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第二十話
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下りの階段は、意外にすぐ見つかった。真っ直ぐ降りる階段を、ケイン達は下る。
降りた所は、大広間のになっていた。
「おい、」
ゲールが、絶望的な声を出した。
「嘘だろ」
そこには、十人以上の魔族の戦士達がいた。一人残らず、漆黒の肌の上に銀の鎖帷子をつけ、抜き身の剣を提げている。
その天空に輝く満月のような瞳が、ケイン達を見つめた。黒曜石の彫像のごとき、漆黒の屈強の肉体からは、闘竜のような生命力に溢れている。そして彼らの周囲から、ぞっとするような瘴気が漂ってきた。
「ふっ」
金色の髪をかき揚げた魔族の戦士が、蔑みの笑みを見せ、呟く。
「戦いの前に、家畜が迷い込んできたようだな。とりあえず、腹ごしらえとするか」
奈落の底のような闇色の顔に、野生の獣のような、高貴で美しい笑みを浮かべ、その戦士は一歩踏み出す。
ゲールが絶叫し、走りだした。火砲が火を吹く。その榴散弾は、上方へ逸れた。
膝をつき、うずくまったゲールの背中から、剣の切っ先が見えている。
先頭に立っていた魔族の戦士が、剣を放ったのだ。魔族の戦士は、野獣のような優雅さをもって、うずくまったゲールに近づく。頭を掴み、顔を上げさせると、無造作に剣を抜いた。
ゲールは、屠殺場で殺される動物のように、力無く泣いた。ケインは一瞬、全身が凍り付くような、冷たい波動を感じる。渦巻くような、強烈な瘴気があたりを満たしていた。
麻薬の幻影の中にいるように、世界が歪む。その中で、魔族に頭をつかまれたゲールが、幾度か痙攣する。やせ衰えた老人のように変貌した、ゲールの死体を、魔族の戦士はゴミ袋を捨てるように、投げ出す。ケインは自分の足が、震えているのを感じた。
残りの魔族たちが、ケイン達を見つめている。逃げようにも、足が動かなかった。
後ろをみせれば、ゲールのように、剣を投げつけられるような気がする為だ。
「ま、ひとつやれるだけ、やろうや」
ジークが、妙に晴れ晴れと言った。ケインも覚悟を決める。本当に、家畜のように、黙って殺される気は無い。
ケインは、想念をまとめ始める。いきなり闇水晶で斬りかかるつもりだ。闇水晶で首を落とせば、魔族といえ、生きてはいまい。
ジークも左手を掲げ、すり足で魔族達へ近づいてゆく。ケインはジークの後ろについた。捨て身で戦って、活路を見いだすしかない。
突然、魔族の戦士達が、踵をかえした。ケイン達と反対方向へ、歩いて行く。ケイン達など始めから存在していなかった、というように。
広間の反対側にも、階段がある。その階段の奥から、足音が聞こえていた。魔族の戦士達は、散開して待ちかまえる。
「へぇっ」
ジークが感心する。
「やつらに、戦う気を起こさせる相手が、来るみたいだぜ」
確かに、ケイン達と対峙したときの魔族達には、鼠をいたぶる猫のような残忍さしか無かった。今の魔族達には、戦う者の持つ、緊張感が感じられる。
そして足音の主達が、姿を現した。先頭は、煤色のマント纏ったブラックソウル、そしてその背後に長身の戦士が二人、さらにその後ろには、黒衣の魔導師ドルーズにクリスが続く。さらにその後ろには、大剣を背負ったマント姿の人物がいる。
ブラックソウルは、パーティ会場に遅れて現れた主賓のように、微笑んでみせる。
その体には、さっきケイン達が浴びたものとは比べものにならないような、暗黒の波動が浴びせられていた。ブラックソウルは、常人であれば衰弱して即座に昏倒してしまうような瘴気を、そよ風ほどにも感じていないようだ。
見ているケインのほうが、吐き気を感じ始める。広間の反対側であるにもかかわらず、目眩を感じさせるほどの精神波を、魔族達は発していた。ブラックソウルは、楽しげに言う。
「やれやれ、またですか。逃げ出してもいいんですよ、クレプスキュールの皆さん。
あなた達を殺すのは、本意じゃない。欲しいものさえ得られれば、さっさと帰ります」
魔族達は、無言であった。ブラックソウルは、微笑む。その笑みには、侮蔑が混ざっていた。
「家畜とは、口をきかない、ということですか。じゃあしかたありませんね」
ブラックソウルは、後ろへ下がる。剣を提げた、長身の戦士達が前へ出た。その戦士たちは、異相の持ち主である。
その顔と腕には、炎を思わす形の入れ墨がなされていた。両腕の入れ墨には、何か呪術的な意味を持つ文字が、組み込まれている。
体には、ごく軽い革の防具のみを、つけていた。頭の髪は、頭頂部のみを残し、全て剃り上げられている。むき出しになった側頭部にも、火焔の入れ墨は彫られており、隈取りされた顔は、伝説の魔物を思わせた。
そして頭頂部に残った紅い髪は、天に向かって逆立てられている。まるで、燃え盛る炎が、頭上に乗っているようだ。
見事に鍛え上げられた肉体を誇示し、二人の剣士は長剣を構える。その片刃の剣は、黄金色に輝いていた。鍔は無く、根元のあたりには何か文字が彫られており、その文字は鬼火のような紅い光を放っている。
