暗黒図書館【R18】

ヒルナギ

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第十六話

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 そしてあの暗黒図書館で父が喰われた時のように、記憶が溢れだす。
 しかしそれは、姉の記憶ではなかった。わたしたちの周りに現れはじめた幻影は、地下深くに眠っている暗黒図書館に蓄えられたてきた、異形の記憶である。
 わたしたちの足元で床が消失した。わたしたちは、岸壁の縁に立っている。その向こうに現れたのは、暗黒の大海である。渦巻く闇のように荒れ狂う大海原の遥か底からあの神が姿を現す。獣頭蛇身の神。その姿はかつてないほど巨大で、無数に別れた尾は幾人ものひとを絡め取っている。
 影のようなひとは宙に舞い上がり、風となって飛翔すると獣頭蛇身の神が開いた口に飛び込む。
 神が持つ獣の瞳が、凶悪な光を帯びる。獣頭蛇身の神は邪悪な意思を持って、無数に分岐した尾を姉に向かって放つ。
 姉を覆っているインバネスの形をした昏い影が蛇の尾に剥ぎ取られてゆき、やがて白い裸身が剥き出しになる。雲がはれることで、月を覆っていた影が消え去り白い光が剥き出しになるように。
 姉の裸体が沸き起こるように襲いくる尾の前に、曝け出された。姉は、絡みつく尾を払い除けようとする。
 しかし、無限に沸き起こるような蛇の尾は次第に姉の身体を絡め取ってゆく。胸の双丘を白き腰のくびれを下腹の秘めやかなる場所を、蛇の尾はわが物顔で這いずりまわった。
 姉の抵抗は虚しく敗れ、濡れてひかり滑らかな曲線を描く尾の先は、下腹の奥へと忍びこんだ。そして、激しく出入りをはじめる。
 姉は耐えきれぬようにその場に手をつき、四つん這いになった。その姉の赤い口を白い臀部を胸の双丘を、蛇の尾は犯していく。股間に入り込んだ尾は大きく膨らみ激しい出入りを繰り返し、姉の秘部が放つ蜜をあたりにまき散らす。
 わたしは姉に駆け寄ろうとするが、蛇の尾はわたしにも襲いかかった。いつしか蛇の尾は先に蛇の頭を、出現させている。
 無数の蛇がわたしに襲いかかりその牙がわたしの服を切り刻み、剥ぎ取ってしまう。わたしは瞬く間に、全裸となっていた。
 蛇は赤い舌を躍らせわたしの胸を舐め尻を舐め唇を奪い、そして会陰の奥にある秘めやかな場所を舐め回す。それは羽毛で撫でられるように密やかな感触で、わたしの花弁にある花芯は舌の愛撫で固く勃起し蜜で塗れて蠢いていた。
 蛇の舌はわたしの鼠径部を舐め回し尻の蕾を愛撫し、恥知らずに固くなった花芯をしゃぶる。わたしは抵抗することができず、大きく股を開いてその場に崩れ堕ちた。
 股の間でわたしの花弁は大きく膨らみ、開いている。わたしはついに、蛇に屈した。
 わたしの大きく開いた股に向けて、蛇たちが殺到する。蛇たちは赤い舌でわたしの内股を鼠径を会陰を後ろの蕾を双丘の先を、執拗に舐め回し愛撫し快楽を与え続けた。
 とうとうわたしは絶頂に向けて、堕ちてゆく。ひとつの大きな頭を持つ蛇がねっとりとわたしの花弁をそして固く尖った花芯を舐め回している。
 わたしは敗北を認め、懇願した。

「お願い、それをわたしの中に入れてちょうだい」

 蛇は満足気に頷くと、一気にわたしの亀裂へ頭を差し込む。そのまま動かず、舌でわたしの中にある奥の秘めやかなところ舐め回す。わたしの中から溢れ出る蜜が、水たまりを作るほどになる。腰が止めようもなくひくひくと動き、あまりの快感にわたしは眼の前が昏くなった。わたしは夢中で腰を回し、快楽をむさぼろうとした。
 既にわたしは蛇の奴隷と、化している。蛇はおもむろにわたしの奥にある粘膜の部屋へと、入り込んだ。
 その、瞬間。
 わたしの奥に、火が灯った。
 燃え盛る火に舌を焦がされた蛇は、慌てて頭を抜き出す。
 そして、姉の言葉が頭に響く。

