37 / 40
第37話「我が心臓を喰らい、敵を滅ぼせ」
しおりを挟むマヤは、氷の刃のような殺気に全身を貫かれる。
マヤは、ハイ・ヨーヨーに入ると同時にヘンシェル・ロケットを切り離した。
ビームが放たれ、アイゼン・ジャックの空力パーツが吹き飛ぶ。
しかしシュヴァルツの放ったビームは僅かに逸れ、アイゼン・ジャックの装甲の表面を切り裂いたにとどまる。
ヘンシェルを切り離すことで、少しだけ上昇速度が上がり致命傷は避けられた。
だがビームはアイゼン・ジャックのアビオニクスを一時的に混乱させ、マヤの意識を一瞬闇にしずめる。
同時に、アイゼン・ジャックは空中で制御を失ったかのように錐揉み状態に入った。
マヤは飛行形態を解除しており、アイゼン・ジャックは人型の外骨格マニュピュレータとなっている。
鋼鉄の白い騎士は、夜の闇でコントロールを失い暗い河へと墜ちていくようにみえた。
シュヴァルツは、ゆっくり旋回しようとしている。
アイゼン・ジャックがシュヴァルツの真後ろにきた瞬間に、マヤはバーニアを一斉に点火し錐揉み状態から回復した。
アイゼン・ジャックは奇跡のように絶妙なタイミングで制御をとりもどし、シュヴァルツのバックをとる。
しかしシュヴァルツは、それをよんでいた。
シュヴァルツも飛行形態を解除し、人型となるとアイゼン・ジャックと対峙する。
その様は、まるで。
夜空で西部劇のガンマンがふたり、相対したかのようだ。
二体の外骨格マニュピュレータは、夜空を暗い河に向かって墜ちてゆきながら向かい合う。
西部劇の、ガンスリンガーが行う勝負がごとくに。
速く抜いたほうが、勝ちというわけだ。
暗闇を切り裂き、二条のビームが交錯する。
アイゼン・ジャックの右腕が吹き飛び、マヤの石化した腕が剥き出しになった。
シュヴァルツのボディにビームが命中し、漆黒の装甲が炎に包まれる。
赤く燃えるシュヴァルツは、闇の流れる河に向かって墜落してゆき、アイゼン・ジャックはバーニアを点火して夜空へ上昇した。
白い装甲のアイゼン・ジャックは、無慈悲な夜の女王がごとく夜空に君臨する。
それはおそらく、ほんのコンマ・ゼロ秒レベルの差であった。
ひとがひとである以上、のがれることのできない本能的な忌避。
それがキャプテン・スターアンドストライプスにはあり、マヤにはなかった。
少なくとも、ゲームの世界では。
そして今宵世界は、ゲームの世界となったのだ。
キャプテンの上機嫌な声が、入ってくる。
(楽しませてもらった。ヴァルハラでまってるぜ、マヤ)
マヤは、鼻で笑う。
「うちは仏教なんで、それはないな。全ては、風の前の塵と同じだよ」
キャプテン・スターアンドストライプスの笑い声が闇の中へと消えてゆく。
全ては、60秒以下の出来事である。
戦闘を開始してから、一分を越えていない。
マヤはため息をつくとアイゼン・ジャックの機体を翻し、目標を持たずに夜をさすらうヘンシェルを追った。
◆ ◆ ◆
クラウスは、飛空船の艦橋に設置された作戦テーブル上に広げられている、地図を見ていた。
プロジェクターにより投影されていた敵味方の所在を現す輝点のほとんどが消え、残るはデルファイからきたという敵の輝点のみとなっている。
あとは自らが最後の戦いを行い、勝つにせよ負けるにせよ幕を引くだけだと思う。
けれどなぜかクラウスのこころは目の前の戦闘ではなく、過去の思い出に向いている。
幼い頃、クラウスの年の離れた兄であるジークフリートは、クラウスのもとを訪れ色々な話をしてくれた。
かつて、こんなふうに地図をみながら話をした記憶がある。
ジークフリート公子は、世界地図を指さしこう語った。
(トラキアの東には、王国領のオーラがありそこには巨大な水晶の塔が聳えているんだ。そしてさらに西の端、トラウ
スには世界樹といわれるユグドラシルが聳えている。その樹の根本には今や失われてしまった、黄金の林檎があったという。そしてそこからさらに西へゆくと、魔道王国アルケミアがある。高く聳えるテーブルマウンテンの頂上にあるアルケミアが、大陸の西端となるね)
幼き日のクラウスは、こうたずねた。
アルケミアの向こうには、いったい何があるんだろう。
ジークフリートは、答える。
(ただひたすらに、海がひろがっているんだ)
クラウスは、さらに問う。
その海をずっと渡っていくと何があるの。
ジークフリートは、少し笑ったように思う。
(さあね。そこまで行ったものはいないからね。深淵に向かって海が流れ落ちていくのを見られるというひともいる。あるいは、終末の日に世界の全てをのみこむというウロボロスの輪にたどり着くというひともいるね)
幼き日のクラウスは、その言葉に魅了された。
世界の果て。
いつの日か、そこを見てみたいと思った。
しかし、今の彼は知っている。
たとえどこまで行こうと、自分の中から出ることはできない。
だから果てにたどり着こうとも、そこからまた世界が構成されていくだけなのだと。
世界から出るには。
自分から出なければ、ならない。
唐突に作戦テーブルに置かれた無線装置が、声を発する。
それは、彼の兄であるジークフリート公子の声であった。
(クラウス、聞いているかい、クラウス)
ふいをつかれたクラウスは、反射的に答えてしまう。
「兄さん」
(やあ、クラウス。久しいな。時間がないので、さっそく本題に入る)
ジークフリートは、世間話でもするような自然な調子で話を切りだした。
(クラウス、君に勝ち目はない。投降することだ)
クラウスは、苦笑を浮かべる。
「一体僕に投降させて、何をさせようというんだい」
(君の魔法を封印した上で、位と役職を与える)
クラウスは吹き出す。
あいかわらず、破天荒ででたらめな兄であると思う。
「そんなことをするには、何百人も粛正しないと無理だよ、兄さん」
(いや、そんなことはない)
ジークフリートは、落ち着いた声でかえす。
(少なくとも、何千人かを殺すことになるね。百では無理だよ)
クラウスは、乾いた笑い声をあげた。
それではトラキアにいる位のある貴族が、全滅する。
「兄さん、そういうのはもういい。もう、沢山だ」
ジークフリートは、しばらく沈黙する。
(判ったよ、クラウス。話はこれで終わりだ。君の武運を、祈る)
クラウスは、そっと微笑む。
「兄さんにも、女神フライアの加護があらんことを」
始まったときと同様に、唐突にジークフリートとの会話は終わった。
クラウスは、虚空を見つめると叫んだ。
「メリュジーナ! 契約に従い我が前へ」
邪悪な笑みを浮かべる赤いおんなが、蛇のような尾をのたくらせつつ姿を現した。
クラウスは、陶酔したような笑みを浮かべ古き竜をみる。
短剣を取り出し、左胸にかざす。
「メリュジーナ、最後の戦いだ。我が心臓を喰らい、敵を滅ぼせ!」
赤いおんなは、嘲るように嗤うと舌なめずりをした。
そして、短剣が突き立てられ深紅の花が咲く。
0
あなたにおすすめの小説
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる