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第十九話
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ケインは、左手を振った。今度は、魔族のおんなも動きを完全に見切っている。しかし、誤算があった。今度の剣はさっきより速い。
魔族のおんなは、身体の移動だけでかわしきれず、杖で三日月型の剣をはじこうとした。しかし、その剣は杖ごと魔族のおんなの体を斬る。
魔族のおんなの額から胸元、そして下腹に向かい、紅い線が走った。斬られながらも、おんなは前へでる。ケインの両腕が交差した。
右手に操られる剣が腹を裂き、左手に操られる剣が足を薙いだ。おんなの膝から上の体が、滑るように前へ出る。切断された足を後ろに残し、おんなの体が地に落ちた。そして、上半身から、十文字に血が迸り出る。
ケインは後ろに跳んで、血を避けた。足を失ったおんなは、腹を抑える。抑えた脇から臓物が、はみ出していく。おんなは自らの血だまりの中へ、沈んでいった。
ケインの左手に持たれている剣は、形状は右手で操っているものと同一であるが、色が違う。その剣は夜の海の色のように、暗かった。それは通常の水晶の倍の硬度を持つといわれる、闇水晶で造られている。
その太陽の沈んだ後の、赤く黒い残照に焼かれる空のような色を持つ剣は、透明な水晶剣よりもさらに薄く、さらに鋭い。その闇水晶の剣は鉄の鎧すら、切断することができた。ただ、それを操るには、肉体の限界を越えたスピードが必要である。
ケインがその師である、ユンクに学んだ無意識の想念を通じ、身体を操る術によってはじめて闇水晶の剣を操ることが、可能となる。ケインの右腕は、激しく痛みを訴えていた。ユンクの技は、肉体が持つ耐性を越えた速度を要求する。度々繰り返せば、ケインの右腕は筋肉が切れ、一生使いものにならなくなってしまう。それだけの、負荷を要求する技なのだ。
ケインは両手の剣を袖内に納めると、ジークへ声を掛けた。
「そっちも片づいたか?」
「ああ、楽勝よ」
ジークは荒い息をしながら、言った。
「おい」
ゲールが怯びえた声をだす。
「やつら、大したダメージうけてないんじゃないか?」
「冗談だろ…」
そういったジークは、信じられないものを見た。腹を吹き飛ばされた魔族のおんなの体は、急速に修復されつつある。腹にあいた穴の中へ、再び臓物は戻ってゆき、穴の回りの筋肉はそれ自体が独立した生き物のように蠢き、穴を塞ごうとしていた。
もう一人の魔族のおんなも、切断された足を傷口にあて、再び繋ごうとしている。そしてなにより、魔族達の目は、明白に力を失っていない。憎悪に燃え、金色の炎のように輝いている。
そして二人の魔族は再び立ち上がった。血塗れの傷口は塞がりきっていないが、もとに戻るのは時間の問題と思われる。
ケインは、目の前が暗くなるのを感じた。これで復活されては、打つ手がない。
「くそっ」
ゲールは、30ミリ口径の火砲を、肩付けする。6連の輪胴型弾倉が、付けられていた。ゲールは引き金を引く。
轟音が二回響き、榴散弾が発射された。二発とも、まだ十分に動くことのできない魔族の顔面に、命中する。
魔族の頭部が破裂し、真っ赤な飛沫がとぶ。再び魔族は、血の中へ倒れた。幾度か体が痙攣する。
「やったか?」
ケインが期待を込めて呟いた言葉を裏切るように、顔を失ったおんな達は再び立ち上がろうと、動きだす。
「こりゃあ、残る手は一つしかないな」
ジークが呟き、ケインが問いかける。
「なんだよ、そりゃ」
「とりあえず、ここから逃げよう」
「もっともだ」
ケイン達は、部屋の奥へ走り、扉を開くと、回廊へ飛び出した。真紅のカーペットの敷き詰められた廊下を、走り抜ける。
幾度か、角を曲がるうちに、方向感覚が無くなってきた。ケイン達は、十字路で立ち止まる。
通路の天井は、とても高い。所々に、光輝く照明がある。それは、人間のおんな性の頭部を、模して造られていた。夢見るように瞑目したおんな性の頭の彫像が、目映い光を放っている。
ジークがその一つに、近づく。熱はあまり感じられないが、光はけっこう強い。
「光石だよ、それは」
ゲールが声をかける。
「一種の鉱物生命体だね。半永久的に輝き続ける、古代の生き物だ。おれも見るのは初めてだが」
「そんなことより、」
ケインが言った。
「どちらへ行くんだ、おれたち?このナイトフレイムの地図は、持ってないのか」
ゲールは、肩を竦める。
「財宝は、下層部にあるとしか聞いてない。下りの階段を探そう」
「できれば、」
ケインはうんざりした顔で言った。
「魔族は、さっきの連中だけであってほしいな」
「気配が感じられないところをみると、そう沢山いるわけでもあるまい」
ゲールはどちらかといえば、期待するように言った。
「まあ、要領は判ったじゃん」
ジークが気楽に言う。
