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第二話
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おとこは、館の屋根に上り月を見ていた。
黒のライダースジャケットに、あちこち綻びたジーンズパンツをはいたその痩せたおとこは、ロンドンの下町からきたパンクスのように見える。
おとこは、夜空を支配する無慈悲な女王である月から目をそらすと立ち上がった。
そして、ゆっくりと振り向く。
闇から、滲み出るように白髪のおとこが姿を現した。
腰にソードオフしたライフルを吊るして、真紅に染まった革のジャケットを羽織り長剣を背にさしたその白髪のおとこは、月影に赤い目を曝す。
「これは、これは」
黒のライダースのおとこは、獰猛な笑みを浮かべ大きな犬歯を剥き出しにする。
「あんたは夜の眷属ながら抹殺機関に所属している、エンハウンスではないか」
エンハウンスと呼ばれたおとこは、少し口を歪めた。
「ヴァチカン謹製の隠形符は、役立たずだな」
そういいながら、燃え盛る炎の真紅に染まったジャケットの背に貼り付けられた符を剥がして破り捨てる。
「いやいや、十分役にたっていたさ。だが、濃すぎたんだよ」
ライダースのおとこは、楽しげに笑う。
「死の香りがね」
エンハウンスは、精悍ではあるが端正に整った顔に微笑を浮かべる。
「さて、はじめる前にひとつ訂正しておくが、おれは夜の眷属ではなくひとだよ。吸血鬼の血を飲んだが、死なずにひとであり続けている歴史上唯一無二の存在だ。それと」
エンハウンスは、凶悪な笑いをみせた。
「あんたの名を聞いておこうか、人狼くん」
ライダースのおとこは、首を振る。
「おれは人狼ではなく、犬神だ。名は、憑神玲狼という」
その言葉が、合図となったようだ。
エンハウンスは、素早い動作で腰に吊るしたライフルを抜くと四六◯ウェザビー弾という強力な銃弾を片手持ちで撃つ。
闇を引き裂く重厚な銃声が、響き渡った。
憑神と名乗ったおとこの突き出した左手が、血を繁吹かせる。
それと同時に驚いたことに、銃を発射したエンハウンスの右手も炸裂したように血を滴らせた。
憑神は、楽しげに笑う。
「さすが、概念武装『聖葬砲典』だな。半人半妖のあんたの手も、破壊するということか。しかし、残念だが」
憑神は、左手を開く。
その中からひしゃげた銀色の銃弾が、こぼれる。
その左手は、金狼の鬣に覆われていた。
「イザナギ流式神の犬神であるおれの身体は、西欧の聖典では破壊できないんだよ」
エンハウンスは、苦笑する。
「聖書まるごと一冊分の呪を圧縮して内臓した銃弾が、無意味だとはな」
言い終えると、エンハウンスは背中から片刃の剣を抜き跳躍した。
骨を削り出して研いだように白い刀が、憑神に襲いかかる。
憑神は、それを金狼の毛に包まれている左手で受けた。
その手のひらからは、大理石の白さを持つ牙が生えておりその牙が白い刀を咥えている。
憑神の左手は、狼の頭部に見えた。
それは月影を受け、黄金色に輝いているようだ。
黄金の炎に、白銀の月影でできた剣が食い止められているようにみえる。
刀を手にしたエンハウンスは、驚愕で赤い目を見開く。
「ユニコーンの角で造った聖剣アヴェンジャーであっても」
憑神は、犬歯を剥き出しにして獣の笑みを浮かべる。
「古式ゆかしい蠱毒で造ったおれの身体は、斬れないようだな」
「アヴェンジャーに斬れぬものはない」
エンハウンスが言うと共に、剣は悲鳴をあげる。
甲高く凄絶なものを内に秘めた、叫び声。
その白き剣は、滅びの歌をうたっている。
純白の表面に、真紅のルーン文字が浮かび上がると輝いた。
また、それと同時にエンハウンスの剣を持つ左手も、血を渋く。
どうやら聖剣の力に、エンハウンス自身の腕が耐えられないようである。
そして、同時に憑神の左手も血を迸らせた。
金狼の毛が、赤く染まってゆく。
