君となら

紺色橙

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 生活コンテンツやハウジングは一部にとても人気がある。SSRも例に倣って、そこに力を入れているようだった。もともとゲームの目指すところが何でもできるなのだから、身の回りに力を入れるのは当然かもしれない。

 しかし、――

「ゲームの中だよな。今」
「うん」
「完全に、仁の家じゃん」

 町の一角にあるアパートのドアを開けると、そこはもう仁の家だった。リアルの、仁の家。そうとしか言えないほどに町の外とは違い現代的で、細かな部分まで似通っていた。
 部屋の隅にあるガラスケースのフィギュアもポスターも、物は違うかもしれないが"そこに在った"まま。並ぶモニターは暗闇を写していたが大きなベッドも配置も、全部同じだった。
 窓から見える風景はのどかな自然を写していて、町の中ではありえない風景だった。

「どーなってんのこれ」
「ドアは個人所有ではなくて、個人所有の家に入るためのただの入り口なんだよね」
「インスタンスダンジョンみたいなもんか」
「そうそう。庭も持てるよ。広い家や庭を持つのはお金かかるけどね」

 家をただの荷物置き場にする人はいる。オレなんかはそうだ。インテリアとかに興味が無い。そういう場合は狭い家にベッドやら風呂やら必要なものだけを設置しておけばいいんだろう。手を入れたい人は、貴族の屋敷のような広さと庭を頑張って買えばいい。

「家具とかは生活コンテンツ担当が頑張って用意してます」
「頑張り過ぎだろ」
「幸いこういうのが好きな人で。一人じゃないから安心して」

 ぽんと机の上にアンティークのようなランプが出た。現代的な家を作ったのとは違う人が用意したんだろう。各々好きな系統をまず作っているというのなら、この細かな空間もありなのかもしれない。

「で、お風呂はこっちね」
「服脱げるの?」
「脱げるよ」

 真っ裸というのは無いと無意識に思っていた。装備を外したところで簡素な下着姿になるだけで、それをさらに脱ぐことは出来ないって。
 だけど、入れられた風呂場で白い衣装を脱いだ後下着に手をかけてみれば、するりと脱ぐことができた。

「マジかよ!! 大丈夫なのかよこれ!?」

 理想の女の子の体を持っている自分。豊満ではないが女性らしい曲線と滑らかな肌。それを自分で洗うことになった。

「うああ……」

 自分の手で自分を触っているのに、ひたすらやましい気持ちになる。誰ともなしにごめんなさいと頭の中で繰り返した。

 固形石鹸を泡立て洗い流せば、自分の状態が良くなることが分かった。見えないところでステータスが低下していたんだろうとゲーム思考になる。
 シャワーを止め緑がかった湯の満ちた浴槽に入る。青臭い葉っぱのような薬っぽい匂いを、花の匂いでかき消しているようだ。何かの効果バフをつけているのかもしれない。たとえば、疲労回復速度上昇とか。

「ふぅ」

 ゲームの中だからステータスの変動がはっきりしていて、浸かっていれば疲労値ががんがん減っているのが分かる。リアルのオレは登山中も今も変わらず、ただベッドに横たわっているだけのはずなのに。
 白竜は美しかった。南の山から見た星空も、美しかった。寝ながらそれを見ているオレは、夢見ているようなものなのかもしれない。

 風呂場から出ると既に乾いた状態だった。下着をすでに身に着けていて、長い髪も元通り。入るときの状態になるんだろうか。
 とりあえず初心者の布の服を身に着けた。鞄に入っていた、たいして着ていないから汚れていないものだ。

「なぁ仁、白い服ってどうしたら綺麗になる?」
「洗濯機使えばなるよ。手洗いって方法もあるけど、どっちも同じ」

 洗濯時間はなんと、1分だった。機械すげー、ではない。あくまでもそういうゲーム設定だからだ。手洗いだともう少し時間がかかるらしい。1分で取り出せた白い衣装は、新品と言っても過言ではない。このひらひらのめんどくさそうな服が容赦なく洗えるのはゲームならでは。きっとリアルだと優しく洗ってやらなきゃいけないだろう。

「便利すぎる」
「あくまでもそういう形だからね。そこに時間かけてもあんまり」
「でも風呂はそこそこ時間かかった」
「風呂と料理はやりたがる人がいるから長くてもいいかなと」
「ああ」

 確かに。アニメ作品でもやたらと風呂に入ったり料理したりしている。この世界でも真っ先に生まれる専門職はシェフだろう。

 開いたインベントリに入れた服を選択するだけで着替えは完了した。白いひらひら。やっぱり美少女は服も可愛くなきゃ。

「俺もはいってくるよ」
「風呂って複数人で入れんの? 温泉とかもどうせあるんだろ?」
「入れるけど、初回は驚きがある方が良いかと思って。次は効率的に二人で入ろう」

 効率的に。風呂はあくまでもバッドステータス解消のためでしかない。



 登山で疲れて風呂に入って癒されて、勝手にベッドに転がれば、そのまま眠ってしまえる気がした。リアルのオレと同じように横たわる。電気の通っていないモニター側を頭にして、大きく開かれた引き戸を閉じない限りはリビングが見える。リアルそっくりに作られた仁の家。
 ベッドに座った時の沈みも、シーツの感触もそのまま。横たわったオレはリアルよりは小さく細いけれど、こうして仰向けで手を開いた姿は同じ。長いツインテールは自分には無いものなのに邪魔ではなく、扱いを知っている。柔らかなスカートだってまとわりつかない。

「アキラ?」

 オレを呼ぶ声がする。

「いた。帰ったのかと思った」

 ゲーム内でオレの家はまだないというのに、どこに帰るというんだろう。今だとログアウトだろうか。
 体を起こし、立とうとすればそのままでいいよと制された。

「この部屋入れるのってフレンド限定とか?」
「設定できるよ。鍵を付けるか、開けっ放しか、フレンドとか限定か。アキラは今結婚相手だからいつでも入れるように設定してる」
「入り口のドア開ければあの町に出るの?」
「そうだよ。入ったところに出る。まぁドア介さずともテレポートで出ることも可能だけどね」

 ただの専用マップなのだから、脱出方法はいくらだってあるだろう。ゲームだから引っかかるなんてことも発生しそうだし。体半分壁に埋まるとかホラーだな。

 オレたちは確かにここにいて、だけどこれは作られたお人形。

「てかさ、服脱げるのありなの?」
「……ゲームを始める時に確認されたよね、年齢」
「された」
「個人領域では、接触可能になってる」
「教会でさっきキスしたじゃん。手も繋いでた」
「それ以上もってこと」

 それ以上。口の中で呟いた。

「アキラは興味あるって言ってたよね」

 仮想現実のゲームはたくさん出ている。特にエロいものには興味があったが、どれもそれなりに出来が良いと言われているものは機器ハードが高かった。専用の機器が無ければ接続することは出来ず、だけど引きこもりニートにそんな金は無い。中古で買うのもゲーム内容的に気が引けて、仁にはやってみたいなぁと零すだけだった。

「試してみる?」
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