「あなたに、火のプラーナを与えた。それは、あなたのエクスタシーと共に目覚める」

 わたしの中に灯った火が脊髄を螺旋状に這い上がり、頭の中に白銀の光をまき散らす。わたしは、あまりの眩しさに両手をついて這いつくばる。
 わたしは、喉元に上がってきた熱いものを堪えきれず吐き出す。
 炎がわたしの口から飛び出し、わたしは驚愕で目を見開く。燃え盛る炎の蛇がわたしの口から飛び出してきた。その炎は、わたしの肌を焼き焦がすことはない。
 しかし、その炎はそこに触れる蛇たちを焼き殺した。
 わたしは燃える炎の蛇を、手にとる。それはわたしの身体を焼くことはなく、熱さも感じない。
 蛇は、炎の剣へと形を変える。わたしはその真紅に燃える剣を、横薙ぎにふるった。
 わたしに迫る蛇たちは、炎に触れると焼け焦げ消え去ってゆく。わたしは、姉に向かって走った。
 わたしは炎の剣を振るい姉に纏わりつく蛇たちを、焼き殺していく。やがて姉は解放され、立ち上がる。
 姉は頷くと、自分の胸へと手を差し込む。胸の中へと入り込んだ手は、その中から助骨を一本抜き取った。
 姉は手にした助骨を、獣頭蛇身の神に向かってかまえる。獣頭蛇身の神は、怒りの咆哮をあげた。
 姉は、少し微笑む。そして姉の手の中で助骨は拳銃に姿を変えてゆく。アンティークな佇まいを持った、純白の輪胴式拳銃である。
 姉は突然、わたしに口づけをした。そして、指をわたしの花弁奥深くに差し込む。わたしの奥で密やかに閉ざされていた場所が強引に開かれ、快感を爆発させた。わたしは膝をがくがくと震わせる。
 わたしの中に火が生まれ、螺旋を描いて脊髄を昇る。頭の中に、白銀の光が満ち溢れた。
 姉はわたしの薬指を、噛む。かりっと音がしてわたしの指が食いちぎられたが、不思議と痛みはない。
 姉は口から取り出した指を、手にとる。それは燃え上がり、炎の銃弾となった。

「みて、火のプラーナでできた銃弾よ。とても、綺麗」

 姉はそう呟くと、炎の銃弾を白い拳銃の弾倉へと挿入した。そして、怒りの声をあげている獣頭蛇身の神へと銃を向ける。
 だん、と乾いた銃声がすると炎の矢が真っ直ぐに神の眉間へと伸びた。銃弾が神を貫いた瞬間、全てが燃え上がり灰となる。

 そして姉が叫んだ。
 それは歌のような、呪文のような。
 暗黒図書館で父が朗読したあの、『ヴェーダの音』だった。今は判る、それが形を変えたプラーナであることが。
 わたしは津波のように、わたしたちの両側から何かが持ちあがってくるのを見た。白い壁のようなものが、わたしたちの両側に立ちあがりわたしたちをはさみこむ。
 わたしはその白い巨大なものが何か、突然理解した。
 それは、本のページだ。
 白いページの表面で、粉々に分解され光の破片となった記憶が、跳ねまわっている。やがてその記憶の破片もページの中に呑み込まれていった。
 姉はシャーマンのように高らかに叫び、歌う。
 白いページはわたしたちの両側に聳えたち、わたしたちは巨大な崖にはさまれた渓谷の底にいるような気になる。やがてわたしたちを飲み込み、本は閉ざされた。

 高層マンションの最上階にある部屋。
 そこには誰もいなかった。
 そして、そこに置かれた一冊の本が、ひとりでに閉ざされる。
 誰もいない部屋に、ただ一冊の本だけがあった。
 ただ一冊の本が。

 影となった彼女はその本を手に取ると、そっと昏い笑みをうかべた。

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