暗黒神のくちづけ【R18】

ヒルナギ

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第六話

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 彼女は、ベッドで目覚める。全ては夢でいつもと変わらぬ日常が戻ったのかと、半ば微睡みながら思う。夢であったのなら随分と酷い夢であったが、しかしあの全てが夢であったとはとうてい思えない。
 彼女は、ベッドで身を起こす。見覚えのない、麻の長衣を着ていた。ベッドから降りて、激しく違和感を感じる。ひとの気配がない。
 彼女は寝室を出て、城内を歩き回る。いつもであれば、城内には使用人や衛士たちが常に歩き回り気配が絶えることがない。けれど、今この城は打ち捨てられた廃墟と化したように、静寂に満たされている。
 これはまだ、夢の中なのかと思う。けれど、自分の今味わっている現実感は、到底夢のものとは思えない。
 ふと。
 彼女は、気配を感じる。物音がした。大広間のほうだ。彼女は、大広間へと向かう。いつしか、速歩は駆け足となり、滑るように階段を駆け下りていた。
 力任せに、大広間の扉を開く。そこでは彼女も剣を振るい惨劇があった場所であるが、今は血の跡もなく悲惨な出来事を感じさせる痕跡は残っていない。
 大広間の机で、ひとりのおんなが食事をしている。サーコートの上にマントを羽織るという遍歴の騎士を思わせる装いの、おんなであった。頭には兜を被り、背中には大きな剣を背負っている。おそらく、傭兵のように戦いを生業としてきたのであろう。
 おんなはナイフで肉の塊を切っては喰らい、時折木のジョッキから酒を飲む。荒っぽい仕草にも関わらずどこか気品があり、少しばかり年嵩にみえるおんなの顔は美しさの面影を残している。

「まあ、聞きたいことが色々あるだろうがね」

 おんなはジョッキを置き、肉の乗った皿を脇によけた。

「まあ、座れ」

 彼女はおんなに促されるまま、椅子へ腰を下ろす。おんなは、鋭い目で彼女を見つめると話をはじめた。

「これは、夢だよ。暗黒神が、見せている夢だ」

「いったい、何を」

「信じないならそれでいいが、このままだと世界が滅ぶ。で、不本意ながら退魔師を営むこのわたしが駆り出された」

 彼女は、困惑し眉を顰める。あれが、世界を滅ぼすものなのか?

「君はあの暗黒神は単に肉体を得た後、元々自分がいた世界へと帰るだけだと思っているね。それは、それで正しい。しかしね、」

 おんなは、老いたというには少しはやいが、それでもいくつもの傷と皺が刻み込まれ過ごしてきた年の過酷さを感じさせる顔でじっと彼女を見つめる。

「暗黒神が元の世界に戻るには、大きな力を必要とする。その力は、ひとを殺すことによって得られる。今から二十年後、暗黒神は力をつけ何万ものひとを殺す。結果、多くの国が滅び、世界から文明が失われる。まあ、信じろといっても難しいかもしれないが」

「わたしに、どうしろと」

 彼女の言葉に、おんなは笑みのように口を歪め応える。

「君になら、暗黒神を殺せるのだよ。だから暗黒神は、君に夢を見せている。自分が力をつけるまでの間に、君に殺されぬようにね」

 彼女は、困惑して眉を顰める。おんなは、楽しげに言葉を続けた。

「ああ、暗黒神を殺しても君の夫はもうだめだよ。彼の精神は、破壊された。復讐は、なされた。後戻りは、できない」

 彼女は、ため息をつく。復讐は望みであったが、そのために世界を滅ぼすのは彼女の本意ではない。出来ることを、しようと思う。おんなは、頷く。

「わかってくれたかね。ではまず、目覚めようか」

 おんなは、パンと手を打ち鳴らした。



 彼女はまた、ベッドの中で目覚める。今度はあたりは暗く、そして彼女は全裸であった。彼女は戸惑いながら、身を起こすとあたりを見回す。天窓から月の光が零れ落ち、白い光の柱ができている。その柱の下に、あのおんながいた。
 おんなは足を組み、椅子に腰をおろして煙管を燻らせている。月の光を浴び蒼白く光る紫煙が、漂ってゆく。
 おんなは、夢で見たのと同じスタイルをしていた。彼女が目覚めたの見ると、口角をあげ笑みのように口を歪める。

「やあ、はじめまして、というべきかな」

 おんなは兜を脱ぎ、髪をあらわにする。その髪は、アラバスタのように白く月の光を浴びて幻想的に輝いていた。おんなは背負っている大剣もはずすと、立ち上がり今度は彼女の座るベッドに腰をおろした。おんなが近づくと、おんなが燻らしていた煙草の香りがとどく。それは甘く、官能を刺激する香りであった。

「わたしは、レディ・ホワイトと呼ばれる。この髪が、名前の由来でね。夢で話した通り、退魔師だ。では」

 おんなは手を伸ばし、彼女の顎に触れた。荒れて固い、剣を振るうものの手だと思う。彼女は自分がひどく無防備な姿であることに気が付き、手であらわになっていた胸を隠す。

「さっそく、暗黒神を殺しにいこうか」
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