憑神は、驚きの表情でそれを見る。
「なるほど我が身を破壊して、敵をたおすというのだな」
憑神の呟きに、エンハウンスは凄絶な笑みで答えた。
黒のライダースジャケットに、あちこち綻びたジーンズパンツをはいたその痩せたおとこは、ロンドンの下町からきたパンクスのように見える。
おとこは、夜空を支配する無慈悲な女王である月から目をそらすと立ち上がった。
そして、ゆっくりと振り向く。
闇から、滲み出るように白髪のおとこが姿を現した。
腰にソードオフしたライフルを吊るして、真紅に染まった革のジャケットを羽織り長剣を背にさしたその白髪のおとこは、月影に赤い目を曝す。
「これは、これは」
黒のライダースのおとこは、獰猛な笑みを浮かべ大きな犬歯を剥き出しにする。
「あんたは夜の眷属ながら抹殺機関に所属している、エンハウンスではないか」
エンハウンスと呼ばれたおとこは、少し口を歪めた。
「ヴァチカン謹製の隠形符は、役立たずだな」
そういいながら、燃え盛る炎の真紅に染まったジャケットの背に貼り付けられた符を剥がして破り捨てる。
「いやいや、十分役にたっていたさ。だが、濃すぎたんだよ」
ライダースのおとこは、楽しげに笑う。
「死の香りがね」
エンハウンスは、精悍ではあるが端正に整った顔に微笑を浮かべる。
「さて、はじめる前にひとつ訂正しておくが、おれは夜の眷属ではなくひとだよ。吸血鬼の血を飲んだが、死なずにひとであり続けている歴史上唯一無二の存在だ。それと」
エンハウンスは、凶悪な笑いをみせた。
「あんたの名を聞いておこうか、人狼くん」
ライダースのおとこは、首を振る。
「おれは人狼ではなく、犬神だ。名は、憑神玲狼という」
その言葉が、合図となったようだ。
エンハウンスは、素早い動作で腰に吊るしたライフルを抜くと四六◯ウェザビー弾という強力な銃弾を片手持ちで撃つ。
闇を引き裂く重厚な銃声が、響き渡った。
憑神と名乗ったおとこの突き出した左手が、血を繁吹かせる。
それと同時に驚いたことに、銃を発射したエンハウンスの右手も炸裂したように血を滴らせた。
憑神は、楽しげに笑う。
「さすが、概念武装『聖葬砲典』だな。半人半妖のあんたの手も、破壊するということか。しかし、残念だが」
憑神は、左手を開く。
その中からひしゃげた銀色の銃弾が、こぼれる。
その左手は、金狼の鬣に覆われていた。
「イザナギ流式神の犬神であるおれの身体は、西欧の聖典では破壊できないんだよ」
エンハウンスは、苦笑する。
「聖書まるごと一冊分の呪を圧縮して内臓した銃弾が、無意味だとはな」
言い終えると、エンハウンスは背中から片刃の剣を抜き跳躍した。
骨を削り出して研いだように白い刀が、憑神に襲いかかる。
憑神は、それを金狼の毛に包まれている左手で受けた。
その手のひらからは、大理石の白さを持つ牙が生えておりその牙が白い刀を咥えている。
憑神の左手は、狼の頭部に見えた。
それは月影を受け、黄金色に輝いているようだ。
黄金の炎に、白銀の月影でできた剣が食い止められているようにみえる。
刀を手にしたエンハウンスは、驚愕で赤い目を見開く。
「ユニコーンの角で造った聖剣アヴェンジャーであっても」
憑神は、犬歯を剥き出しにして獣の笑みを浮かべる。
「古式ゆかしい蠱毒で造ったおれの身体は、斬れないようだな」
「アヴェンジャーに斬れぬものはない」
エンハウンスが言うと共に、剣は悲鳴をあげる。
甲高く凄絶なものを内に秘めた、叫び声。
その白き剣は、滅びの歌をうたっている。
純白の表面に、真紅のルーン文字が浮かび上がると輝いた。
また、それと同時にエンハウンスの剣を持つ左手も、血を渋く。
どうやら聖剣の力に、エンハウンス自身の腕が耐えられないようである。
そして、同時に憑神の左手も血を迸らせた。
金狼の毛が、赤く染まってゆく。
憑神は、驚きの表情でそれを見る。
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