魔族の戦士達は、怯えたように、後づさった。明白に長身の剣士達に、威圧されている。ケインは感嘆した。自分達の時とは、全く逆の立場にその異相の剣士達はいる。
「やりなさい、フレディ、アニムス」
降りた所は、大広間のになっていた。
「おい、」
ゲールが、絶望的な声を出した。
「嘘だろ」
そこには、十人以上の魔族の戦士達がいた。一人残らず、漆黒の肌の上に銀の鎖帷子をつけ、抜き身の剣を提げている。
その天空に輝く満月のような瞳が、ケイン達を見つめた。黒曜石の彫像のごとき、漆黒の屈強の肉体からは、闘竜のような生命力に溢れている。そして彼らの周囲から、ぞっとするような瘴気が漂ってきた。
「ふっ」
金色の髪をかき揚げた魔族の戦士が、蔑みの笑みを見せ、呟く。
「戦いの前に、家畜が迷い込んできたようだな。とりあえず、腹ごしらえとするか」
奈落の底のような闇色の顔に、野生の獣のような、高貴で美しい笑みを浮かべ、その戦士は一歩踏み出す。
ゲールが絶叫し、走りだした。火砲が火を吹く。その榴散弾は、上方へ逸れた。
膝をつき、うずくまったゲールの背中から、剣の切っ先が見えている。
先頭に立っていた魔族の戦士が、剣を放ったのだ。魔族の戦士は、野獣のような優雅さをもって、うずくまったゲールに近づく。頭を掴み、顔を上げさせると、無造作に剣を抜いた。
ゲールは、屠殺場で殺される動物のように、力無く泣いた。ケインは一瞬、全身が凍り付くような、冷たい波動を感じる。渦巻くような、強烈な瘴気があたりを満たしていた。
麻薬の幻影の中にいるように、世界が歪む。その中で、魔族に頭をつかまれたゲールが、幾度か痙攣する。やせ衰えた老人のように変貌した、ゲールの死体を、魔族の戦士はゴミ袋を捨てるように、投げ出す。ケインは自分の足が、震えているのを感じた。
残りの魔族たちが、ケイン達を見つめている。逃げようにも、足が動かなかった。
後ろをみせれば、ゲールのように、剣を投げつけられるような気がする為だ。
「ま、ひとつやれるだけ、やろうや」
ジークが、妙に晴れ晴れと言った。ケインも覚悟を決める。本当に、家畜のように、黙って殺される気は無い。
ケインは、想念をまとめ始める。いきなり闇水晶で斬りかかるつもりだ。闇水晶で首を落とせば、魔族といえ、生きてはいまい。
ジークも左手を掲げ、すり足で魔族達へ近づいてゆく。ケインはジークの後ろについた。捨て身で戦って、活路を見いだすしかない。
突然、魔族の戦士達が、踵をかえした。ケイン達と反対方向へ、歩いて行く。ケイン達など始めから存在していなかった、というように。
広間の反対側にも、階段がある。その階段の奥から、足音が聞こえていた。魔族の戦士達は、散開して待ちかまえる。
「へぇっ」
ジークが感心する。
「やつらに、戦う気を起こさせる相手が、来るみたいだぜ」
確かに、ケイン達と対峙したときの魔族達には、鼠をいたぶる猫のような残忍さしか無かった。今の魔族達には、戦う者の持つ、緊張感が感じられる。
そして足音の主達が、姿を現した。先頭は、煤色のマント纏ったブラックソウル、そしてその背後に長身の戦士が二人、さらにその後ろには、黒衣の魔導師ドルーズにクリスが続く。さらにその後ろには、大剣を背負ったマント姿の人物がいる。
ブラックソウルは、パーティ会場に遅れて現れた主賓のように、微笑んでみせる。
その体には、さっきケイン達が浴びたものとは比べものにならないような、暗黒の波動が浴びせられていた。ブラックソウルは、常人であれば衰弱して即座に昏倒してしまうような瘴気を、そよ風ほどにも感じていないようだ。
見ているケインのほうが、吐き気を感じ始める。広間の反対側であるにもかかわらず、目眩を感じさせるほどの精神波を、魔族達は発していた。ブラックソウルは、楽しげに言う。
「やれやれ、またですか。逃げ出してもいいんですよ、クレプスキュールの皆さん。
あなた達を殺すのは、本意じゃない。欲しいものさえ得られれば、さっさと帰ります」
魔族達は、無言であった。ブラックソウルは、微笑む。その笑みには、侮蔑が混ざっていた。
「家畜とは、口をきかない、ということですか。じゃあしかたありませんね」
ブラックソウルは、後ろへ下がる。剣を提げた、長身の戦士達が前へ出た。その戦士たちは、異相の持ち主である。
その顔と腕には、炎を思わす形の入れ墨がなされていた。両腕の入れ墨には、何か呪術的な意味を持つ文字が、組み込まれている。
体には、ごく軽い革の防具のみを、つけていた。頭の髪は、頭頂部のみを残し、全て剃り上げられている。むき出しになった側頭部にも、火焔の入れ墨は彫られており、隈取りされた顔は、伝説の魔物を思わせた。
そして頭頂部に残った紅い髪は、天に向かって逆立てられている。まるで、燃え盛る炎が、頭上に乗っているようだ。
見事に鍛え上げられた肉体を誇示し、二人の剣士は長剣を構える。その片刃の剣は、黄金色に輝いていた。鍔は無く、根元のあたりには何か文字が彫られており、その文字は鬼火のような紅い光を放っている。
魔族の戦士達は、怯えたように、後づさった。明白に長身の剣士達に、威圧されている。ケインは感嘆した。自分達の時とは、全く逆の立場にその異相の剣士達はいる。
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