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第二話
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おれは鬱陶しいと思ったが、浴室でおんなを解体した。
血抜きをして、手足を斬りおとし、胴体を分割した死体は思ったよりコンパクトになったものだ。
おれはその死体を、山に捨てた。
今、駆け抜けているこの山にだ。
おんなは、切り離された五体を縫い合わせたらしい。
多少荒っぽい縫合のあとが、首や露出した手足に残っている。
綺麗に斬ったはずだが、こんなに雑に縫い合わせやがってと思わないでもない。
おんなは、鼻で笑った。
「あんたさ、馬鹿にしてる? あたしはさ、死んでるの。それなのに縫い合わせたのよ。凄いと思いなさい、凄いと」
馬鹿馬鹿しいと思う。
なぜだろう。
なぜこんなに、薄気味悪いほど全てはうすっぺらいのだ。
おれは、こんなものを求めていたのか。
おれは、何を求めていたのか。
「あんたさ、愛が欲しいとでも思っていたんじゃあないの。あたしをその腕に抱いて愛があるとでも思っていたんじゃあないの。ふたりで孤独な闇を共有して溶け合うように身体を交えて、愛があるとでも思ったんじゃあないの」
そうなのだろうか。
そうだったのだろうか。
「ぶぁっかじゃないの」
おんなは邪悪に、朗らかに、陰鬱に、楽しげな笑い声を上げる。
車の上げる絶叫とシンクロさせ、それをレイプするかのようにくらい笑い声。
「あたしもさ。あんたもさ。単に孤独だったのよ。それで誰かと繋がりたいと思ったのよ。こころを高くかがけ燃え上がる情熱の中で繋がっていたいと。でもそんなのってさ。愛じゃないじゃん。恋でもないじゃん」
おんなの声すらうすっぺらく感じる。
紙のように薄い声が、轟音を詰め込んだ静寂の闇に漂っていた。
「愛なんてさ、もう100年も前に犬に食われてしまったんだわ」
これには、苦笑する。
なんだそれは。
一体、いつどこで犬が愛を食ったというんだ。
「1915年、フランス、シャンパーニュ、シャルル・ロワ。コンピエーニュ、アルトワ。いたるところ。そこかしこで」
おんなは歌うように続ける。
「機関銃、爆撃、毒ガス。ひとを挽肉にし、腐乱死体に変えた」
とても、そう楽しげに、薄く延びてゆく声は、残虐な歌を奏で続ける。
「それは肉体だけではなく、希望も理想も、そして尊厳や志というものを根こそぎ血塗れの肉切れにしたわ。そう、それはもう死体ですらない、ほらこんなふうに」
おんなはおれに縫合した継ぎ目を見せる。
「こんなふうに縫い合わせたってさ、もうひとではないし、ひとであったものですらないし、ひとに似たものでもないの。これはね。ただのもの、肉の塊。犬の餌」
おんなは、話に飽いたのか沈黙する。
血抜きをして、手足を斬りおとし、胴体を分割した死体は思ったよりコンパクトになったものだ。
おれはその死体を、山に捨てた。
今、駆け抜けているこの山にだ。
おんなは、切り離された五体を縫い合わせたらしい。
多少荒っぽい縫合のあとが、首や露出した手足に残っている。
綺麗に斬ったはずだが、こんなに雑に縫い合わせやがってと思わないでもない。
おんなは、鼻で笑った。
「あんたさ、馬鹿にしてる? あたしはさ、死んでるの。それなのに縫い合わせたのよ。凄いと思いなさい、凄いと」
馬鹿馬鹿しいと思う。
なぜだろう。
なぜこんなに、薄気味悪いほど全てはうすっぺらいのだ。
おれは、こんなものを求めていたのか。
おれは、何を求めていたのか。
「あんたさ、愛が欲しいとでも思っていたんじゃあないの。あたしをその腕に抱いて愛があるとでも思っていたんじゃあないの。ふたりで孤独な闇を共有して溶け合うように身体を交えて、愛があるとでも思ったんじゃあないの」
そうなのだろうか。
そうだったのだろうか。
「ぶぁっかじゃないの」
おんなは邪悪に、朗らかに、陰鬱に、楽しげな笑い声を上げる。
車の上げる絶叫とシンクロさせ、それをレイプするかのようにくらい笑い声。
「あたしもさ。あんたもさ。単に孤独だったのよ。それで誰かと繋がりたいと思ったのよ。こころを高くかがけ燃え上がる情熱の中で繋がっていたいと。でもそんなのってさ。愛じゃないじゃん。恋でもないじゃん」
おんなの声すらうすっぺらく感じる。
紙のように薄い声が、轟音を詰め込んだ静寂の闇に漂っていた。
「愛なんてさ、もう100年も前に犬に食われてしまったんだわ」
これには、苦笑する。
なんだそれは。
一体、いつどこで犬が愛を食ったというんだ。
「1915年、フランス、シャンパーニュ、シャルル・ロワ。コンピエーニュ、アルトワ。いたるところ。そこかしこで」
おんなは歌うように続ける。
「機関銃、爆撃、毒ガス。ひとを挽肉にし、腐乱死体に変えた」
とても、そう楽しげに、薄く延びてゆく声は、残虐な歌を奏で続ける。
「それは肉体だけではなく、希望も理想も、そして尊厳や志というものを根こそぎ血塗れの肉切れにしたわ。そう、それはもう死体ですらない、ほらこんなふうに」
おんなはおれに縫合した継ぎ目を見せる。
「こんなふうに縫い合わせたってさ、もうひとではないし、ひとであったものですらないし、ひとに似たものでもないの。これはね。ただのもの、肉の塊。犬の餌」
おんなは、話に飽いたのか沈黙する。
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