世界を救ったゲーマー・ファントムMAYAは、異世界で竜と戦う

ヒルナギ

文字の大きさ
25 / 40

第25話「おれたちは異世界へと旅だった」

しおりを挟む


「そして、もうひとつ」


 クラウスは、おれたちに語る。


「ランゲ・ラウフを格納した要塞監獄には、ひとりの囚人がいる。ぞのおとこを殺してほしい」

「はあ?」


 おれは、眉をしかめる。


「なんだそりゃあ、誰なんだよ」

「ジークフリート公子。僕の兄だよ」


 おれは、苦笑する。


「どういうことなんだよ。なんで兄貴を、殺さないといけないんだ」


 クラウスは、いつものように薄く微笑んでいる。 

 穏やかな笑みを浮かべる顔から、感情はよみとれない。

 クラウスは、静かにいった。


「ジークフリート公子が死ねば、王位継承権が僕のものになる」


 おれは思わず、声を出して笑った。


「おいおい、あんた王になる気なのか、クラウス」


 クラウスは、珍しく少し困った顔をする。


「王位につく前提で、支援をしてくれている貴族たちもいてね」


 ドクターが、げらげら笑う。


「世界を滅ぼうとしているやつを王位につかせるなんざ、狂ってるな」


 クラウスは、肩をすくめた。


「王国の滅びと世界の滅びが同時であれば、それを誉れととらえるひともいるんだよ。しかしね」


 クラウスは、少し真面目な顔になった。


「君たちは、世界が滅ぶとはどういうことだと思ってるんだい? ひとの世が滅ぶことかい? 大地が裂け空が墜ち、海が地上を飲み込むことかな?」


 ドクターは、皮肉な笑みをみせる。


「それじゃあ、単に世界が変容するだけだな。まあ、おれはそれで十分だ。ひとつの時代とともにおれが終わるなら、確かに誉れといえる」


 マザー・ロシアが、凶悪な笑みを浮かべながら口をひらく。


「この世界が意味を失い、屍を晒す。それを見届けるのが、望みだ」


 クラウスは頷くと、今度はおれを見つめた。

 おれは、肩をすくめる。


「終わりはまた、はじまりである。許されるなら、向こう側へゆきたい」


 クラウスは、我が意を得たというようにゆっくり頷いた。


「この世の理から逃れたければ、それを滅ぼすのが近道。僕は向こう側の風景を、みたいんだ」


 クラウスはそういうと、深い憧れに眼差しを輝かす少年のような顔をした。

 おれたちは笑い声をあげ、クラウスは少しはにかんだような顔をする。

 おれたちはそして、要塞監獄で使う武器をかきあつめた。

 狭い空間での戦闘用に、外骨格マニュピレータの試作品なんていうマニアックなものまで入手する。

 作戦決行し異世界にいく日付が近づくにつれ、おれたちは少しばかり不安になった。

 ファントム・マヤの頭にクリスマスがいるというエビデンスは、クラウスがそういったという事実だけである。

 もしクリスマスがマヤの脳にダウンロードされていなかったら、おれたちはトラックでひき逃げをやらかすだけという冴えない事態に陥ってしまう。

 おれたちは、試しにマヤに戦闘支援システムの構築を発注することにした。

 クリスマスが非凡なプログラマであれば、きっとマヤの造るシステムも非凡なものであるはず。

 おれたちは、そう考えた。

 おれはシステム構築を発注し、出来映えをドクター・グラビティに確認させる。


「まあまあだな」


 ドクターは、ディスプレイを眺めながらふんふんと頷く。


「それなりに、よく出来てる。あの安い発注額からしたら、驚異的といってもいい」

「じゃあ、天才の仕事といっていいのか?」


 ドクターは、皮肉な笑みをみせた。


「こんなものは言ってみりゃあ、部品の組立だ。短時間にひとりだけでやった仕事と思えば、瑕疵がないのはたいしたもんだが天才といえるかはどうかな」


 おれは鼻をならし、ドクターは肩をすくめる。

 おれは、追加発注をしてみた。

 常識はずれの短納期で、とてもひとりではできない改修量の仕様追加をする。

 マヤは、その常軌を逸した注文に対してもちゃんと期限内に納品してきた。

 今度は、ドクターも舌をまく。