「戦闘力を奪って、2・3発打ち込む。そして、ずらかる。簡単さ」
ケインは、ため息をついた。ジークの言う通り、今度あったら、さっきと同じことをするしかない。
「行くか」
ケインが声をかけ、3人は歩きだす。
魔族のおんなは、身体の移動だけでかわしきれず、杖で三日月型の剣をはじこうとした。しかし、その剣は杖ごと魔族のおんなの体を斬る。
魔族のおんなの額から胸元、そして下腹に向かい、紅い線が走った。斬られながらも、おんなは前へでる。ケインの両腕が交差した。
右手に操られる剣が腹を裂き、左手に操られる剣が足を薙いだ。おんなの膝から上の体が、滑るように前へ出る。切断された足を後ろに残し、おんなの体が地に落ちた。そして、上半身から、十文字に血が迸り出る。
ケインは後ろに跳んで、血を避けた。足を失ったおんなは、腹を抑える。抑えた脇から臓物が、はみ出していく。おんなは自らの血だまりの中へ、沈んでいった。
ケインの左手に持たれている剣は、形状は右手で操っているものと同一であるが、色が違う。その剣は夜の海の色のように、暗かった。それは通常の水晶の倍の硬度を持つといわれる、闇水晶で造られている。
その太陽の沈んだ後の、赤く黒い残照に焼かれる空のような色を持つ剣は、透明な水晶剣よりもさらに薄く、さらに鋭い。その闇水晶の剣は鉄の鎧すら、切断することができた。ただ、それを操るには、肉体の限界を越えたスピードが必要である。
ケインがその師である、ユンクに学んだ無意識の想念を通じ、身体を操る術によってはじめて闇水晶の剣を操ることが、可能となる。ケインの右腕は、激しく痛みを訴えていた。ユンクの技は、肉体が持つ耐性を越えた速度を要求する。度々繰り返せば、ケインの右腕は筋肉が切れ、一生使いものにならなくなってしまう。それだけの、負荷を要求する技なのだ。
ケインは両手の剣を袖内に納めると、ジークへ声を掛けた。
「そっちも片づいたか?」
「ああ、楽勝よ」
ジークは荒い息をしながら、言った。
「おい」
ゲールが怯びえた声をだす。
「やつら、大したダメージうけてないんじゃないか?」
「冗談だろ…」
そういったジークは、信じられないものを見た。腹を吹き飛ばされた魔族のおんなの体は、急速に修復されつつある。腹にあいた穴の中へ、再び臓物は戻ってゆき、穴の回りの筋肉はそれ自体が独立した生き物のように蠢き、穴を塞ごうとしていた。
もう一人の魔族のおんなも、切断された足を傷口にあて、再び繋ごうとしている。そしてなにより、魔族達の目は、明白に力を失っていない。憎悪に燃え、金色の炎のように輝いている。
そして二人の魔族は再び立ち上がった。血塗れの傷口は塞がりきっていないが、もとに戻るのは時間の問題と思われる。
ケインは、目の前が暗くなるのを感じた。これで復活されては、打つ手がない。
「くそっ」
ゲールは、30ミリ口径の火砲を、肩付けする。6連の輪胴型弾倉が、付けられていた。ゲールは引き金を引く。
轟音が二回響き、榴散弾が発射された。二発とも、まだ十分に動くことのできない魔族の顔面に、命中する。
魔族の頭部が破裂し、真っ赤な飛沫がとぶ。再び魔族は、血の中へ倒れた。幾度か体が痙攣する。
「やったか?」
ケインが期待を込めて呟いた言葉を裏切るように、顔を失ったおんな達は再び立ち上がろうと、動きだす。
「こりゃあ、残る手は一つしかないな」
ジークが呟き、ケインが問いかける。
「なんだよ、そりゃ」
「とりあえず、ここから逃げよう」
「もっともだ」
ケイン達は、部屋の奥へ走り、扉を開くと、回廊へ飛び出した。真紅のカーペットの敷き詰められた廊下を、走り抜ける。
幾度か、角を曲がるうちに、方向感覚が無くなってきた。ケイン達は、十字路で立ち止まる。
通路の天井は、とても高い。所々に、光輝く照明がある。それは、人間のおんな性の頭部を、模して造られていた。夢見るように瞑目したおんな性の頭の彫像が、目映い光を放っている。
ジークがその一つに、近づく。熱はあまり感じられないが、光はけっこう強い。
「光石だよ、それは」
ゲールが声をかける。
「一種の鉱物生命体だね。半永久的に輝き続ける、古代の生き物だ。おれも見るのは初めてだが」
「そんなことより、」
ケインが言った。
「どちらへ行くんだ、おれたち?このナイトフレイムの地図は、持ってないのか」
ゲールは、肩を竦める。
「財宝は、下層部にあるとしか聞いてない。下りの階段を探そう」
「できれば、」
ケインはうんざりした顔で言った。
「魔族は、さっきの連中だけであってほしいな」
「気配が感じられないところをみると、そう沢山いるわけでもあるまい」
ゲールはどちらかといえば、期待するように言った。
「まあ、要領は判ったじゃん」
ジークが気楽に言う。
「戦闘力を奪って、2・3発打ち込む。そして、ずらかる。簡単さ」
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