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煮卵

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二人の間に軽い沈黙が訪れる。田中が何か言葉を継ごうとすると曽宮が話し出した。

「田中さんさあ…連絡先交換しない?」
「……」
「ねえ」
「……ごめんなさい」
「体の相性はいいと思うんだけど…」
「ごめんなさい……」
「だめかー」

曽宮の悲しそうなその笑顔に胸がきゅんとなる。

「また会いたいな」
「……」
「駄目かな?」
「……」
「…アプリでメッセージ送っていい?」
「……」
「どうしても嫌なら諦めるけど」

「……貴方は、凄く素敵な人だと思います。でも、何というか、今はとても恋人を作る気分じゃないんです…いろいろ」
「よければ…聞くよ?」
ピッタリと体を添わせるように抱き寄せられる。優しく肩を撫でる手に絆されるように、田中は自分の境遇を話し始めた。

「5年前に親から会社を引き継ぎいだんですが、潰れそうなんです…この感染症の流行で取引先がどこも商売ができなくなってしまって…」
「そっ…か…大変だったね…」
「江戸時代から続く老舗の会社で…僕の代で潰してしまうのが本当に心苦しくて…」
「でも、それは田中さんのせいではないでしょう?」

「そう、なんですけど、やっぱり自分が悪いんじゃないかって思ってしまって……明日会う一社との話が纏まらなかったら、もう会社を畳まないといけないかも知れなくて…」
「大丈夫。きっとなんとかなるよ」

曽宮は田中の頭をそっと抱きしめた。
「曽宮さん……」
「明日大事な仕事があるのに遅くまで付き合わせてごめんね」
「いいえ。午後からなので…。でも、僕はもう自分の部屋に帰りますね」

ベットの足元に畳んであった自分の服手繰り寄せる。

「うん。今日はありがとう」
「いえ。こちらこそ、色々とお世話になりました」
「うん、またね」
またねの言葉に田中は僅かに笑った。

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