それは愛か本能か

紺色橙

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第一章 宮田颯の話

1-17 タコ焼きの上でふよふよ

 傷跡を隠せるわけもなく、日暮にじっと見つめられるのに負けるように報告をした。
「だろうなとは思ってた」
「思ってんなら聞くなよ」
「万が一違ったらめんどくさい勘違いになるだろうが」
 言ってることは間違っていない。
 ここいらに居るはずのないアルファが突然関連してきたことで、間違えるようなこともあんまりない気はするけれど。

「机退かせー。部活行くやつはもう行っていいぞー」
 朝の挨拶もそこそこに、先生から指示が飛ぶ。
 配られた文化祭のパンフレットを鞄にしまい席を立った。
 この教室はパソコン部が使うらしい。提出された使用数を残し、使わない机も椅子も他の教室に持って行く。
「じゃあな」
 日暮は部活の方に行ってしまう。残された暇人たちで片付け始めた。

 数度往復し教室を片付けてから移動する。
 文化祭なんてものはやっぱり今年で終わりの三年がメインで、二年の俺はあっちにこっちにふらふらするだけ。
 上条はせっかくだからと誘われたまま先輩たちを手伝っているようだった。
 ちまちまと飾りの花を増産している姿もなかなか面白かったし、自分から声をかけるから荷物持ちもしているようだった。
 声をかけることはせず、すれ違う時にただ目を合わせる。
 俺が見ている事にはすぐ気づくのか、一方的に見ていても目は合った。

 校門から校舎へと続く生垣にもポスターを張り付け、途中先生に呼ばれテントの組み立てを手伝った。
 天気は良く、今週末も晴れる予定だ。
 
 当日はどうしようか。
 希望を出した通りのゴミ回収以外することは無い。
 この文化祭準備の間上条が誰かに誘われるというのなら、あいつはそっちに行ってもらったほうが良いだろう。
 あいつがここに来た目的は俺を探すためで社会見学ではなかったが、ついでだ。ちょうどいい。


***


 文化祭当日。
 桃からの連絡はまだなかった。
 上条と番になったあの日から、3日経つ。
 桃と連絡が取れなくなってからも同じだけ経つ。
 家を知っていたら倒れていないか見に行くこともできたけれど、俺は何も知らない。
 桃の名前だって本名ではないし、家の住所も知らない。働いているところも。
 
「颯君、どうかした?」
「あー、いや、なんでもない」
 美化委員もどきとしての仕事時間は決められている。
 俺がやるのは土曜日の11時と14時。明日は無い。
「どこいく?」
 用が無いから11時ぎりぎりに来て、まだあまり溜まっていないゴミは捨て終わった。
 今日はさすがに邪魔になるから車で迎えに来るのはやめてもらった。
 上条は学校近くまで車で送ってもらい少し歩いたという。
「日暮君の所に行こうか」
「ああ、飯食う? いるかわかんないけど」
「居なかったらまた後でにしてもいいし」
「そうだな」

 上条は日暮と結構仲良くしている。
 それを言うと、颯君のことを教えてくれるからと言われた。
 上条はここに来る前俺のことを調べたという。
 名前も住所も当然知っていて、親がどこで働いているのかも知っている。
 俺がオメガとして経験を持たないことまで知っていた。
 やっぱりストーカーじゃねぇかと強く言えば、必要だったと返された。

 上条は俺のことを全肯定するかの如く居てくれるけれど、上条の父親はやはりそうではないらしかった。
 アルファの父とアルファの母。そしてアルファの兄たち。
 上条はアルファの妻を貰うことが予定されていた。二人の兄は既に女性のアルファと見合い結婚を済ませていて、子供もいるのだという。
 父親の兄弟たちも同じようにアルファ同士の見合い結婚をしているという。
 運命なんかに囚われず、きちんと優秀な子孫を残している家系。
 それなら上条だって俺なんかにかまわないほうがいい。運命なんかにかまわないほうがいいと思った。
 でも、上条はそんな俺に対してこういう家だからだ、と返した。
「兄弟や従弟がたくさんいるんです。僕一人くらい子孫を残さなくても構わない」
 男のオメガが子供をほぼ生まないことを上条は当然わかっていた。
 父親もそれをわかっているからこそ反対したのだろうが、生まないからこそ自由にできることもあるのだろうか。
 下手にオメガなんかと子を作るよりも、子供ができないほうがいいと思ったのかもしれない。
「同じことを兄たちも言って説得してくれました」
 俺が会ったあの辰巳さんも、運命を探す支援をしてくれたのだという。


「おー、来たか」
 頭にタオルを巻いた日暮は、部活員とお揃いのTシャツを着ていた。
 教室の外にまで漂う焼けたソースの匂いの真ん中にいる。
「上条どうする?」
「半分ずつ食べますか」
「いいよ。他のとこも行くだろうし」
 たこ焼きとお好み焼きを一つずつ。注文を出せば日暮は言っていた通り、すでにパッケージに入っていたたこ焼きに二つむぎゅっと足した。
「まいどありー」

 教室に置かれた向かい合わせの4つずつのテーブル。
 空いている席に座り割りばしを渡した。
「意外にちゃんと働いてたわあいつ」
「凄く似合ってる」
「なー」
 呼び込みの声も大きく、人が釣られるように入ってくる。
 教室を見回せばタコやらたこ焼きに顔がついたものやらが紙で作られ飾られていた。
 黒板には大きくバスケ部と書かれている。
「小さいころ、おかかは生きてるって聞かされてた」
「信じたんですか」
「3歳くらいの俺なら信じてたんじゃね」
 おかかはたこ焼きの上でふよふよ泳ぐ。
 匂い対策の為か教室の窓は少し開けられていて、飛んで行ってしまいそうだった。
 むぐむぐと食えば、上条はそんな俺を嬉しそうに見ていた。
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