちは、服の上からそよ風のような愛撫を続けている。それは彼女の乳房を、背中を、太ももを、鼠剄部を、そしてより深く秘めやかな部分を目覚めさせ、ざわつかせた。身体じゅうがより新しく強い刺激を求めて疼いている。
赤い瞳のものは、彼女をじっと見つめた。そして、彼女の記憶に触れ始める。彼女は、はじめて恐怖を感じた。
「だめよ、それは。やめて」
彼女の顔が歪むのを見て、赤い瞳のものは満足げに微笑む。
「これは必要なの。あなたが望むものを手に入れるためには、どうしても必要なことなのよ」
一人の少女が彼女の前へと立つ。その姿は溶けるように変化していった。そしてそれは、一人の男性のものとなる。彼女はその顔を知っていた。それは許婚の姿である。
「いや、やめて」
彼女の言葉を無視して、赤い瞳のものはより深いところに隠された彼女の記憶を掘り起こしてゆく。彼女の許婚は、彼女の身体を愛撫してゆく。そして、その行為は彼女の記憶どおり彼女のより奥深い官能を掘り起こしていった。
許婚の繊細な指先は、彼女の最も秘めやかな部分を楽器を演奏するようにリズミカルに愛撫してゆく。そして、彼女もまた許婚の熱く充実した部分を狂おしく愛撫する。記憶のとおりに。二人は指先で互いの欲望を掻き立ててゆく。
いや。
記憶とは少し違う。
それは、より深い快感と欲情を彼女へともたらすため、造りかえられたものだった。
しかし、それはそれでも記憶のとおりといえた。その脚色を行っているのは彼女の無意識に眠る欲望であり、願望でもあった。
「お願い、これ以上は」
彼女の言葉はあっさり無視された。
「さあ、はじまるのはこれからよ」
もう一人の少女が立ちあがる。その少女は許婚の隣に立つと、その姿を変えてゆく。
少女は蛮族の副官へと姿を変えていた。
あたりの情景が一変する。
それはあの運命の日。
許婚の支配する隣国との同盟が調印されるその儀式の場であった。正装した父と母、そして兄がおり、儀礼用の鎧を身に着けた蛮族の副官もいる。
彼女の傍らに許婚がおり彼女の腰に手を当てていた。彼女はその手の温もりから、昨夜の快楽を反芻している。許婚の指によって奏でられた快感を。
そしてなぜか彼女は全裸だった。
「違う、やめて」
硬く乳首を勃起させた彼女の前で、その儀式は進められてゆく。鋼の瞳を持った蛮族の副官は、欲情した彼女を見つめていた。
彼女は絶叫する。
「嘘だ、私はそんなこと、考えていない」
許婚の指は全裸の彼女の秘めやかな部分に向かって伸ばされる。儀式の進行を見つめながら、その指は快楽の音楽をリズミカルに奏ではじめた。
「違う、違う、違う、嘘だ、でたらめだ」
議場にある大きな革張りの椅子の上で彼女は、腰を少しつきだす。欲情して熱い涙を流している彼女の秘部が、蛮族の副官からもっとよく見えるように。
「やめろ、やめろ、やめろーーーー」
突然、景色が元に戻る。全裸の少女たちが彼女の周りで蠢いていた。赤い瞳のものは、少し嘲るような笑みを見せる。
「まさか、なんの犠牲も払わずに望むものを手に入れられると思っていたわけではないでしょうね」
彼女は首を振る。
「いいこと、私のくちづけを受けるためには、あなたはもっともっと、欲望を高めなければいけない。地上にはもっと卑劣で邪悪な想念を持ったものがいるし、そうしたものたちの思念は時折この封印された地下まで届くことがある。それにくらべれば姉さんの夢想なんて穢れのないものといってもいいくらい」
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