「一晩でやってのけたとすれば、凄すぎるね。クレイジーだ」


 おれは、うなずく。


「じゃあ、天才認定でいいな」


 ドクターは、うなる。


「天才かどうかはしらんが、まともではない。人間離れしているのは、確かだ」


 いずれにしろその時点では選択の余地は無かったため、予定通り作戦は決行することになる。

 おれたちは、とある廃ビルを丸ごと買い取りそこに様々な機材を置いていた。

 異世界に身体ごと転生できるのは、マヤだけだ。

 おれたちは異世界にある人形へ記憶を送り込むが、身体はこの世界に残る。

 おれたちの意識は異世界の人形と魔法的にリンクがはられることになり、おれたちの身体は仮死状態となるようだ。

 だから、その間廃ビルの一室に設置したアイソレーションタンクに身体を格納し、点滴と呼吸装置で身体を維持しておくことになる。

 マヤにぶつけるM939トラックは自動運転装置を取り付けており、100メートルほどの距離を無人で走行させてマヤにぶつける予定だ。

 クラウスはマヤの転生に関係なく自力で異世界へ戻れるので、最後のコントロールはクラウスにまかせることになる。

 おれたちは状況開始前の、最後のブリーフィングを行った。

 異世界にゆくのは、おれとドクター・グラビティ、マザー・ロシアに、アフガンでタリバンと戦っていた元少年兵のブラック・デスと、南スーダンで少女兵をやっていたナイト・ビッチ、合計五人となる。

 異世界にはクラウス配下の傭兵がいるようだが、どこまで信用できるのかわからない。


「僕たちの時間は、限られている」


 クラウスが、いった。


「作戦開始後24時間以内にけりがつかなければ、僕たちの負けになる。人形へ記憶をダウンロードする時間は個人差があり、君たち五人同時に目覚めるとは限らない。ダウンロードは最大8時間かかる可能性も、ある。だから、最低四人目覚めれば予定の威力偵察は、実施する」


 おれたちは、頷く。

 誰が欠けても、作戦行動ができるようにはしてあった。


「君たちの身体を模倣した人形は、ひとりに二体ずつある。つまり君たちは一度は死ぬことができると思ってもいい」


 おれたちは、うなずく。


「ただ、死ぬことは極力さけるべきだね。バックアップ用の二体目の人形には、一体目が死んでから記憶をダウンロードする。混乱を回避するには、そうする必要があるからだ。時間のロスが発生するし、そもそも死ぬことは苦痛をともなう」


 おれたちは笑ったが、クラウスは真面目な顔を崩さない。


「人形の死であっても、魂は傷つくと思いたまえ。避けれるものなら、さけたほうがいい」

「魔法使いになるために死んだ奴に、いわれてもな」


 苦笑まじりにいったおれの言葉に、クラウスはいつもの穏やかな笑みをかえす。


「まあ君たちなら、死なずに勝利できると信じている」


 どういってクラウスは、ワインの瓶をてにとるとグラスに注いでゆく。


「では、武運を祈り乾杯しよう」


 クラウスがワイングラスを掲げ、おれたちもグラスを手にとる。


「世界の終わりに!」


 クラウスの声におれたちは頷くと、ワインを飲み干した。

 クラウスの用意した高級ワインはなぜかおれには、血の味に感じられる。

 おれが、おれたちが過去に流しこれから流すであろう血の味に。

 そしておれたちは、剥き出しのコンクリートの床に置かれた、アイソレーションタンクの中へ入る。

 クラウスが、ひとつひとつタンクの蓋をを閉ざしていく。

 エプソムソルトを溶かし込んだ液体に満たされたタンクの中で、呼吸装置と点滴チューブをつなぐとおれたちは闇へと沈む。

 おれは音もなく光もない世界で、重力から切り離された浮遊感を感じる。

 気がつくと、おれの意識は無限の闇へと落下していた。

 おれはもの凄い勢いで、墜ちていく。

 直感的に墜ち行く先に、異世界があると理解する。

 そのままおれの意識も、闇へ墜ちていく。

 かくして、おれたちは異世界へと旅だった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

処理中です...